私はだだっ広い空間の中にいた。
何をしに来たのだろうか…。
…そうだ。
迎えに来たのだ。
あの時の自分を…。
私は「私」を探した。
薄暗い、どこまでも広い空間で、
私は私の勘だけを頼りに私を探した。
私はいた。
薄暗い、小さな部屋の隅に、
一人ぼっちで座っている背中を私は見つけた。
私はそれが自分だとすぐにわかった。
私は駆け寄り、声をかけようとした。
「…」
「彼」は震えていた。
薄暗い小さな部屋の隅で、
あまりきれいとは言えない格好をして、
小さく肩を震わせ、泣いているかのようにも見える。
まだ少年の私だろうか…。
「ねえ…」
私は彼の背中に手を伸ばした。
軽く肩に手を乗せようとしたのだ。
しかしその瞬間、彼はこちらを振り返り、
そして即座に「醜い顔をした獣」に変身し、
私に襲い掛かってきた。
「痛っ!」
鋭い痛みが左腕に走った。
彼、いや獣は、私の腕に噛みついて、
そのまま私を食らおうとしている…。
私は観念した。
というよりも、私はこれが目的でここに来た気がしたので、
そのまま食われることにしたのだ。
「お前の痛みに比べたら、こんな痛みは一瞬のことなんだろう?」
獣は私を食らった。
「私は私に食われた」のだ。
…私はまた広い空間にいた。
そう、私はまた会いに行かなくてはならない。
あの時の自分に。
私はまたあの場所に向かった。
薄暗い、小さなあの部屋の中へ…
そこに「私」はまたいた。
今度は私は、獣のままの姿で、ケロっとした姿で座っている。
そこにまた私が近づくと、
獣は物凄い形相に顔を変化させて、
また私に襲い掛かってきた。
私はまた食われた。
「こんな所にずっと一人ぼっちにしてごめんな。」
「つらかった思い、惨めな思い、無かった事のようにして、
おまえひとりに押し付けてしまってごめんな。」
私は何度も彼に会いに行った。
そのたびに彼は私を食らう。
(…いや、「彼」ではない。彼は私なのだが。)
私は彼の気が済むまで、食われ続けることにした。
…もう何度目だろうか。
私は私に食われに私の場所に向かった時、
私は、獣の私が私を食らいながら泣いているのに気が付いた。
それに気づいて私も泣いた。
私は獣の私に食われながら、彼にしがみつき、
抱きしめようとして、泣きながら言った。
「もうお前の痛みは俺の痛みだから、
もうお前だけの痛みじゃないから、
もうこんな所に置いて行ったりはしないから、
お前の痛みは俺の痛みだから…今まで本当にごめんな…」
その時、彼の私の、私を噛む力が少し緩んだ気がした。
「ごめんな、これからはずっと一緒だから。
一人ぼっちになんかしないから。」
だだっ広い空間の中に、私はまたいる。
そう、また会いに行かなければ。
彼の私を、私は一人にしてはおけない。
彼は私なのだから。
彼の痛みは私の痛みなのだから。