普段行なっている関節可動域練習について、短絡的なストレッチの実施が問題とされることが聞かれています。今回は仮想の症例も合わせてどのように関節可動域について考えていくかを解説していきます。基本的には言われれば分かることですが、知っている事と理解している事、できる事は別物であると考えているため自分への振り返りも込めてまとめました。
今回のテーマは関節可動域制限に対する考え方の振り返りです。普段自分が行なっていることを考えながら読み進めていただければと思います。
関節可動域制限は遭遇する機会も多く、それに対する治療技術も多く存在しています。しかし、練習が本当に必要なのか目的があった上で行われなければ制限が解消されたとしても意味のある治療となり得ません。適切な評価、治療の元で改善が図られていくべきであることを私の経験も踏まえ説明していきます。
関節可動域は評価の結果、制限があるからといって治療を行うといった短絡的な考え方では、リハビリテーションの目的を達成できないと考えられます。私は、関節可動域は動作の根幹を支えるものと考えており、必要な動作において妨げとなる場合に関節可動域に対する考えが必要になると考えています。
そんな関節可動域制限に対する対処について私が普段意識していることがスライドにあげた4つになります。②end feelを感じ取ること、③運動検査での比較3については後ほど解説します。①の関節の構造については解剖学書をご参照ください。正常な構造と対象者の関節を比較することが、どんな障害がどの組織に生じているかを理解する手助けになります。④代償運動がないかについても詳しい説明は割愛しますが、方向や制限のタイミングの乱れがないかを意識することが筋のアンバランスを見極める手助けになります。私は目的動作を根元に置き、この4つを意識しながら評価、治療を行っています。
②end feelを感じ取ることについてです。end feelを感じ取るためには、どんな要因でどんな感じ方になるかを知る必要があり、そのような場合にCyriaxの分類が役に立ちます。疼痛がある場合は、spasmやempty feelが生じる場合が多く、これらは正常では生じません。他の4つは正常でも生じ、主にアライメントのズレによって、そのタイミングや種類が変化する場合もあります。
またどの組織が制限因子となりうるかを合わせて考えていく必要があります。その場合はHoffaの分類が活用できます。ただし、この分類は病変部位と原因が混在しているため、臨床応用には注意が必要です。例えば結合組織性と皮膚性、筋性、関節性の病変組織は重なっている部分があります。しかし本分類はどのような組織が関与するかを理解する上では参考になると私は考えています。
次に運動検査です。制限の感じ方や病変部位について理解できたら、今度はその組織がヒトにとってどのように活用されているか考えていく必要があります。主に検査内容は収縮性組織(主に筋)と非収縮性組織(主に筋以外)に分けられます。この検査方法を分けると、自動運動検査、他動運動検査、等尺性運動検査となります。自動運動検査では、収縮性組織と非収縮性組織の両方を評価でき、他動運動検査では非収縮性組織を評価することができます。等尺性運動検査では、収縮性組織の評価をすることができます。私は自動/他動運動検査では、運動パターン、運動制限、他関節との協調性を見ています。また等尺性運動検査では、筋系/神経系の筋出力に関わる要素について、維持できるか、固定性はあるかなど運動の質を評価していきます。主にこれらを使い分け、どの要素に障害が生じているのかを評価していき、歩行や起立などの動作改善へとつなげていきます。
最後に関節可動域制限がなぜ生じるかについての説明します。発症要因の例としては加齢、罹病期間、ADLレベル、麻痺・痙縮などが関わります。私は、これらから言えることは障害自体が関節可動域制限に関わるが、それ以上に制限が維持された状態(特に不動)がどの程度続いていたのかの情報が重要であると考えています。そのため、運動検査も重要ですが、問診を行い、過去から現在に至るための背景因子について聴取することも重要であると考えています。
では仮想の症例を通して、関節可動域がどのように関わっていくかを解説していこうと思います。
症例は左大腿骨転子部骨折でCHSを施行された方です。目的は歩行自立として、評価と問題点の抽出、治療への示唆を示していこうと思います。本スライドにはリーズニングしていくための情報を簡単に示しています。
本スライドは問題点を図解しています。本症例が問題を起こした要因としては骨折したことと、手術したことが挙げられます。そこから生じるだろう問題点を予測していきます。骨折から予想されることは頚体角が減少することで、それによって結果的に股関節外転筋への要求度が上がることが挙げられます。実際に症例を担当する場合は、しっかりと画像を確認して、できれば頚体角を測りましょう。また手術によって切開された組織は癒着が短縮を生じやすいと考えられています。それによって臀筋群や大腿筋膜張筋、腸脛靭帯へ影響し、股関節外転筋への要求度が上がっている状態と筋力低下が重なり、歩容が崩れると考えられます。
では問題点に対してどのように治療をしていくか考えていきます。まずは筋への要求度があがり、弱化していることから過度に収縮しやすいことが想定されます。また癒着があることからそれぞれの組織が混同して筋の効率的な活動性へ障害を与えていることが想定されます。これらのことから私は、スライドにあるように筋の走行に沿った収縮が行えるように他の組織の伸張や誘導しながらの運動学習を行っていきます。また、不動によりほとんどの組織が拘縮に関わることから、疼痛の生じない範囲での関節可動域練習を行っていく必要があります。
次に運動観察を通して、想定した組織が目的動作である歩行にどのような影響を与えているかを評価していきます。運動観察においては過剰運動部位と固定部位を見極めていくことが、動作の阻害因子を理解する上での手助けになります。本症例ではICからMstにかけて問題があり、その部分に対してのみ今回は解説していきます。過剰運動部位は骨盤の挙上、後方回旋と股関節外転であり、固定部位は股関節回旋となります。過剰運動部位である骨盤挙上は、股関節外転ができないため生じており、骨盤の回旋は股関節内旋が生じないことから起きていると考えられます。股関節外転には臀筋群が関わり、股関節回旋は臀筋群に加え、深層外旋六筋やハムストリングスが関わるとされています。
本スライドでは目的動作である歩行を中心とし、図解しています。治療の目的は骨盤の代償動作が減少し、股関節回旋の可動域が向上するかである。そのために股関節外旋の伸張性向上、滑走性を含む股関節内旋筋強化を行っていきます。仮想症例なので治療結果は載せられませんが、仮説通りであれば骨盤挙上を除く代償動作は軽減するはずです。
終わりに今回解説したことをまとめます。今回は関節可動域制限の評価や治療の考え方について、私が普段意識していることを踏まえ解説しました。私が考える重要な点をあげると、①目的動作を確認すること、②関節可動域制限の発生要因と病態を確認すること、③運動検査からend feelや代書運動などの運動の質の評価を行うこととなります。はじめに意識している事として挙げた4つの部分は②と③に集約されています。①を1番目に挙げたのは前提としてそれだけ重要であるからです。ざっくりした解説で消化不良の部分もありますが、これからまたまとめていければと考えています。今回は載せていませんが、私は学生時代に運動のクセが痛みに繋がると考え、それに関連した卒業研究も行いました。その中で知った運動病理学的モデルの存在とMSIアプローチの理論はとても参考になると考えていますので、興味のある方は一読をお勧めします。
最後になりますが、自分の知識を日々昇華させ、実際に評価、治療を目的動作の獲得のために繰り返していくことや、関節可動域といった局所のみにこだわらず、姿勢や動作といった全体を把握することの重要性も重ねて理解いただきたいと思います。下に参考にした資料を載せます。
(担当:PTN)
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