樹は時に
人の肌のように
やわらかく
あたたかい
あのとき
もっと こうありたかった
優しくありたかった
正直でありたかった
完璧でありたかった
余裕をもちたかった
思慮にとんでいたかった
色々な言葉が喉まで浮かんでは
口のなかで噛み殺して
飲み込んでいる
そして
「こうありたかった自分」を
ずっと噛み締めている
顎に力が入って
ずいぶん長い間
奥歯を噛み締めていることに気づく
浅い呼吸
みぞおちが固い
「正しくあれなかった自分」を
ぎゅうぎゅうに押し込めて
飛び出してきそうな危険な言葉も
ぎゅうぎゅうに閉じ込めている
そうやって居続けることに
ずいぶんエネルギーを使って…
胸の奥がカラカラに疲弊してる
背中の
柔らかい樹の感触に気づく
ゴツゴツとして
でもどこか柔らかい
正しいとか
正しくないとか
少し休みにして
樹の存在に気づく
この樹の下で
少し休ませてもらっていることを感じる
蚊が容赦なく刺してきて
あちこちの痒さに気づく
何をそんなに噛み締めてるの?
「できなかった自分」を認めるのが辛いの
「上手くできなかった自分」に耐えられないの
だから、噛み締めて抵抗してる
そうじゃない、そうじゃないって
誰に言ってるの?
・・・
「上手く出来なかったことがある」
「理想通りに出来なかったことがある」
胸のなかを開いて
ただ、その場所に 少しいてみる…
その場所で 少し呼吸してみる…
風が、胸の中を少し通り抜ける
居心地の悪い
慣れていないその場所
どんよりしてくるのが怖くて
すぐに閉じて違う場所に行きたくなる
もう少しだけ そこにいてみる…
ちょっとずつ、顎の力が抜けていく
頭に熱がのぼって
ギュイーンって動きはじめる
「いやいやいや」「そうじゃなくて」
そんな言葉が浮かぶけど
ただ、その収縮する動きに気づく
また、胸の中に戻って
少しその場所で呼吸する
抵抗してる力をゆるめてみる
うん、そうなんだよね…
わき上がる言葉がある
「上手く出来なかった自分」の場所は
色も力もなくて
まるで漂流して打ち上げられた岸辺みたい
諦めにも似た
やわらかい微かな風が吹いてる
このまま絶望して
動けなくなるかもしれない
そんな恐怖が頭をかすめる
でも、その場所に戻って
そこからわき上がる
呼吸に気づいてみる…
やわらかくて
微かな呼吸が
体の中をあがっていく
抗っていた
顎や、手の力が
少しずつ抜けていく
骨と皮の間に
僅かな隙間ができてゆく
遠くでセミの声が聞こえる
抵抗を諦めた体が
空っぽになって
浮かんでいる




