クール・クールLSD交感テスト | サイケデリック漂流記

クール・クールLSD交感テスト


トム・ウルフ
クール・クールLSD交感テスト

一万年ぶりくらいな本ネタですが・・・。Fuzzy Floorの「おすすめ本」を編集してて、「おっと、これまだちゃんと紹介してなかったな」と思い至りまして。やはり、60sサイケ関連のレビューやってて、この本について書かないわけにはいかないでしょう、というわけで少し・・・。

私がこの本をはじめて読んだのは、60sサイケにハマってからのことでした。それまでは「どっかで聞いたことがあるな」くらいの認識だったんですが、読んでみて「ひゃー、こんな本だったのか!」と、目からうろこポロポロ状態になってしまいました。

著者のトム・ウルフは新聞記者出身のジャーナリスト/作家で、ニュー・ジャーナリズムの旗手と呼ばれた人。日本では「ラスト・アメリカン・ヒーロー」「ライトスタッフ」「虚栄の篝火」といった映画の原作者として有名ではないかと思います。本作(1968年)を執筆中は30代半ば過ぎで、すでにベストセラー作家となっていました。そんな彼が、ヒッピーのコミューンでメリー・プランクスターズらと生活を共にし、ハンター・トンプソンのゴンゾー・ジャーナリズム(*1)的な手法で描いたドキュメンタリー・ノベルが、この「クール・クールLSD交感テスト」(原題"The Electric Kool-Aid Acid Test")です。

ケン・キージーとプランクスターズたちの生態、LSDをめぐるドタバタ、アメリカ大陸横断のサイケなバスツアー、アシッドテストにトリップフェスティバル、ケンの逮捕とメキシコへの逃亡、帰国後のアシッドテスト・グラデュエーション・・・。それらの狂騒的な出来事が、ケン・キージー、ティモシー・リアリー、ニール・キャサディ、ジェリー・ガルシア、のちのガルシア夫人のマウンテンガール、グレイトフルデッド・ベアの「元ネタ」にしてLSD製造者オーズリー・スタンレーら、サイケ関係者総出演といった感じで綴られていきます。

この本がスゴいのは、そのようなドキュメンタリー的な側面だけではなくて、文体というか描写というか、その表現そのものがサイケデリックでファーアウトで、まるでこの本自体がある種のドラッグのような効果を持っていて、読んでいるうちにハイになることでしょう。翻訳文のぎこちなさや誤植までもがプラスの要素になっている感じで、まったりとしたシスコサイケなんかを流しながら読むとまた格別です。

以下は、アシッドテストの場面からの引用。

・・・四時間ほど前そうとう数の人たちがLSDを飲み、その第一波に襲われ、恍惚となろうとしている。二つのプロジェクターが照射されている。バスとプランクスターズがロッジの壁の上を転りはじめる、とバップスとケーシィはしやべりはじめる、バスは巨大なすがたをさらし、震動し、はずむ。ノーマンはフロアに坐り、陶酔し、半ば恐怖し、半ば恍惚とし、脳裏でこれがアシッド・テストのパターンだと意識し、坐り、見つめ、LSDの襲撃に陶酔する、午前三時か四時、マジック・アワーだ、踊る──なんとすごいLSDの襲撃だ! ムービーだ。ロイ・セバーンのライト・マシンはロッジのコーナーじゅうにSF的な赤い銀河の海を写し出し、そして油・水・食物・カラーに色が塗られ、それがガラスの皿のあいだにはさまれ、巨大な大きさに拡大されて映像化され、放射されるから、どろどろした創世記の細胞と化し、大気中に流れ出すように見える。デッドは海中でばかでかいビブラートのサウンドを震わせている。そのサウンドはアリューシャン列島の岩石をゆるがし、カリフォルニア湾のパシャ・グリフン断崖を震わす。グワーンブワーン。デッドのクレージーなミュージック! 苦悩と恍惚! 海底の中のサウンドだ! 半ば乱調子で、ものすごくやかましい。まるで滝の下に坐っているとききこえるような音だが、同時にエレキギターの一本一本の弦が半ブロックも長く、それが天然ガスのたまった部屋にブーンと響くかのようで、グール(墓をあばいて死体を食う鬼)たちがショーをやらかしているときのあのビブラート音が轟く・・・
(飯田隆昭 訳)


1966年、Haight-Ashburyにて。右から、Tom Wolfe,
Jerry Garcia, Rock Scully(デッドのマネージャー)。


原書で読んでみようという猛者(もさ)の方はこちら。


Tom Wolfe
The Electric Kool-Aid Acid Test


*1
ゴンゾー・ジャーナリズムとは、本来は客観的で公正中立のはずのジャーナリスト的立場を捨て、自ら取材対象の中に入り込んで、主観的なドキュメンタリーとして記事を書くというスタイル。ハンター・トンプソンは60年代にヘルス・エンジェルスと生活をともにして本を書いた。ケン・キージーとプランクスターズらにヘルス・エンジェルスを紹介したのも彼で、そのエピソードは「クール・クールLSD交感テスト」の中にも登場する。その結果が、めぐりめぐって「オルタモントの悲劇」につながり、フラワー文化の息の根を止めてしまったのは皮肉である。ハンター・トンプソンの原作を元にした映画「ラスベガスをやっつけろ」の過去記事はこちら