NEWS/聖飢魔Ⅱ
「メフィストフェレスの肖像」(1996年)は名作であり、聖飢魔Ⅱにしか成し得ない世界観が全面に添加された正統派へヴィ・メタル作品である。しかしバンド活動自体は停滞気味となっており、同作に従うツアーは東名阪のみで開催されるという短いツアーだった。実はこの時期の聖飢魔Ⅱは、数年間の間に失ったものが大きく、遂には1999年を待たずして解散するという話が内部で成立していた。
この話はデーモン小暮閣下(Vo)を除く構成員とスタッフの間で出された案であり、後はそれを閣下に伝えるのみというところまで話は進んでいた。しかし、同時期に開催された「クラシック・ロック・ジャム」に出演した閣下の気迫に満ちたパフォーマンスが周囲に連鎖し、その考えを一変させる。再び息を吹き返した聖飢魔Ⅱが心機一転し、楽曲のクオリティを追求して制作したのが本作「NEWS」(1997年)である。タイトルには「新しい」の複数形(NEWS)、聖飢魔Ⅱが新しくなったという話題(NEWS)など、様々な意味が込められている。
洗練されたサウンド、歌詞で綴られている言葉など作品の至る所に、前に進もうとする力強いエネルギーが満ち溢れる作品となっており、個人的には聖飢魔Ⅱは本作で音楽の頂点を極めたと思っており「欠点の無い作品」と豪語している。ドン底から立ち上がり、這い上がろうとするバンドのエネルギーが集約され作品に封じ込められた、この時期の聖飢魔Ⅱだからこそ作る事が出来た奇跡の名作が「NEWS」だ。因みに本作時の構成員は閣下、ルーク篁参謀(g)、エース清水長官(g)、ゼノン石川和尚(b)、ライデン湯沢殿下(ds)だ。
① DEPARTURE TIME
大教典の1曲目を飾る本曲は、けたたましく鳴り響くデジタル・ビートによって幕を開ける。こういったデジタル音を大々的に取り入る事自体、これまでの聖飢魔Ⅱには無かった手法であり、冒頭から新境地を感じさせるサウンドだ。そのパートを経て掻き鳴らすようなギター・リフが切り込み、勇ましいロック・ナンバーへと発展する。過去の思い出に別れを告げ、未来に向かって出発しようといった感じの歌詞は、この頃のバンドの精神が投影されている。B.D.1(1998年)のライヴハウス・ツアーや、1999年の解散ミサ2日目、期間限定再集結時など、数々のミサでオープニング曲として演奏される曲に。
② 真昼の月~MOON AT MID DAY~
1曲目から間を置かずして始まる本曲は、シングル・カットされビデオ・クリップも撮影されている。美しいア・カペラの歌い出しの後、リズム・インし、印象的なギター・フレーズが弾かれる。ミドル・テンポで重量感もありつつ、親しみやすいメロディが特徴的で、真昼の月はいつもお前の事を見つめているといった内容の歌詞。聖飢魔Ⅱの楽曲は、基本的に作曲者がギター・ソロを担当している場合が多いが、この曲は参謀が書いた曲に長官がソロを弾くという珍しいパターン。「自分より長官のソロが曲に合っていると思った」という発言を当時、参謀がしていたと記憶している。B.D.1年の全都道府県制覇ツアーでは全公演で演奏され、他にもミサでは重要なレパートリーとなる。
③ デジタリアン・ラプソディ
作詞曲共に参謀。アップテンポなハードロック曲だが、シンフォニックなキーボードの音が前に出たアレンジとなっている為、洗練されたサウンドとの印象を受ける。参謀のギター・ソロも超絶的。不定期ながらステージでも演奏され、現在では1999年12月29日に演奏されたヴァージョンが、映像として残されている。
④ BRAND NEW SONG
「この曲無くして、聖飢魔Ⅱは活動し得なかった」と閣下が述べるほど、後期の聖飢魔Ⅱにとって重要な1曲。辛かった日々を断ち切り、誰も思いつかない歌を感じたままに歌うといった内容は、バンドの明確な決意表明とも解釈でき、参謀が書いたこの歌詞には、閣下も大いに刺激されたようだ。ファストなハードロック・ナンバーだが、磨かれたサウンドの上で成り立った楽曲となっている。シングル・カットもされて以降、数々のミサで演奏されている。
⑤ 火の鳥~FIRE BIRD~
作詞・閣下、作曲・参謀の珠玉のバラード。アコースティック・ギターのアルペジオによる演奏を主体に、閣下が切々と歌い、サビでは一気に歌い上げる。和尚は、フレットレス・ベースを使用している為、特有のねっとり感が特徴的。本作発表に従うツアーや、1999年に大阪で開催された一夜限りのディナーショーで演奏されているが、今となっては映像、音源は出回っていないので生で聴いた方は貴重。聖飢魔Ⅱのバラード軍の中では、取り上げられる機会が少ないが、もっと評価され認知されても良い名曲。
⑥ NO GOOD NEWS TODAY
これも作詞・閣下、作曲・参謀。ハード且つラウドなロックサウンドにデジタル音をブレンドしているのが特徴的な楽曲で、ヴォーカルにも歪を効かせ、意図的に音割れしたようなサウンドにしている。デジ・ロックという言葉があるように、今でこそこういった手法はアーティスト問わず日常的に行われているが、1997年という時代からすれば、これは斬新なアイディアであり、聖飢魔Ⅱがこれまでに発表した作品の系統から見ても、かなり実験性と挑戦意欲に満ちた曲だったと言える。ごく一時期のみ、ミサでも演奏された。
⑦ CRIMSON RED
長官が書いた曲に、閣下が歌詞を付けた1曲。殿下の力強いドラミングが炸裂する疾走感溢れるハードなナンバーだが、長官が書いた曲だけに、やはり長官らしいメロディ、フレーズ、アレンジ等々が満載されている。その美しいメロディと歌詞の世界観が融合し、ハードな曲でありつつ、夕暮れ時のような哀愁が充満する仕上がりに。ピッキングのニュアンスとタイム間から推測するに、ギター・パートは全て長官が弾いているのではないかと思わせる。2014年に行われた閣下のツアーで演奏され、マニアを驚かせた。
⑧ 虚空の迷宮~typeβ~
これも作詞・閣下、作曲・長官コンビによる作品。本作に先駆け小教典「BRAND NEW SONG」の2曲目に収録されて世に出た。そのシングル・ヴァージョンとイントロのアレンジが異なっている事から、ここではtypeβと表記されている。またエンディングのフェイド・アウトから音が止む時間が、こちらの方が数秒早いという僅かな違いも。気品と哀愁を内包するロック・ナンバーで、随所で聴けるツインギターによる美しいフレーズも特徴的。2012年に行われた閣下のツアーで演奏され、マニアを泣かせた。
⑨ DANGEROUS VOYAGE~失楽園への旅~
角の立った鋭いリフが切り込む本曲は、殿下が曲を提供している。許されぬ人との危険な愛をテーマにした歌詞で、「純愛と略奪のやじろべえ 手の平でふらつく」というサビの一節からして、理性と本能の間で苦悩する主人公の様子が伺える。この曲はバッキングも含め、ほとんどのギター・パートを参謀が弾いていると思われる。官能的なメロディや、それと対を成すテクニカルなソロは絶品だ。
⑩ SAVE YOUR SOUL~美しきクリシェに背を向けて~
「BRAND NEW SONG」と並び、後期・聖飢魔Ⅱの代表曲となる1曲。イントロのリズム・パターンが印象的で、その後、全体を通しアップテンポに展開する。作詞曲共に参謀で、この曲も現状を抜け出し、何かを掴み取ろうとするような前向きな歌詞となっている。クリシェとは音楽用語だが、前後の言葉も含め考えると、それに背を向ける=決められた事に縛られず、自分で道を切り開き、最後は辿り着いた場所に吹く自由の風を浴びるといった解釈だが、これは個人的解釈なので定かでない。現役時代、再集結を含めミサでは頻繁に演奏される楽曲。
- NEWS/BMGビクター
- ¥3,146
- Amazon.co.jp