クライ・フォー・ザ・ニュー・ワールド/プレイング・マンティス
幻のバンドが復活・・・前作「プレデター・イン・ディスガイズ」(1991年)は、そのようなムードの中で発表された作品だった。90年代から現在まで音楽活動を継続しているプレイング・マンティスであるが、その出発点に当たるデビュー時期を振り返ると数々の不運に見舞われている。
デビュー作「タイム・テルズ・ノー・ライズ(戦慄のマンティス)」(1981年)で披露した哀愁を帯びたメロディアスなハードロックは、多くのリスナーに注目される。しかし、マネージメントとの関係が悪化し、体制を立て直そうとするもバンドはシーンからフェイド・アウトする結果に。活動期間は非常に短かった。
アルバムも廃盤となるが、内容の素晴らしさもあって根強いファンが存在し、正規盤は高額取引されるように。また、ジャケットや中身を複製した海賊盤が多く出回っている。ある意味、プレイング・マンティスの楽曲が持つ魅力を意外な形で物語るエピソードとも言える。後に「タイム・テルズ・ノー・ライズ(戦慄のマンティス)」はCD化されているので、これを書いている現在では適正価格で入手できる事を付け加えておきたい。
時は流れ1990年。ニュー・ウェーヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)から10周年を記念し、東京 中野サンプラザでイヴェント・ライヴが行われ、プレイング・マンティスは復活を果たした。この時、元アイアン・メイデンのポール・ディアノと共にパフォーマンスを行っており、その模様はライヴ盤としても発表されている。
こうした流れがあるので、前作「プレデター・イン・ディスガイズ」はバンドの復活作と位置付けられる作品となった。「らしさ」が全面に出された同作は、作品の性質からしてもリスナーが思い描くプレイング・マンティスのサウンド・イメージをキッチリと再現すべく作られたと推測できる。
前作から2年後、3枚目のアルバムに当たる本作「ア・クライ・フォー・ザ・ニュー・ワールド」(1993年)が発表された。本作よりヴォーカリストが交代し、コリン・ピール(Vo)が加入。演奏陣はティノ・トロイ(g)、デニス・ストラットン(g)、クリス・トロイ(b)、ブルース・ビスランド(ds)という編成に。先に書くとピートはアルバムに参加したものの、発表後にすぐ脱退している。
90年代はグランジ/オルタナティヴの時代であり、正直なところプレイング・マンティスのような正統的なハードロック・バンドは舵を取りづらい時期であったのは間違い無い。実際、多くのヴェテラン・バンドが時代のサウンドを意識したアルバムを発表し、賛否両論を生んでいる。プレイング・マンティスも、どのような方向に進み、どのような音楽性になるのか。
バンドからの回答とも言える1曲目の「ライズ・アップ・アゲイン」を聴けば、不安は一気に吹き飛ぶはず。シャープなギター・リフと煌びやかなキーボード・サウンド、そしてメロディアスでキャッチーなヴォーカル。コーラス・ハーモニーや間奏の泣きのギター・ソロも含めて、プレイング・マンティスのイメージを忠実に踏まえた楽曲となっている。
「クライ・フォー・ザ・ニュー・ワールド」「レッティング・ゴー」「デンジャラス」といったアップ・テンポなロック・ナンバーは、多くのファンから支持される楽曲に違いない。哀愁を帯びたアコースティック・ギターのソロが素晴らしい「ア・モーメント・イン・ライフ」、スケールの大きなギター・フレーズが耳を惹く「ワン・チャンス」など、歌メロと同様にギターのメロディが印象的な曲も多い。
ロック・サウンドの中に明るさも内包する「ファイト・トゥ・ビー・フリー」、重厚なキーボードの音作りが新鮮な「オープン・ユア・ハート」「ドリーム・オン」、休符を設けたイントロで、次の展開がどうなるのか聴き手に集中力を与える「ジャーニーマン」といった曲を収録。ラストは強烈な泣きを発散するインスト曲「ザ・ファイナル・エクリプス」でクライマックスを迎える。
歌詞の面で言うと「クライ・フォー・ザ・ニュー・ワールド」「ワン・チャンス」で綴られている言葉は、復活を果たして現在進行形のバンドとして勝負を挑む、プレイング・マンティスの姿と重なる部分が多い。本作「クライ・フォー・ザ・ニュー・ワールド」は、前作の流れを引き継いだ作品、前作の延長線上にある作品と言える。
本作もまた、プレイング・マンティスの魅力が遺憾なく発揮されたアルバムとなった。これは見方によっては守りに入っているとも言えそうだが、グランジ/オルタナティヴ主流の時代に、正統的なロック・サウンドを全面に押し出した事自体がバンドの信念と覚悟と思える。
面白いのは、次作「トゥ・ザ・パワー・オブ・テン」(1995年)で取り入れた音楽性の変化である。同作はファンクの要素が加わり、よりゴージャスなロック・サウンドを提示した作品に。これを踏まえて考えると、バンドは信念と覚悟を持ちつつも、時代の流行とは別に独自の道を歩んでいるとも言えそうだ。