第816回「アウェイク」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

アウェイク/ドリーム・シアター

ジェイムズ・ラブリエ(Vo)を迎えて制作した前作「イメージズ・アンド・ワーズ」(1992年)は、ドリーム・シアターを象徴する作品としてだけではなく、今や90年代のメタル・シーンを代表する作品として広く知れ渡っている。

 

2017年9月には日本でも同作の完全再現ライヴが行われ、日本武道館公演の音源がオフィシャル・ブートレグ・シリーズのひとつとしてライヴ盤になったのも記憶に新しい。アルバム完全再現が行われる辺りから見ても「イメージズ・アンド・ワーズ」は、未だに特別な意味合いを持った作品である事を証明しているようだ。

 

その「イメージズ・アンド・ワーズ」の次のアルバムが本作「アウェイク」(1994年)である。ラブリエをはじめ、ジョン・ペトルーシ(g)、ジョン・マイアング(b)、ケヴィン・ムーア(Key)、マイク・ポートノイ(ds)という前作同様の編成で制作された。

 

名作の次の作品という事で、リスナーから大いに注目される中で発表されたアルバム。見方によっては、メンバーからすれば相当なプレッシャーの中で宿命を背負いながら制作したアルバムであるのは想像に難くない。

 

1曲目は「6:00」で、マイクが叩くパーカッシヴなドラミングで始まる。この冒頭部分は、今や本曲のトレード・マークと言えるほど印象的なパートに。数学的に計算され尽くした構成でドラマを演出しながらも、5分半とドリーム・シアターの楽曲としてはコンパクトな部類。

 

本作を最後にゲヴィンがバンドを脱退するが、本曲の歌詞はケヴィンのペンによるもの。以降のライヴで定番曲としてプレイされている点を踏まえ、バンドへの貢献度が非常に高いと言える。ゲヴィンは本作の最後に収録された「スペース・ダイ・ヴェスト」の作詞曲も担当した。

 

「コート・イン・ア・ウェブ」は、ペトルーシのヘヴィなギター・リフとケヴィンの煌びやかなキーボードの音色の対比が特徴的。2023年4月の日本公演でも演奏されており、その際は歌詞の「罠に掛かる」というテーマを反映したと解釈できる映像と共にプレイ。主人公を蜘蛛に置き換え、その蜘蛛が罠を避けながら前に進む作りになっていた。

 

本作の中でも人気が高いのが「イノセント・フェイデッド」だ。本曲は何といっても歌メロがキャッチーで、サビでは一緒に歌えるメロディが用いられている。演奏はドリーム・シアターらしい技巧派なものでありつつ、全体的には歌を前に出した曲作りと感じる。故にライヴでも観客が一緒に歌える1曲だ。

 

その反動とも言うべきか「エロトマニア」はインスト曲で、楽器隊の火花散るプレイを徹底的に表現した1曲。リズムが目まぐるしく変化し、構成も複雑であるが、その分、きっちりとした場面展開を感じ取る事ができ、楽器をやらない層も楽しめるはず。

 

「エロトマニア」のエンディングから音が続いたまま「ヴォイシズ」に移行。「ヴォイシズ」は10分近くあるので、先ほどの「エロトマニア」を含めると超大作の色合いが強い。曲調が展開する「ヴォイシズ」であるが、パワー・バラード的な側面を持っており、歌い上げるジェイムズのハイ・トーンが美しい。

 

大作に対し「ザ・サイレント・マン」は、アコースティック・ギターの演奏を軸としたコンパクトなナンバー。アルバム中盤の流れを振り返ると、聴き手の緊張感を持続されるために、考え抜かれた曲の並びと言えそう。実は「エトロマニア」「ヴォイシズ」「ザ・サイレント・マン」は組曲として制作されたもの。

 

同じく「ザ・ミラー」と「ライ」も関連性を持たせた並びのように思うが、こちらは独立した曲をこの並びで聴いたら組曲のようになったというのが真相。どちらもペトルーシのヘヴィなギター・サウンドが印象的。地響きのように身体の芯を揺らすヘヴィさがある。

 

「リフティング・シャドウ・オブ・ア・ドリーム」は、作詞をマイアングが担当している事もあってか、ベース・ソロで曲が始まる。クリーン・トーンによるギターのアルペジオ、クリアなキーボード・サウンドがムードを演出。本曲と「スカード」は、見方によってはジャケットの世界観とリンクする。

 

結論から言うと本作は、以降のライヴで欠かせない楽曲を多数収録したアルバムとなった。誤解を恐れずに言うなら「イメージズ・アンド・ワーズ」と同等、またはそれ以上の作品という見方をされる事はないものの、それは前作の影響力が余りにも強いからである。本作も全体を通してハイ・レヴェルな作品なのは間違いない。

 

尚、本作の初回盤には今となっては懐かしい8cmサイズのシングルCDが付属。インストゥルメンタル曲「イヴ」が収録されている。