第623回「ストーンズ・グロウ・ハー・ネーム」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ストーンズ・グロウ・ハー・ネーム/ソナタ・アークティカ

バンドの作品の中でもアルバム「ウニア~夢記」(2007年)は大きな分岐点となったアルバムであり、ここで披露した楽曲が今後のソナタ・アークティカの方向性を決定付けたのは間違いない。誤解を恐れずに書けば、同作の音楽性は初期のメロディック・スピード・メタルに衝撃を受けた多くのリスナーを戸惑わせた。

 

全編に渡ってミドル・テンポの楽曲を中心とした同作は、これまでに発表した4枚のアルバムとは大きく作風が異なっており、その急激な変化がリスナーを驚かせたのだ。そして、前作「ザ・デイズ・オヴ・グレイズ」(2009年)は、ソナタ・アークティカの曲作りにおける精神性の変化を明確に示したアルバムとなった。それはつまり、「ウニア~夢記」で提示したサウンドは実験的に披露したのでは無く、これがバンドの進む道であるとの意思表示であった。

 

「ザ・デイズ・オヴ・グレイズ」に収録された楽曲を聴けば、テンポが速いか遅いかという単純な変化では無く、楽曲に対するアプローチ、捉え方、表現方法が初期のアルバムとは変化しているのが判る。トニー・カッコが「昔は、せっかくの良いメロディが速いテンポのせいで滅茶苦茶になっていた。今はメロディの良さを活かせる曲にしたいと思っている」と語っていたのも、心境の変化が表れていると言えそうだ。

 

そして本作「ストーンズ・グロウ・ハー・ネーム」(2012年)へ。本作は「ザ・デイズ・オヴ・グレイズ」の流れを発展させ、よりプログレッシヴな方向に進んだ印象の強い作品となった。プログレッシヴという言葉を使うと変拍子を駆使した複雑なプレイや複雑な曲構成を連想するかも知れない。だが本作はそういった意味でのプログレでは無く、アートのような色合いでプログレ的と表現したくなる。つまり音楽を使ったアート、表現である。

 

本作制作時のメンバーは、トニー・カッコ(Vo)、エリアス・ヴィルヤネン(g)、ヘンリック・クリンゲンベリ(key)、マルコ・パシコスキ(b)、トミー・ポルティモ(ds)。2007年に行われた「ウニア~夢記」のツアーから同じ編成であり、本作の日本盤の帯には「不動のラインナップ」という言葉が用いられている。その後、マルコが脱退するので、今となっては当メンバーで制作した最後のアルバムとの位置づけに。

 

タイトルの「ストーンズ・グロウ・ハー・ネーム」は、「墓石に刻まれた名前」といった意味合いらしい。トニーの言葉を要約すると、これは故郷(地球)を破壊している人類に対する問題提起と解釈できる。問題提起という表現をすると誤解を生む可能性があるが、決して政治的な言葉を綴ったものでは無く、深い神秘性があり、スケールの大きな世界観で描かれている。

 

環境を破壊し、やがては地球が滅びて墓石に人類の名前が刻まれるといったイメージだ。これを念頭に置いてジャケットを見ると、神秘的なデザインでありながらも、どこか恐怖を感じさせると言えまいか。トニーが「有機的」という言葉を用いて本作を解説していた。このジャケットを見ると、人類がこの世の頂点に居ると思うのは錯覚であり、人間も動物や植物と同じく、地球上に存在する生物のひとつとの見方ができる。

 

楽曲は「オンリー・ザ・ブロークン・ハーツ(メイク・ユー・ビューティフル)」「シットロード・オヴ・マネー」を筆頭に、大半がミドル・テンポで占められている。ヘンカの美しいピアノ・フレーズからエリアスのヘヴィなギター・リフが切り込む「ルージング・マイ・インサニティ」は、本作中ではアップテンポな部類に入る。エリアスのギターからグルーヴ感のある曲展開になる「サムウェア・クローズ・トゥ・ユー」も印象的。

 

「アイ・ハヴ・ア・ライト」を聴けば、メロディは典型的なソナタ・アークティカであり、それをスピード・メタルでは無く、よりプログレッシヴなサウンドで曲に仕上げている事が判る。アコースティック中心に独特の重さを発散する「アローン・イン・ヘヴン」、「ザ・デイ」を経て登場する「シンダー・ブロックス」はバンジョーの演奏が取り入れられており、これは斬新。「ドント・ビー・ミーン」はバラード系の1曲。

 

さて、タイトルからして興味津々なのが「ワイルドファイア、パート2・ワン・ウィズ・ザ・マウンテン」「ワイルドファイア、パート3・ワイルドファイア・タウン、ポピュレーション:0」だ。アルバム「レコニング・ナイト」(2004年)に「ワイルドファイア」という曲が収録されていたが、これらはその続編のような曲となっている。

 

その「ワイルドファイア」はストレートな疾走メタル・ナンバーであったが、「パート2」はミドル・テンポのパートを中心としながら起伏に富んだ構成を設けた曲に。「パート3」は「ワイルドファイア」的な速いテンポのパートを設けながらも、構成は一本調子では無く、ドラマ性がある。12曲目「ワン・トゥ・フリー・フォール」は日本盤ボーナス・トラック。

 

2000年代はアルバムを発表すれば必ず日本公演が行われ、異様な盛り上がりを見せていたソナタ・アークティカであったが、音楽性が変わってから会場の規模が縮小され、2010年以降は日本でライヴが行われる機会も減った。バンドには申し訳ないが、日本においては、これがバンドの人気を物語っているように思う。しかし逆にフィンランドでは、音楽性の変化後に人気が上昇し、本作はフィンランドのチャートで1位を獲得。

 

本作「ストーンズ・グロウ・ハー・ネーム」は、作品を構成するテーマがあり、それを表現する手段として音楽があるような作風となった。それはライヴで髪を振り乱して頭を振る事を前提に作られた曲では無く、トニーを中心としたソナタ・アークティカがアーティストとして表現した世界観が、本作の「核」となっている気がする。