■柳花詞 二首其一 劉禹錫(りゅううしゃく) 唐の詩人
開従緑条上 開くこと緑条(りょくじょう)の上従(よ)りし
散逐香風遠 散じて香風(こうふう)の遠きを逐(お)う
故取花落時 故(ことさら)に花落(はなお)つるの時を取り
悠揚占春晩 悠揚(ゆうよう)として
春晩(しゅんばん)を占(し)むる
柳絮(りゅうじょ)は緑の枝から白く柔らかい綿を開き
花の香りを追う様に風に乗って飛んでゆく
百花の散る時を殊更に選び
ゆったりと晩春の主役を演じている
■柳花詞 二首其二 劉禹錫
軽飛不仮風 軽く飛んで風を仮(か)ら不(ず)
軽落不委地 軽く落ちて地に委(まか)せ不(ず)
繚乱舞晴空 繚乱(りょうらん)として晴空(せいくう)に舞い
発人無限思 人をして無限の思いを発(はっ)せしむ
柳絮は風の力を借りずも軽く飛び行き
落ちてきても地面に着く事は無い
ふわふわと入り乱れて晴れた空に舞い
人々を物思いに沈ませる
■石頭城
山囲故国周遭在 山は故国を囲んで周(しゅうそう)して在り
潮打空城寂寞回 潮は空城(くうじょう)を打って
寂寞(せきばく)として回(かえ)る
淮水東辺旧時月 淮水東辺旧時(わいすいとうへんきゅうじ)
の月
夜深還過女牆来 夜深うして還(ま)た
女牆(じょしょう)を過ぎて来(きた)り
山は古い都をぐるりと取り囲み
長江の水は人気のない城跡に打ち寄せては、
また寂しくかえっていく
南京の町を流れる??の流れから、古のままの月が昇り
夜が更けると城跡の上に差し昇ってくる
南京を題材にして詠った古を偲ぶ連作だということ。
■烏衣巷
朱雀橋辺野草花 朱雀橋辺(すざくきょうへん)野草の花
烏衣巷口夕陽斜 烏衣巷口夕陽斜
(ういこうこうせきようなな)めなり
旧時王謝堂前燕 旧時王謝堂前(きゅじおうしゃどうぜん)の燕
飛入尋常百姓家 飛んで尋常百姓(じんじょうひゃくせい)の
家に入(い)る
朱雀橋のほとりには野の草が花を咲かせる
烏衣巷の入り口には夕陽が斜めに射している
其の昔、王氏や謝氏の大邸宅に巣を架けた燕が
今ではありふれた庶民の軒先に飛び込んでいる