24/03/01 喜多嶋隆 恋のぼり 二人で見ていた、あの空に | ptureのブログ

この作家の好きなところきた。葉山の、大きいけれどオンボロの家に住む咲と息子の航。夫は交通事故で他界。そのショックで航くんは心を閉ざし一切喋らないどころか感情も表れない。全く華々しくない葉山。埃っぽく、それでいてきれいな海。足元はたいていゴム草履。咲の学生時代からの友人の知美もべったり彼女を支えようとせず、求められたらさりげなく助けるみたいな感じ。咲は状況を受け入れて、悲嘆することなく、さり気なく懸命に生活している。この感じが実にハードボイルドで、好きなんだよなあ。親子は堤防で釣りをしている中国の青年に出会う。彼は航に釣りを見せ、釣り竿を握らせ、魚を釣る喜びを思い出させる。感情はあくまで控えめで、静かなんだけど、いいんんだよなあ。心がすこしづつつながっていく感じが。中国の青年っていうのもいいじゃないか。葉山が舞台だから自然なんだろな。これが九十九里だったら、どこから中国の人がってなっちゃう感じがするし。そして、きらびやかに感じる葉山が実は田舎って描写もこれまで読んできたこの作家の本と一緒。一気に庶民が住んでいる海辺の町になるんだよ。そしてそれが大好きだ。ストーリーはこの二人のいうなれば、結ばれない愛の物語ってところで、それはそれで、感情を抑えた描き方がいいんだけど、やっぱ舞台描写が素晴らしい。そうそう、咲の旦那との馴れ初めと家族3人での、金はないけど幸せな生活ぶりがこれまた印象的だった。旦那、そばやで働いてて、スポーツインストラクターの咲が、仕事後に立ち寄りカツ丼食べたりってところ、うまそうだったな。ハッピーエンドではなかったけど、それもありだなと納得できる。おもしろかった。