「・・・たす・・・けて」
俺とアフィンは再びナベリウスへと降り立った。
そして、一人の不思議な少女を発見した。
キャンプシップから地上へと降りた時、俺は再び聞いた。「タスケテ」というあの声を。
森へと続くエリア。進行方向を遮る茂みをソードで切り分けながら、進んでいった先に、彼女は倒れていた。
「なんでこんなところに。・・・アークスって感じでもないしな」
何かの礼服というかなんというか。とにかく特殊な服をきた白い少女だった。(後にこの服はミコトクラスタと判明する)
『全アークスに通達。ダーカーによる空間許容限界の低下を確認しました。コードDの発令を解除。警戒レベルを引き下げます。各員、安全を確認後、帰還してください』
オペレーターの通達が来る。
付近に出現していたダーカーの気配が消えていった。どうやら、奴らは引っ込んでいったらしい。
アフィンが後の事は頭のいい連中に任せて、帰ろうぜと提案する。
断る理由はない。
救助した少女を先に転送し、俺達はキャンプシップへと戻っていった。
無事にアークスシップに戻った直後、突然メディカルセンターに呼び出された。
先ほど預けた、救助した少女の事についてだという。
言われるまま足を運ぶと、フィリアという看護官が出迎えてくれた。
彼女の話によると、目を覚ましたは言い物の、何を聞いても全く喋らないのだそうだ。
知らない場所で突然目を覚まして、怖がっているのだろうと。
そこで、俺が呼び出されたというわけなのだが・・・。呼び出されてもこまってしまった。
不安そうな顔でうつむく少女に対し、俺にどうしろというのか。
フィリアも、その辺は重々承知しているとのことだったが、こまってしまった。
俺は正直、女と話をするのが苦手だった。
とりあえず、少女が保護されている病室に入り、ベッドに座っている少女に視線を合わせ、精一杯の笑顔を作ってみせた。
フィリアが『ぎこちなくて怖いですよ?』と小声でいうのを聞いたが、無視した。
「あ、・・・アッシュ」
俺達二人は目を丸くした。少女が口を開いたのである。それも、彼女の方から。
一言も喋らなかった少女が突然話しだしたというのも驚きだが、それ以上に、少女は俺の名を呼んだ。
まだ、教えていなかった俺の名前を。
少女はマトイと名乗った。
その時の彼女の表情は、少しだけ和らいでいたのを覚えている。どういうわけだか、俺に対しては随分有効的だった。・・・正直ホッとした。
「マトイちゃんは、どうしてあの星にいたの?」
検索をかけて見ても該当するデータはなかった。少なくとも、アークスではない。
ただ、先住民族にしては生体パターンはアークスに近いという。
フィリアがマトイに質問を投げかける。
だが、
「・・・・」
マトイは俺の体の影に隠れるようにして、フィリアを見ていた。
怖がらせちゃったかな?と、彼女が苦笑する。
「マトイちゃん、随分あなたになついていますね。刷込みみたい」
卵から孵化したばかりの鳥の雛が最初に見た動物を親と認識する減少に例えられる。
確かに、マトイの様子を見ると、そうも取れなくはない。
ただ、この歳でこんな大きな娘ができるというのは、なんとも言い難い複雑な気分になるが・・・。
「本当なら、しばらくアッシュさんにはマトイちゃんの事を見ていてもらえるといいのでしょうが、そうも行かないでしょう。アッシュさんには、アークスとしての責務がありますから」
そうだ。俺はアークスだ。
いくらすがり付くような目を向けられても、ずっとこの場にいて付き添っやるわけにも行かない。
だから、フィリアの「彼女の事は私に任せてください」と言ってくれたフィリアの申し出が素直にありがたかった。
見たところ、そう俺と歳も変わらないであろうマトイに付き添うのは・・・その、勘弁して欲しかった。
後でアフィンに何を言われるかわかったもんじゃない。 今のこの状況でも、十分何か言われそうというものだが。
「あの。行っちゃうの?」
任務が終わり、色々と報告しなければならないことがあった俺は、メディカルセンターを後にしようとした。
そんな俺に、マトイが不安そうな顔で俺に言った。
申し訳ない気がして、すまないと一言言うと、彼女は「うん」と小さく頷き。
「気をつけてね」
と言った。
「なんだか、嫌な予感がするの、だから」
不思議な子だと思った。
初対面で教えていない名前を呼んだり、初対面のはずの俺の事を親身に気遣ってくれる。
それこそ、昔からの知り合いのように。
彼女が何者なのか、なぜ、俺の名前を知っていたのか。
「頭の中に聞こえてきたの」と彼女は答えたが、わからないことが多すぎた。
だが、その答えを導き出すには、その時はあまりにも手がかりがなさすぎた。
結局、マトイはメディカルセンターのフィリアと共に過ごすことになり、俺は都度都度、様子を見に来るようになった。
マトイはそれからあまり外には出てはいない。 時折、ショップエリアやロビーをフィリアと共に歩いていたらしいが・・・。
俺はメディカルセンターに足を運んでは、降り立った惑星のことや、新しく見つかったエリアの事を聞かせてやった。それを、彼女は目を輝かせ、嬉しそうに聞いてくれる。
この日記を書いている今でも、マトイの正体はわからない。
だが、いつしか彼女は、俺の帰りを待ってくれる・・・そう、『大事な人』の一人になった気がする。
・・・また、後で顔を見に行ってみよう。
わがままを言って、フィリアを困らせてなければいいんだが。
話が前後してしまった。
そうして、マトイはフィリアと過ごすことになった。
「よう、相棒! どうだった?」
メディカルセンターの外で待っていたアフィンに、これからの事を報告した。
彼は愉快そうに笑いながら「頑張れよ、お父さん?」と、俺の肩を叩いた。
・・・ぶっ飛ばしてやろうかと思ったのは内緒だ。
「でさ、どうなるんだろうな」
ふと呟いたアフィンに、俺はなんのことだ? と聞く。
それに彼ははあ?っと不思議そうな顔をし、
「終了任務だよ。俺達の」
・・・そう。終了任務。アフィンはその結果を気にしていた。
この一連で、俺達は正規のアークスになれたのか。彼はそれを心配していた。
「でも、なんつーか、なんとなく大丈夫な気はするんだけどな。人を一人救ったわけだし・・・って、おい、相棒! どうしたんだよ? 顔、真っ青だぞ?」
俺は大丈夫だと言った。
だが、正直気分は本当に悪かった。
俺は一瞬、アフィンの言葉を聞いて気が狂いそうになった。
いや、ひょっとしたら、狂っているのかもしれない。
今からメディカルセンターに戻って、異常がないか検査したほうがいいのではないか?
だが、どう説明すれば良かったのだろうか?
・・・アークスになるための終了任務を二回受けただなどと。
一度試験に落ちて再試験を受けたわけではない。
あの時、ゼノに出会ったあの時のように、ダーカーは現れた。
そして、同じように戦い、今度は別の道を進んだ。
あの時聞いた、「タスケテ」の声を確認するために。
もう、何度も経験していることだが、こうやって振り返ってみれば未だに信じられなかった。
俺は過去に起こった出来事を、再び体験していた。
時間をさかのぼって・・・・。
マターボードの導きのままに・・・・。