メフィストフェレスの肖像/聖飢魔Ⅱ
ジャンルに捕らわれず、あらゆるタイプの楽曲が満載された「PONK!」(1994年)は、構成員が持つ多彩な音楽的要素が満載された意欲作だった。しかし、その作風はハードロック・バンドとしての聖飢魔Ⅱが好きなリスナーを戸惑わせたのも事実で、更には同時期に勃発したデーモン小暮閣下(Vo)の世を忍ぶ仮の生活上のスキャンダル報道も重なり、どうもネガティヴな印象が拭えない作品となった。音楽に罪はないが、この時期の様々な騒動が作品の評価と直結している事は否めない。
翌年B.D.4(1995年)に開催された「サタンオールスターズ」は、地球デビュー10周年を記念して行われた企画で、過去に在籍した歴代構成員4名も参加して盛大なミサが行われた。大盛況の内に終了したこのミサだったが、実は離れていった信者を呼び戻したいという意図もあり行われた企画だった。当時の現役構成員がどう思っていたかは別として、その意図は次なる大教典にも添加され、本作「メフィストフェレスの肖像」(1996年)は閣下、ルーク篁参謀(g)、エース清水長官(g)、ゼノン石川和尚(b)、ライデン湯沢殿下(ds)に加え、ダミアン浜田殿下(現・陛下)とジェイル大橋代官が曲を提供する形で制作されている。
音楽的にも初期の悪魔的な世界観を全面的に押し出し、へヴィ・メタルである事を軸に楽曲が制作されたかのようなハード路線の作品となっている。尚、本作より聖飢魔ⅡはBMGにレコード会社を移籍し、本作は移籍後に発布された初の大教典であった。
① 地獄の皇太子は二度死ぬ
吹き荒ぶ風の音がダークなムードを演出。その後、メタリックなリフが切り込みアップテンポに発展して行くオープニング・ナンバー。タイトルから「地獄の皇太子」との姉妹曲のように映るかも知れないが、楽曲自体はメタリックでありつつも全く異なっている。フルピッキングの速弾きやスウィープ等のテクニカルな技を駆使した参謀のギター・ソロも超絶的。本作発表後のツアーや1999年12月29日の解散ミサ初日に「創世紀」に次ぐオープニング曲として演奏されている。
② 凍てついた街
ダミアン殿下が本作用に提供した楽曲。ツインギターによる美しいメロディを至る所に配置した抒情的なへヴィ・メタル曲で、閣下も初期の作品を意識した声の出し方で歌っている。歌詞もダミアン殿下によるものだが、「蝋人形の館」「怪奇植物」といったホラーとユーモアが混合した内容では無く、どちらかと言えば「X.Q.JONAH」タイプのシリアスな視点で綴られた内容に。当時の「信者の集い」など、一部のステージでしか演奏されていない曲なので、生で聴いた事がある方は貴重な体験だ。
③ GREAT DEVOTION
作詞曲共に参謀の、ファストな正統派メタル・ナンバー。ライデン殿下が叩くパワフルなドラミングが強烈な1曲でもある。創作意欲が停滞気味だった当時の閣下に対し、この時期から後期にかけての参謀は凄まじくレヴェルの高い名曲を生み出しており、本作もその1曲と言えそうだ。サビでは参謀のコーラスも大きめにミックスされている事から、閣下と参謀のデュエット的な印象を与える。本作に従うツアーや1999年12月31日の解散ミサなどで演奏されている。
④ PAIN ME BLACK
作詞は閣下、作曲がエース長官の作品。閣下のア・カペラによる歌い出しから、美しいツインギターのメロディが胸を打ち、以降は全体を通しミドル・テンポで楽曲は構成されている。曲調や歌詞の世界観を含め絶望感溢れる印象だが、長官らしい特有のメロディが随所で聴け、絶望と美の融合とも言える抒情性に満ちた仕上がりに。間奏明けの殿下による派手なドラミングにも注目したい。
⑤ 野獣
再びダミアン殿下の楽曲だが、これは本作用の書き下ろし曲では無く、地球デビュー前から既にレパートリーとして演奏していた曲。長らく教典に収録される事は無かったが「サタンオールスターズ」時に行われた殿下と閣下の対談で、「野獣」の話題が出た事から本曲を取り上げる事になったと推測できる。冒頭をコンパクトにしたヴァージョンが小教典として発布されているが、この大教典版のイントロこそデビュー前に演奏していた形態である。デビュー前のデモ版にキーボードの音は入っていなかった事から、ここで聴けるキーボードは怪人松崎様(Key)によるアレンジと思われる。ただ松崎様は、本曲をシングル・カットした事には納得していない御様子。
⑥ メフィストフェレスの肖像
本作のタイトル曲で、これもダミアン殿下の作品。シャープでありつつ重量感もあるリフが主体となり、ダークなムードを発散しながら曲は展開して行く。中盤では一旦音が止んだ後に抒情的なパートが設けられ、ゼノン和尚が弾くねっとりとしたベース・ラインが独特の雰囲気を演出し、参謀によるアコースティック・ギターのソロ、エレクトリック・ギターのソロとドラマティックに展開する。ミサにおいてはスタンドにセットしたアコギ弾きから、エレキへと瞬時に移動する参謀の手さばきが素晴らしい。
⑦ WHO KILLS DEMON?~誰が悪魔を亡きものにするのか~
詞・閣下、曲・長官コンビによる楽曲。イントロのフレーズからして長官が作曲したものと一発で判る程に、長官らしい美しい要素が満載されている。誰がデーモンを殺すのか?という歌詞のテーマは、信者からすればショッキングであり、これまでの聖飢魔Ⅱには無かった視点の内容と言える。当時の閣下は、スキャンダル報道など身の周りで発生した様々な出来事に数年の間、痛めつけられており、本曲の歌詞のテーマに至ったと解釈するのは考え過ぎだろうか。
⑧ 黒服のあいつ
作詞曲共に閣下。聖飢魔Ⅱの活動の中でも取り上げられる事が無かったが、これは名曲。8ビートで進行するが、典型的なロック然とした印象は無く、儚さと美しさを内包する仕上がりに。ピッキングのニュアンスやタイム間、コード遣いから推測するに、ギター・パートのほとんどは長官が弾いていると思われ、閣下のアイディアに長官が味付けをして最終的な形が出来上がったと考えれば、本曲の持つ雰囲気と仕上がりに納得ができる。オルガン風のキーボードの音色も絶妙。
⑨ サロメは還って殺意をしるし
ライデン殿下が提供した楽曲で、歌詞は閣下が書いている。アコースティック・ギターのアルペジオや揺らぐようなキーボードのサウンドから、独特の世界観を演出するバラード的なナンバーだ。サビでは閣下が雄大に歌い上げ、中盤ではストーリー・テラーの如く台詞を述べるパートがあるという珍しいタイプの1曲。サロメやヨハネは新約聖書に登場する人物名であり、聖書や神話に基づいて書かれた歌詞と思われる。
⑩ HOLY BLOOD~闘いの血統~
作詞曲共に参謀。アップテンポ且つストロングな正統派メタル・ナンバーである本曲は、本作発表時期から解散までの間、ミサでは重要なレパートリーとなる。また2005年の再集結時、2011年の両国国技館ミサでも演奏され、後期の聖飢魔Ⅱが生み出した代表曲のひとつとなった。ギター・ソロの前半は、ミサにおいてはスタジオ・ヴァージョンとは異なったフレーズが弾かれ、そのフレーズも時期によって様々なヴァージョンが存在している。
⑪ 悪魔のブルース
本曲はボーナス・トラック扱いで、発布当時「ボーナス・トラックは、輸入盤があって日本盤があってこそボーナス・トラックと呼ぶのではないのか」と参謀が疑問を投げかけていた。ジェイル代官が提供した本曲は、代官らしいロック色の濃いナンバー。よって、タイトルに「ブルース」と付いているが、本来の「ブルーズ」の要素は含まれていない。ポイントとなるのはヴォーカルを長官が担当している点で、サビでは参謀の声も聴こえる。遊び心も感じられる1曲だ。
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