マターボードは運命を冒涜する装置だ。
シオンの難しい言葉の羅列を無理やり理解しようとすると、その結論に至った。
その不思議な『板』は所有者に、次に行くべき場所を示してくれる道しるべだと、先に話した。
では、その道しるべを辿り、ゴール地点にたどり着いたら、一体どうなるのか?
その答えが、以前に書いた不思議な現象だ。
時間をさかのぼり、同じ終了任務をもう一度受けたように。
わかりやすく言えば、タイムスリップしたのだ。
修了任務・・・マトイに出会わなかった一回目の方だ・・・から無事帰還し、シオンからマターボードを渡されたのをまるで合図にしたかのように、周りでとある噂話が広まっていた。
ジャン・・・。
ビジフォンの使い方や、武器の強化など、新人アークスの俺に頼みもしないのにいろいろ教えてくれる、経験豊富なアークスだ。・・・特徴は、話がやたらと長い事。
マターボードの導きで、彼とであった俺はそこである事実を聞く。
「君のような新人のアークスが、女の子を救えなかったと嘆いていた」
ジャンから一連の話を聞くと、マターボードのマークに『探索終了』の印が付く。
そして、次のマークが点灯した。
レダ。
その外見と言動が示すように、どこか軽い印象のアークスで、俺と同期だ。
ジャンが言っていた嘆いていたアークスとは彼の事だった。
レダと同行していた仲間は見間違いじゃいのかと言っていたそうだが、彼はかたくなに否定する。
確かに見たと。
だが、結局ダーカーに追い回され、救いの手を差し伸べる余裕はなかったのだという。
また一連の話を聞くと、マターボードに『探索終了』のマークが刻まれた。
こうして、マターボードを埋めていくことによって、過去に起きた事柄に対する情報が入ってくる。
そして、まるでバラバラだったパズルが完成するかのように、マターボードの示す情報が揃ったとき、その不思議な板は新しい『選択肢』を提示する。
例として、修了任務の事をあげよう。
最初、ダーカーが出現したとき、俺達の前には道が三方向に分かれていた。
これは抽象的な表現ではなく、そのままの状況だ。
南から北上するように進んでいた俺達の行く手をダーカーが阻み、東は茂みに覆い隠され、西は岩に塞がれた道があった。そして、北は何もない、次のエリアへと続く道が続いていた。
その場のダーカーを全滅させた後、一回目は安全確保の為に北へと進んだ。
結果、ゼノに助けられ、マトイを発見することはなく終わった。
そして、『二回目』は東へ進むことを選択した。
タイムスリップする瞬間は覚えていない。
マターボードに沿って情報を集め、『もしあの時ああしていたら違う結果になった』・・・修了任務で、北へは進まず、東へ進んだらマトイを見つけたという形だ・・・と俺が認識すると、マターボードが光った・・・のだと思う。そして、気がついたら、修了任務へ向かうキャンプシップの中だった。
タイムスリップは思うようにはできない。
『もしあの時ああしたら』や『今の状況であの時間へ戻れたら』・・・そんな『もしも』を考えると、マターボードが反応するようにできているのだと俺は考えている。
実際に、シオンに時間を遡る時の条件を質問してみたが、やはり抽象的で難しい言葉の羅列が並び、ほとんど理解できなかったので、彼女から答えを得ることは諦めた。・・・学者のように頭がよければと、自分の学の無さを呪った。
ともあれ、こうしてマターボードは俺を導き、様々な出会いをさせる。
だが、なぜマターボードは・・・いや、シオンはこれを俺に託したのだろう?
まるで、『本来そうあるべき未来を修正している』感覚に陥っている俺だが、なぜ彼女は俺を選んだのだろう?
シオンは俺に何を求めているのか。
「私は観測することしかできない」
その言葉から、彼女の目的は感じ取ることはできない。だが、頻繁に謝ってくることからロクなことではないのだろう・・・あまり思いたくはないが、多分そういうことなのだろう。
それでも、シオンの言うとおり、マターボードの導きに従う俺自身何を考えているのだろう?
嫌な予感がするのなら、マターボードを捨てるなりなんなりすればいい。
だが、俺にとって重要な『何か』まで一緒に捨てることになるような気がして、ためらってしまう。
このマターボードの記す先に、なにか重要な意味が込められているのはないだろうか?
・・・結局のところ、第六感、『なんとなく』で今の状況を進めている。
それがこの先、後悔につながることになるとしても・・・。