サイケデリック漂流記 -121ページ目

南米サイケ特集 その5

Apocalipsis
もひとつメキシコのバンド。1968年の唯一のアルバム"Experimento No.1"は、Flying KarpetsみたいにちょっとオンチなR&Bカバー(Sam & Daveの"Hold On I'm Comin'")で始まりますが、こちらはなかなか強力な脱力系ガレージパンクです。

これもKaleidoscopeみたいにボーカル(in英語)が良くて、ファズギター+チープオルガンも強烈。Standellsの"Try It"、ジミヘンの"Fire"、Strawberry Alarm Clockの"Incense and Peppermints"などのカバーも独自の個性で料理してるし、音は典型的なオルガン・ガレージパンクなんですが、そのユルユル具合が南米っぽくて素晴らしい。


Apocalipsis
Apocalipsis (リンクはFreak Emporium)



Ladies WC
ベネズエラのヘヴィサイケ4人組。1969年制作の唯一作のオリジナルは激レア盤で、わりと最近Shadoksから再発されて話題になっていました。曲も演奏もハンパでなく素晴らしくて、なにも知らされずに音だけ聴かされたら、百人が百人ともアメリカのバンドだと思うでしょう。

ほとんどの曲を書いて歌ってるStephen Scottというのがアメリカ人(南米大陸を旅していたヒッピー)ということで、ほとんど彼の才能によるものなのでしょうが、そのへんのメジャー感・王道感のために、「南米サイケ」というより、普通に60sサイケの名盤として聴くべきアイテムかもしれません。メランコリックなメロウチューンに鳴り響くファズギターやオルガンの音色なんかも絶品。


Ladies WC
Ladies WC (試聴はこちら



Embrujo
チリのバンド。「その1」で紹介したKissing Spellのメンバーが名前を変えて1971年に発表したアルバムで、演奏も内容も"Los Pajaros"より洗練されたような印象です。サイケデリック的には「洗練された」というのは必ずしも褒め言葉にはならないのですが、本作は全編スペイン語で歌われていて、南米ムードはむしろ濃厚になっています。

Kissing Spell同様、ドリーミーでメランコリックなメロウサイケの逸品で、こちらも素晴らしい内容です。ハードだったり、プログレッシブロック的な感触の曲もありますが、特に"A Tu Carita"などのフォーキーな「南米ルーツロック」みたいな曲や、「チリアンポップ」的な親しみやすくメロディアスな曲が印象的。


Embrujo
Embrujo (リンクはFreak Emporium)

南米サイケ特集 その4

今回は全部メキシコのバンド。メキシコというと、なんとなく脳天気でイーカゲンで、郵便出しても半分は届かない、みたいなイメージがあるかもしれません(失礼)が、(これは南米サイケ全般にも言えますが)意外に繊細でメロディアスで、日本人の心の琴線に触れるような情緒や哀愁が漂ってたりして、とても良いです。


Kaleidoscope
強烈なファズギターとオルガンが確信に満ちたベタベタのフレーズを奏でるライト級ヘヴィガレージサイケ。1969年のオリジナルはプレス200枚の激レア盤だとか。

先頭のリフがファズギターとチープオルガンのユニゾンで、いきなり天国直行です。ガレージパンク風の色っぽいボーカル(歌は英語)も最高で、私みたいなSeedsやMusic Machineなど脱力系ガレージパンク(フラワーパンク)のファンならきっとハマると思います。

"Once Upon a Time There Was a World"なんて、まるでテンプターズの「おかあさん」がブラックサバスと結婚したみたい。わけのわかんないエフェクトなんかも絶品。米国のKaleidoscopeも英国のKaleidoscopeも、このメキシカンKaleidoscopeの前ではひれ伏すしかないでしょう。素晴らしすぎます。オススメ!


Kaleidoscope
Kaleidoscope (リンクはFreak Emporium)



Los Dug Dug's
独特のビート感とリズムギターのカッティング。激渋ファズギター。しんしんとリバーブの効いた深みのあるボーカル(ほとんど英語)・・・どれもが印象的で個性的。演奏もしっかりしていて素晴らしい。ビートの効いた曲にはさまれたミディアムテンポのアシッドチューンやポップナンバーもまた良くて、ちょっとハズれたフルートなんかがメキシコ風情を感じさせてくれます。アルバムは70年代前半に3枚ほど出てるようですが、これは1971年の1st。


Los Dug Dugs
Los Dug Dugs (First Album) (リンクはFreak Emporium)



The Spiders
1970年の唯一の作品"Back"はメロディアスで繊細でドリーミーな、オルガン入り極上メロウサイケアルバム。ヘヴィなリフがあったりジャズロックっぽい展開になったり、適切なアレンジやメリハリも効いていて素晴らしい。

全曲きれいな英語で歌っていて、コテコテの南米サイケムードこそありませんが、そのレベルの高さに驚かれると思います。「青い影」のプロコルハルムのような哀愁オルガンが印象的な好盤です。


The Spiders
Back
(すいません、適当なリンク先が見つかりません。)



Toncho Pilatos
前回のTraffic Soundの2ndのように、南米トラッドと英国プログレをブレンドさせたような音ですが、こちらはジミーページ風のギターとロバートプラント風のボーカルで、Led Zeppelinからの影響がモロに感じられます。先頭の曲などがZep~Jethro Tullみたいな展開になるのが面白い。リーダー?の名前がPoncho Tonchoというのも胡散臭くて良いです。1973年の本作が唯一のアルバムのようで、内容は(いい意味で)かなり分裂気味。


Toncho Pilatos
Toncho Pilatos (リンクはFreak Emporium)



Flying Karpets
1968年の激レア盤の再発CD。一曲目のR&Bカバー(Brenton Woodの"Gimme a Little Sign")と2曲目の「出た~出た~月が~」(唯一のオリジナルinスペイン語。最強)でどうなることかと思ったら、3曲目がJefferson Airplaneの"White Rabbit"!

音程のハズれまくった脱力系のボーカルが最高で、そのほかにもDoorsの"20th Century Fox"、Byrds版の"My Back Pages"、Animalsの"San Francisco Nights"など、サイケからソウルまで節操のない60sスタンダードのカバー群のぐちゃぐちゃさに頭がクラクラします。

モップスとかの日本の60sグループサンズの「西洋かぶれ」アルバムを連想しますが(モップスのアルバムの方が上等)、変態度では断然こちらが上。もしも、全曲が2曲目みたいなオリジナルばっかりだったら・・・。いや、想像するだけで恐ろしい。


Flying Karpets
Flying Karpets (リンクはCD Universe)

再発&再放送


Leather Coated Minds
A Trip Down Sunset Strip

以前こちらで紹介したLeather-Coated Mindsの"A Trip Down the Sunset Strip"のCDがSundazedから再発されました(amazon.co.jpでの発売予定日は2月21日)。日本盤のCDは出ていましたが、長らく廃盤状態だったようです。


それと、これも以前にちょっと触れたパソコンテレビGyaOの番組、「それはビートルズから始まった(60年代サウンド大特集)」ですが、ただいま再放送されています。(こちら。配信は2月16日の正午まで。)

制作は1974年で、原題の"Echoes of the Sixties"が示すように、乱痴気騒ぎのパーティの一夜が明けて、少し冷静になって昨夜のことを振り返る、みたいな60年代に対する視点が興味深いドキュメンタリーになっています。(日本語版のナレーションなどを含めて)作りがもっさりとしてるのもなごみます。

Searchers, Association, Donovan, Brian Wilson, Dionne Warwickらが出演して当時を振り返ったり代表曲を演奏したり・・・個人的には、Associationが60sのお揃いスーツスタイルではなくて70sウェストコーストロック風ファッションでWindyとCherishを披露するのが見所です。音楽だけでなく、当時の政情やファッション、テレビ番組などの映像もてんこ盛りなので、60s文化入門編としても最適ではないでしょうか。

Virgin Insanity 初CD化


ヴァージン・インサニティー
イルージョンズ・オブ・ザ・メインテナンス・マン(紙ジャケット仕様)

数ある70年代自主制作盤アシッドフォーク/サイケ(私はこのへんのアナログに関しては疎いのですが・・・)の中でも絶大な人気を誇り、サイケ関係の記事でもよく言及されているのを見かけるVirgin Insanityの"Illusions of the Maintenance Man "(1971)がCD化されました。

CD化の話は聞いてましたが、Amazonで"Virgin Insanity"で検索しても無かったので売ってないのかと思ってたら国内盤だったんですね、「ヴァージン・インサニティー」で出てきました。紙ジャケ限定盤とのことです。プライベート盤の鑑のようなシンプルなジャケは普通のCDケースだとショボくなりそうなので紙ジャケ仕様で正解かもしれません。

同時に、未発表だった2ndアルバムの"Toad Frog & Fish Friends"と、フロントマンのBob Longのソロ作"The Odometer Suite"がカップリングされた2on1のCD、「トード・フロッグ & フィシュ・フレンズ + オドメーター・スィート(紙ジャケット仕様)」も発売されました。

Virgin Insanityのオフィシャルサイトはこちら(試聴できます)。

南米サイケ特集 その3

今回はペルーの二大サイケバンドといえるTraffic SoundLaghoniaを。彼らが活動していた60年代末から70年代初め頃のペルーといえば、クーデターによる軍事政権のもと、反米・排ロック的な空気が濃厚だったのですが、両者とも母国語ではなく、あえて英語で歌っているというのが面白い。彼らのサウンドからは英米のロックに対する純真な憧れが強く感じ取れますが、それだけにとどまらずに、南米サイケデリアとしてのアイデンティティをしっかり確立させているのがエラいところです。


Traffic Sound
1969年のデビューアルバム(未聴)にはCreamの"I'm So Glad"、Animalsの"Sky Pilot"、ジミヘンの"Fire"といったカバー曲が見受けられますが、セカンドの"Virgin"(1970)は全曲オリジナルで、私がこれまでに聴いた南米サイケアルバムの中でも一二を争う素晴らしい内容の愛聴盤になっています。

南米のトラッドと欧米のロック(サイケ)が絶妙に配合されたラテン・フォークロックとでも呼べるようなスタイルで、コンガとかがラテンのリズムを刻んだりしますが、サンタナみたいなラテンロックとはまた微妙に違っていて、これも、どこかねじれて歪んでるのにピュアでプリミティブという南米サイケならではのグルーヴを感じます。そして、なにより力強くて美しい。

サイケデリアとしてのアシッド感も高く、まるで空高く飛翔してナスカの地上絵を俯瞰しているかのような浮遊感の"Yellow Sea Days"、チープオルガンとファズギターに「ドンドコ ドンドコ」な祭祀的・呪術的リズムが強烈なサイケチューン"Jews Caboose"、そして極めつけは「ヤヤヤヤヤー ヤーヤーヤヤ ヤーヤ We were having fun even know we were dying! ヤヤヤヤヤー ヤーヤーヤヤ Let me die, Meshkalina ウン!」が一日中耳について離れない、これぞ南米密林サイケの"Meshkalina"、といったぐあいに、アコースティックなアシッドフォークナンバーからファジーなヘヴィサイケデリアまで、南米サイケの魅力をあますところなく堪能させてくれます。

次のサードアルバム"Traffic Sound"(1971)では、前作でも使われていたサックスやフルートがもっと前面に出て、TrafficとかJethro Tullとかを連想するようなプログレ方面への進化が見られますが、それでもやはり、ぬらぬらと絡みつくようなファズギターとか、妙にナマナマしい楽器の音やアンサンブルがプリミティブな感じで、これも良いです。


Traffic Sound
Virgin (リンクはFreak Emporium)

Traffic Sound
Traffic Sound
Traffic Sound


Traffic Sound
Yellow Sea Years: Peruvian Psych-Rock-Soul 1968 to 1971



Laghonia
ギターのDavid Leveneは北米の出身で英語がしゃべれるとのことですが、リードボーカルは2枚のアルバムで数曲のみで、他はペルー人のメンバー(Saul Cornejo)が歌っています。ややラテン訛りの英語(Davidまで訛ってるのが面白い)なんですが、その頼りなげなボーカルがとても良かったりします。

素朴なアンサンブルの中に時折りハッとするようなキャッチーなメロディやフレーズが出てきたり、初期Byrds風のリズムギターに「色っぽい」ファズギターがからんだり、特に、メランコリックでナイーブなメロウチューンが美しくて魅力的です。素朴でピュアな1stの"Glue"(1970)、ハモンドオルガンがさらに活躍する、よりポップで洗練された2ndの"Etcetera"(1971)、どちらのアルバムも素晴らしい。


Laghonia
Glue


Laghonia
Etcetera


なお、Laghoniaのメンバーを中心にTraffic Soundのメンバーなどをまじえて1972~73年ごろに、We All Togetherという名で、モロにビートルズフォロワーなアルバムが制作されています。もともとLaghoniaは、デビュー作のボーナストラックが初期ビートルズだったり、本編も(特に2ndに)ビートルズフォロワー的な曲が散見されていたのですが、このアルバムはど真ん中の直球勝負という感じで、ビートルズ的な楽曲に対するピュアでナイーブな思い入れが清々しい好盤になっています。

オリジナル以外にもPaul McCartneyの"Bluebird", "Tomorrow", "Some People Never Know"や、Badfingerの"Carry on Till Tomorrow"がカバーされてたりで、ポップなイメージが強いのですが、さすがは南米サイケ野郎、アシッドロック的な浮遊感もそこはかとなく漂っています。ボーカルがカート・ベッチャーな感じだったりもするので、ソフトロックファンも気に入るかもしれません。

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WE ALL TOGETHER
WE ALL TOGETHER (輸入盤 帯・ライナー付)

南米サイケ特集 その2

Modulo 1000
ブラジルはリオデジャネイロ出身の4人組。唯一のアルバムは1970年の"Nao Fale Com Paredes"で、これがまたハンパでなくスゴい。一曲目のヘンテコリンなチープオルガンやギターのフレーズで、いきなりやられてしまいます。

サイケデリックでもありヘヴィロックでもありプログレッシブでもある。Black Sabbathのような、おどろおどろしくヘヴィなリフ。Canのようなアバンギャルドさとビート感。Hawkwindのようなスペースオペラ的B級SF感。C.A. Quintetのようなキワモノ的サイケデリック感覚・・・。それらのすべてを超えたナマナマしさとヤバさがあります。これ聴いて恍惚としているところを見られたら、友だち失うんじゃなかろうか・・・。

なんだかとてつもなく不穏で、感性がびっくりハウスの鏡のように歪んでいる。全曲ポルトガル語の歌がそのいびつな感覚にまたピッタリで、その言葉の響きのせいでしょうか、おどろおどろしいリフとはいっても、サバスとかバッジーとかみたいに芝居がかった大仰さというより、天然みたいに聞こえてしまいます。CDのボーナストラックが本編とは一転して温和なボサノバ調になったりするのも謎。南米サイケ恐るべし!


Modulo 1000
Nao Fale Com Paredes



Bango
こちらもブラジルのオルガン入りヘヴィサイケバンドで、セイムタイトルのアルバムは1970年の作。前述のModulo 1000のあとだと、かなり「まとも」っぽく聞こえるのですが、それでもやはり北米のバンドの感性とはどこか異質なのが面白い。「ナーナナナー」とか「イエー ヘイ ヘイ」とかのコーラスのノリなんかも微妙に違って聞こえるところが新鮮です。

ヘヴィサイケとはいっても、しっとりとしたメロウチューンもけっこうあって、それがまた良い味を出してます。各楽器の演奏や曲のクオリティも高く、(英語で歌ってる曲もありますが)ポルトガル語の歌が、表情と起伏に富んだヘヴィサイケサウンドの中に自然に溶け込んで、単なる欧米のコピーではないブラジリアンサイケ独自の世界を作っているところが素晴らしい。ジャケも、いかにも南米サイケという感じ。


Bango
Bango

南米サイケ特集 その1

以前チラッと書きましたが、一年前にこのブログを始めた頃は南米物はまだほとんど聴いたことがありませんでした。手を出したら絶対ハマるだろうなというのがあって、わざと避けていたところもあるのですが・・・。案の定、聴き始めると病みつきになってしまいました。

スペイン(ポルトガル)語のボーカルに、いなたい感じのファズギターのリフ、コマーシャリズムのフィルターにかけられていないプリミティブな音の向こうに、いにしえのインカやアンデスの空気を感じたりする瞬間は、まさに至福の時です。

南米のインディオの文化は、コカの葉やら幻覚キノコやらの影響下からか、もともとサイケデリックな感覚を持っていて、古代文明の風習や美意識にどこか「いびつ」で現実離れしたところがあったり、謎の部分が多かったりするのですが、それが南米サイケの「血」の中にも流れているように感じます。

ブラジルとかペルーとかチリとか、国別にまとめて書こうかとも思いましたが、まだまだ系統立てて論じられるほど聴いたわけではないので、中間報告ということで、雑記風につらつらと書き綴っていきたいと思います。


Almendra
アルゼンチンのバンド。特に1969年の1stは有名で、数ある南米サイケのなかで「どれから聴けばいいの?」という難問の模範解答のひとつではないかと思います。ジャケのセンスは微妙ですが、中身は素晴らしく、ポップさとアシッド感のバランスが気持ちの良い逸品です。

フォークロック/ソフトサイケ系の音で、何気なく聞いていると、すーっと流れていくような耳当たりの良さもあるのですが、よく聴くとLoveの"Forever Changes"
を連想させるような、ピュアさとポップさ、ねじれ感とアシッド感が交錯する、カラフルでパラノイックなサイケ感覚を備えていることがわかります。全曲スペイン語で歌われていて、ちょっとハスキーでメランコリックなLuis Spinettaのボーカルがクセになります。


Almendra



Kissing Spell
チリ産の5人組。1970年のアルバム"Los Pajaros"は有名なタイトルで、歌は英語とスペイン語が半々~六四くらい。

Vernon Joynsonの著書(Dreams Fantasies & Nightmares)には、「レコードディーラーが賞賛するほど良いとは思わない。ファズギターがぎこちなかったり音をハズしたり、ボーカルもしかり・・・」みたいなツレない評が書かれていますが、私にしてみれば、まさにその「ぎこちない」部分が良かったりします。単にアンサンブルが下手だというのではなく、欧米の「こなれた」感性ではちょっと出せないような「いびつさ」で、それが新鮮に響きます。

音はドリーミーなソフトサイケ系で、先頭の鳥のさえずりで早くも南米ムードが横溢。メランコリックで美しいボーカルハーモニーや、「いなたい」ファズギターやオルガンの合間から時折顔を覗かせるクラシカルなフレーズなどにハッとさせられます。


Kissing Spell
Los Parajos (リンクはFreak Emporium)


ビリー・ザ・キッド 21才の生涯


ワーナー・ホーム・ビデオ
ビリー・ザ・キッド 21才の生涯 特別版

「エデンの東」やアントニオーニの「砂丘」と並んで、「なんでDVD出ないの?」の筆頭だった「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯」(原題 Pat Garrett & Billy the Kid)の日本盤DVDが2月3日に発売されます。監督の記録に基づき新たに編集された「特別版」ということで、どんな風に仕上がっているか楽しみです。

ロックファンにとっても、ビリー役にクリス・クリストファーソン、その恋人役にリタ・クーリッジ、ビリーを慕うビリー・ザ・キッド・ボーイズのひとりにボブ・ディランという、3人のシンガーソングライターが出演しているのも見所です。ディランは音楽も全面的に担当し、「天国への扉」(Knockin' on Heaven's Door)は、この映画をきっかけに書かれ、初出は本作のサントラ盤でした。


監督はサム・ペキンパー。この人の映画は好き嫌いがわかれるかもしれません。殺伐としていてニヒルで残酷で、夢も希望もないような救いのなさ・・・。しかし、一本スジの通った独自の美学を持った作品群には、ある種のリリシズムや詩情のようなものさえ感じます。「わらの犬」「ガルシアの首」「ゲッタウェイ」などは何度も繰り返して観てしまう磁力のような魅力があります。本作も、全編茶色系で統一された色彩に、全身黒ずくめのジェームズ・コバーンのパット・ギャレットや、「アンチ“シェーン”」の印象的なラストシーンがシビれます。


Bob Dylan
Pat Garrett & Billy the Kid

嵐の青春 (Psych-Out)

嵐の青春 [DVD]
キングレコード
嵐の青春 [DVD]

前回の「白昼の幻想」と同じ1967年(公開は68年?)に同じ映画会社(AIP)によって製作された、姉妹編(*1)ともいえる「嵐の青春」(原題Psych-Out)ですが、なぜか前者にくらべると言及されることがはるかに少ないように思います。しかし、当時のフラワームーブメントやサイケデリックシーンをリアルタイムに題材にした、まさに「カルトムービー」と呼ぶにふさわしい濃い内容で、サイケファンにとっては「白昼の幻想」よりもむしろ必見度は高いのではないかと思います。

なにしろ、舞台はサマーオブラブ真っ盛りのヘイトアシュベリー。主人公はサイケバンドのギタリストで、演じるのはジャック・ニコルソン。音楽を担当したのがStrawberry Alarm Clock(以下SAC)やSeedsで、彼らがスクリーンにも登場して演奏シーンを披露する・・・とくれば、観ないわけにはいかないでしょう。冒頭、SACの"Pretty Song from Psych-Out"が流れる中、ヒロインのスーザン・ストラスバーグがバスでヘイトアシュベリーを訪れるシーンで、いきなりフラワーパワー満開です。

映画作品そのものとしては低予算B級映画であることに異論はないのですが、本作も「白昼の幻想」同様、そのチープな感覚がかえって60sサイケっぽくて、他に変えがたい魅力となっています。それに、背景や小道具のサイケデリックな美術は、ヘイトアシュベリーに並べられていたものをそのまま持ってきたのではないかと思えるくらい違和感のないもの(リキッドプロジェクション等のライトショーの「らしさ」もピカイチ)で、ビクトリアンハウスでの共同生活や、それまでレコードビジネスとは無縁だったバンドが契約やお金のことで俗化してゆくエピソードなど、1967年当時のシスコのサイケデリックシーンをしっかり研究した跡がうかがえて好感が持てます。


ジャック・ニコルソンの「なんちゃってパープルヘイズ」チューン(*2)がイカす!

私なんかが観てて楽しいのは、前回の「白昼の幻想」もそうでしたが、ドラッグを礼讃しているようにとられるとボツにされるおそれがあったため、バッドトリップの怖さを強調するようなエピソードを入れたことが、B級ホラー映画みたいな感触にもなって面白いところです。「白昼の幻想」はロジャー・コーマンのポー作品的ゴシックホラー風、「嵐の青春」はゾンビ映画やヒチコックの「サイコ」風エピソード(当初のタイトル"The Love Children"が、ヒチコックの"Psycho"にあやかって"Psych-Out"に変更されたり、予告編なんかを見ても怪奇/スリラー映画としても客を引こうとしていたことがわかる)。

さて、音楽ですが、"Rainy Day Mushroom Pillow"のようなフラワーっぽい浮遊感のある曲を中心に、全体的にサイケ度の高い充実したものです。アナログのサントラ盤は"The Trip"に劣らず高く評価されているようですが、どうやらCDは発売されていないようです。

サントラ盤ではテーマ曲といえる"Pretty Song from Psych-Out"(SACの68年の2nd、"Wake Up...It's Tomorrow"に収録)は、なぜかSACではなくStorybookというグループの演奏/クレジットになっています。そのほか、印象的な"Beads of Innocence"など、最も多い5曲が収録されていますが、彼らは音楽を担当したRonald Stein(ロジャー・コーマンなどの低予算B級映画の音楽を数多く手がける)の曲をサイケバンド風に演奏するためのスタジオプロジェクトではないかと思われます。(StorybookというのはSACの変名ではないか?という話もあるようですが、私は別のバンド説です。)

いずれにせよ、このグループによる演奏は脱力系の素晴らしい似非サイケチューン(シタールや適度なチープ感もグッド)になっていて、これ以外では聴けないようなので、サントラ盤のCD化が望まれるところです。


"Two Fingers Pointing on You"を演奏するSeeds(上)と、デビュー作の
ジャケそのまんまの衣装で"Rainy Day Mushroom Pillow"を演奏する
SAC(下)。初めて見たときは目が点になった。SACの曲は"Incense and
Peppermints"や"The World's on Fire"も印象的に使われている。


*1
キャスティングもカブっていて、スーザン・ストラスバーグと、その兄役のブルース・ダーンは「白昼の幻想」にも出演しています。また、この映画でもジャック・ニコルソンは脚本を書いたのですが、結局「実験的過ぎる」という理由で監督のリチャード・ラッシュにボツにされてしまったとか。ちなみに、撮影監督はこのあと「イージー・ライダー」を撮るラズロ・コヴァックスで、この映画も「バイカー映画」~「アシッドムービー」→「イージー・ライダー」という流れの中に位置づけられます。

*2
Boenzee Cryqueの"Ashbury Wednesday"。Boenzee CryqueはのちにPocoを結成するGeorge Grantham とRusty Youngが在籍していたバンドで、67年に(2枚の)シングルのみを出しています。


追記: DVDが再発されています。

嵐の青春 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
嵐の青春 [DVD]

白昼の幻想 (The Trip)

白昼の幻想 [DVD]
キングレコード
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ひさびさの映画ネタです。サイケファンとしてはやはりハズせない、60s二大アシッドムービー(?)の「白昼の幻想」と「嵐の青春」(次回掲載)をまだ紹介してませんでした。この二作はチープオルガン的なセンスをそのまま映像化したような、60s独特のムードを伝えてくれる愛すべき「B級」映画です。

特にこの「白昼の幻想」(原題The Trip)は、かなりの60sファンでも「予想以上にB級な映画だったな」と感じられたのではないでしょうか。それもそのはず、製作・監督が低予算B級映画の帝王ロジャー・コーマンで、それがウリであるトリップ映像を作り出すための「特殊“サイケデリック”効果」にかけられた予算は、たったの1万ドルだったそうです。

ということで、おサイケなシーンはまるで縁日の景品の万華鏡みたいだし、トリップのイマジネーション自体がクラクラするくらいにチープ。ジャック・ニコルソンによる脚本も、主人公のピーター・フォンダがLSDを飲んでトリップするという、ただそれだけのお話です。(監視役のブルース・ダーンが目を離した隙にピーターがラリったまま街に出て行くのですが、勝手に人の家に上がりこんでその家の少女と仲良しになったり、コインランドリーの洗濯機にやたら感動したりと、単なる「ちょっとアブナい兄ちゃん」なのが可笑しい。)

しかし、この映画の魅力は、まさにそのロジャー・コーマン的チープさにあるのであって、それ以前に彼が撮っていたエドガー・アラン・ポーの原作による諸作、「アッシャー家の惨劇」「恐怖の振子」「黒猫の怨霊」「姦婦の生き埋葬」「怪談呪いの霊魂」といった作品のノリが、そのまま60sの風俗を描いたサイケデリック映画に化けて、それがピタリとハマってしまっているところではないかと思います。現在のSFXやらCGやらの技術を使って、もっと「上等な」トリップ疑似体験映画を作ることも出来るかもしれませんが、それではこの映画のような魅力は絶対に味わえないでしょう。


ピーター・フォンダとデニス・ホッパーの「イージーライダー」コンビ。
バックのサイケな美術や60sのファッションを見てるだけでも楽しい。

映画史ダイナミクス的に見ても本作は重要で、ロジャー・コーマンが「脱ポー」作品として若者文化に目を向けた「ワイルド・エンジェル」(1966)が大ヒットし、そこで主役に抜擢されたピーター・フォンダと、ロジャー・コーマンのもとで下積みしていたジャック・ニコルソン(脚本)、そして共演のデニス・ホッパーが出会った本作「白昼の幻想」(1967)が、60sを代表する名作「イージー・ライダー」を生む土台になったのでした。ちなみに、ヘルス・エンジェルスを題材にしたバイカー映画の「ワイルド・エンジェル」が「イージー・ライダー」のヒントにもなっています。

そして、サイケファンにとっては映画本体よりもポピュラーかもしれない、Electric Flag(映画でのクレジットは"The American Music Band")による素晴らしいサウンドトラックも、この映画のもうひとつの魅力です。一度聴いたら忘れられないテーマ曲の"Peter's Trip"や、バッドトリップの幻覚に追われる焦燥感を見事に表現した"Flash, Bam, Pow"など、この名作サントラ盤は、サイケファンはもとより、ラウンジミュージックとかの「おしゃれな」リスナーからも高く評価されているようです。

The Trip: Original Motion Picture Soundtrack
Electric Flag
The Trip: Original Motion Picture Soundtrack


追記: DVDが再発されています。

白昼の幻想 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
白昼の幻想 [DVD]