第624回「レイン・イン・ブラッド」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

レイン・イン・ブラッド/スレイヤー

スレイヤーの3枚目のアルバムである本作「レイン・イン・ブラッド」(1986年)は、その後のヘヴィ・メタルの流れを大きく変えた衝撃作として今なお語り継がれている作品だ。一般的には「スラッシュ四天王」という括りで紹介される事の多いメタリカ、メガデス、スレイヤー、アンスラックスであるが、その音楽性やバンドの個性、方向性は4組で全く異なっている。

 

中でもスレイヤーは、歌詞で扱われるテーマや思想性、アルバム・ジャケットの世界観も含めて、ある種の宗教的な存在感を醸し出しているように思う。つまりダーク・サイドの思想性であり、過激な内容が良識のある大人から批判にさらされる事も多かった。しかしながら、スレイヤーのメンバーのインタビュー記事などを見ると、メンバーは音楽に対して真摯に向き合う、真面目なミュージシャンとの印象が強い。

 

サタニズムを前に出した歌詞を、ひとつのパフォーマンスと言ってしまってはアレだが、それらはメンバーが作り上げたバンド・イメージであり、メンバーは狂気に満ちた人々ではなく真面目なミュージシャンである。また、扱っている歌詞のテーマは、サタニズムのみならず戦争などの政治や情勢と関係のある内容も多く、ダーク・サイドと言っても、それは世間に対する問題提起と解釈できるものも多い。

 

そのスレイヤーの魅力が遺憾なく発揮され、究極の形で作品に投影されたのが、本作「レイン・イン・ブラッド」である。歌詞の奥深さを念頭に置いてジャケットを見ると、本作のデザインも単に地獄絵図を描いたものでは無く、政治的意味合いや、それらに対する皮肉が込められているのではないかとも思えてくる。以降のアルバムも含めると様々な作品が存在しているが、本作は初期スレイヤーの持ち味が凝縮された集大成的作品でもある

 

さて内容としては前作「ヘル・アウェイツ」(1985年)の流れを踏まえたものであるが、これまでの作品との大きな違いは、本作が大手のゲフィン・レコードに移籍して発表された作品である事だ。ヘヴィ・メタルの中でも当時のスラッシュ・メタルは特にサブカルチャー的色合いが強かったと思うので、メジャーなスラッシュ・メタルと表現するのは語弊がありそうだが、これまでに発表されていたアルバムと比較しても、本作は演奏のバランスや音質がスケール・アップしているのが顕著に表れている。これらを聴くと、やはりメジャー感が増しているように思う。

 

先ほども書いたように、スレイヤーが表現する歌詞とサウンドが強烈過ぎたために、当初はコロムビア・レコードから出るはずだった本作はリリースを拒否され、最終的にゲフィン・レコードから出た経緯がある。80年代のロック・シーンを形成するうえでゲフィンの役割は大きく、危険な存在として見られていたスレイヤーの作品を引き受けた担当者のセンスが素晴らしい(ただし、レコード会社の作品リストには本作を掲載できなかったそうだ)。

 

トム・アラヤ(Vo.b)、ケリー・キング(g)、ジェフ・ハンネマン(g)、デイヴ・ロンバート(ds)という、オリジナルの編成によって本作はレコーディングされている。スレイヤーには名曲「レイニング・ブラッド」があり、それが本作に収録されているので、アルバム名もパッと見れば同じかと思うかもしれないが、アルバム名は雨の「Rain」では無く、統制や支配といった意味の「Reign」を使った「レイン・イン・ブラッド」だ。

 

本作の特徴としては、とにかく収録曲の全てが速く、約29分という時間の中で、全10曲が嵐のように駆け抜けて行く。1曲目の「エンジェル・オブ・デス」はバンドを代表する1曲で、ライヴは必ず本曲で締め括られる。ジェフが書いた本曲は、ジェフがバンドの不在となった時期から「ハンネマン」と書かれたバックドロップと共にステージで演奏されるようになった。デイヴが2バスを連打するキメのフレーズも有名。

 

「アルター・オブ・サクリファイス」「ジーザス・セイヴス」「ポストモーテム」「レイニング・ブラッド」はライヴで欠かせない定番曲に。頻繁に演奏されるわけでは無いが、「ネクロフォビック」は当時のスレイヤーとしては最高速度とも言えるドラムの速さを誇っており、リスナーの間で話題となった。「ピース・バイ・ピース」「クリミナリー・インセイン」「リボーン」「エピデミック」なども含む、本作「レイン・イン・ブラッド」完全再現ライヴも行われており、映像作品「スティル・レイニング」(2004年)としてリリースされている。

 

全曲速い、あっという間に駆け抜けて行くといった表現をすると、勢いだけが先行するかも知れないが、本作の凄さは構成美にある。代表曲「エンジェル・オブ・デス」を筆頭に、各楽曲はただ速いだけで無く、ミドルテンポのパートなど1曲を通して起伏富んだ展開が設けられている。決して曲が緩和するという意味では無いが、こういった構成が楽曲に緊張と緩和を与え、疾走パートの迫力をより際立てているように思う。

 

数年前、トムがインタビューで「最近ではスレイヤーを聴くのはオシャレな事らしい」と言っていたのが興味深かった。これは時が流れてスレイヤーもクラシック・ロックのひとつとして語られるようになったという意味と思われる。しかし1986年当時は、ここで聴けるサウンド、歌詞、世界観、すべてにおいて衝撃的であり、こういった常識破りなバンドが時代を変えて行くのだと再認識できる。