第88回「再考[!]」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ASTRODYNAMICS/!


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1999年末をもって解散した聖飢魔Ⅱ。その後、デーモン閣下は翌2000年春に発布予定であった、ファイナル・ミサの模様を収めた教典類の編集作業に追われ、暫くは聖飢魔Ⅱに関する仕事に携わっていた。それらの教典類も無事、発布された後、閣下は遂に新たな活動を開始する。聖飢魔Ⅱ時代からデーモン閣下は音楽活動に限定されず多彩な活動を展開していたが、この2000年には、まずCS放送のニュース番組のキャスターとしてレギュラー出演し、ジャーナリストとしての新たな面を発揮した。


そして同年秋より「!(エクスクラメイション)」なる新たなプロジェクトを立ち上げ、閣下は音楽活動を行う事が発表され、その「!」は9月にシングル「AGE OF ZERO!」でシーンに登場した。そのシングルは、タイトル曲をはじめ、収録された楽曲は全て英語詞が採用され、ジャケットどこにも閣下の姿は無いという、予備知識無しで初めて聴く人にとっては邦楽か洋楽か、一体誰の作品なのか判らないという効果を狙った形態で発売された。そして、翌10月に発表されたアルバムが、本作「ASTRODYNAMICS」である。


先行発売されたシングル「AGE OF ZERO!」収録の3曲は、全てデジタル・サウンドが骨格となるテクノ調の楽曲であり、この「!」なる新プロジェクトの音楽性の予告編的作品となっていたが、発表されたアルバムでは、そういった方向性を全面的に取り入れた作風となった。ウェットな雰囲気が漂う「PHANTOM」、デジタルによるフレーズがアップテンポな楽曲に乗って舞う「?」、英語詞であるが、キャッチーな歌メロが取り入れられた「NEW DAY COMES」「PARADISE!」、日本語の歌詞が聴ける「ASTRODYNAMICS」「いざ戦場へ!」などを収録。同じく日本語詞で歌われる「POISON!」は、ユニークな歌詞が印象的だが、これらの言葉は社会問題を比喩した歌詞であると思われる。


独自の世界観を醸し出す「DESTINYLAND」は、冒頭で閣下の口笛によるメロディがあり、本作に従うツアーでも閣下による生口笛で披露されていた。アルバムの最後を飾るゆったりとした「ANAPA」も、歌詞に注目したい。「美しい素晴らしい世界 探しているかい? 本当は今いるところが そこかも知れないね」という一節がある。聖飢魔Ⅱ時代に「EL.DORADO」を歌う際、80年代の一時期は「諸君たちは現代社会に不満を抱き、自分は不幸だと思う傾向にある。だが戦争も無く衣食住に困らない、こんな恵まれた世界がどこにある。諸君たちが不満だらけに思うこの社会こそ、他の世界から見ると、理想とする「EL.DORADO」なのかも知れない」という内容のMCが行われていた。言葉の選び方は違うものの、双方は同じテーマを捉えており、聴き手に伝えたい題材のひとつとして、閣下としては、こういったテーマは時代を超えてお持ちのようだ。




シングルであり、本作にも収録された「AGE OF ZERO!」は、正にこの時期を象徴する楽曲である。ゼロ歳からの始まり。ソロとして新たな一歩を踏み出した閣下の決意表明であり、強い意志と意欲が凝縮されている一方で、歌詞には社会に対する皮肉も込められている。それに加え、敢えて作品のジャケットに閣下御自身が登場していない事や、「!」という誰なのか判らないプロジェクト名、ロックでは無くテクノ、デジタル・サウンドを主軸とした音楽性、本作に従うツアーのメンバー構成及び人選など、あらゆる面において聖飢魔Ⅱのイメージから離れ、アーティスト、歌手・表現者として新たなものを築こうとする強い決意が感じられる。



だが本作「ASTRODYNAMICS」は発表当時、多くのファンがそのテクノ・サウンドを大胆に取り入れた音楽性にお手上げ状態となり、評価が思わしく無かったのも事実。だが2000年という年と時代を考えれば、それは無理もない。まず、閣下だけでなく元構成員は、やはり聖飢魔Ⅱ時代のイメージを背負って、新たな音楽活動を踏み出す事となる。この「!」の作品を聴いた多くのファンは聖飢魔Ⅱ時代からの信者であり、これまでバンドが奏でるロック・サウンドを中心に聴いていたリスナーと思われる。そういったファン層が、突如としてテクノ、デジタル音楽を聴いたら戸惑いを覚えるのは無理もない。特に、当時はまだファンも元構成員の新たな音楽や作品に対する接し方を模索していた時期でもあった。2000年という時代に突如として発表された本作は、斬新なサウンド過ぎたのである。



これはファンのみならず、閣下を取り巻くスタッフも感じていたようで、閣下に対し「こういった音楽はもういいので、ロックをやりましょう」と進言していたようだ。そしてロック色を強めた次作「SYMPHONIA」(2002年)を制作する事になるが、新たな音楽に挑戦しようとする閣下の意欲に対し、これまで同様のロックを歌っていればよいと考える周囲のスタッフとの深まる溝に意味を見出せなくなり、2002年に勃発する閣下の「音楽界からの引退」を決意させる引き金となるのだが。

今、改めて「ASTRODYNAMICS」に接してみると、当時の閣下のアーティストとしての漲る意欲によって貫かれた作品である事には違いない。また、閣下はいつの時代も完璧主義者であり、これまでのようなハード・ロックでは無いが、デジタル音楽という新たなアプローチでも作品の質としては細部まで作り込んだ完璧な作品である。



現在のデーモン閣下と言えば、音楽面のみならず多彩な活動を展開している。また音楽に焦点を当てても、それは必ずしもロックというジャンルだけで無く、邦楽器を伴奏に歌ったり、オーケストラをバックに歌ったりと、あらゆる手法で歌を披露している。そういったアプローチのひとつと考えれば、デジタル・サウンドの作品があっても不思議はないはず。この「ASTRODYNAMICS」が、2000年では無く、今現在、新譜として発表されていたら、どのような反応を持ってファンが迎えたのか非常に興味深いところだ。





では本作より、私個人が最も好きな楽曲「DESTINYLAND」↓↓




http://www.youtube.com/watch?v=Pkc1FCqLmYg



デジタル・サウンドを全面的に取り入れた「!」を象徴するような楽曲「?」↓↓





http://www.youtube.com/watch?v=s_-dHYhc3Xc




先行シングルでもあり、今後の閣下のツアー等でも歌い続けられている「AGE OF ZERO!」↓↓




http://www.youtube.com/watch?v=jn1wTHHnwJw