「待っていた。いや、待たせてしまった、というべきか」
ショップエリア。中央にある巨大なモニュメントの前で、シオンと名乗った女性は言った。
ショップエリアを歩いていた俺に、まるで妙な宗教団体への勧誘のように話しかけてきた・・・。
普通なら、そう感じるかもしれないが、何故かそう言った感じはしなかった。
むしろ、彼女の言うとおり、この人と出会うのを待っていた気さえした。
初対面の女性を相手に、随分と妙な気分を起こしたものだと、我ながら思う。
だが、シオンとの出会いは運命と言っても大げさにはならないほど、その後の俺の進むべき道に多大な影響を与えることになった。
――運命を冒涜するほどの、大きな出会いだった。
シオンの話は、抽象的というかなんというか、とにかく難しい。
出会ってからしばらく経った今でも、彼女の話を半分どころか、全く理解できない事も多い。
最初に出会ったこの時も、彼女が何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。
ただ、俺に対し、何かを謝罪し、期待をかけていることだけは、なんとなく理解できた。
彼女が俺に対し、何を望んでいるのか、その真意は理解できないが。
シオンは俺に一枚の『板」を渡してきた。
規則的に球体のようなマークが正方形に並び、その間をいくつか線で結んでいる。
簡略化された地図のようなそれを『マターボード』と呼んだ。
簡単に言ってしまえば、それは『道しるべ』だった。
ボードに記された球体型のマーク(必ずボードのすみから始まる)をスタート地点に、「ショップエリアのあの人に会う」、とか「この任務でこのポイントにいく」など、行動するべき事柄を記している。
そして、マークが示す行動が終了すれば、『探索済み』と印がつき、結ばれた線にそって隣接しているマークが反応する。
・・・口で説明するのは結構難しい。
とにかく、「次はここにいけ。何かあるぞ」と道しるべを示してくれる地図、と認識すればいいだろう。
マターボードを受け取ったあと、彼女の姿は消えていた。
歩いて去っていく後ろ姿を見たことがない。
用事がすみ、ふと瞬きをすると既に彼女の姿はないのだ。
まるで、虚空に映し出された立体映像がぷつりと消えたかのように。
不信に思った。
得体の知れない女性から得体の知れ無い物を渡されたのだ。
わけのわからない、あやふやな言葉とともに。信用しろという方が無理だろう。
だが、何の気まぐれか、俺はマターボードの導きのままに行動するようになった。
そうしなければならないという催眠にかかったのだろうか?
それとも、何か別の意思が働いていたのか?
それは今でもわからない。
いずれにせよ、マターボードは確かに俺を導いてくれた。
まるで俺が気になっていたこと、知りたかったことをわかっているかのように、次に進むべき道のヒントを・・・それも具体的な物を提示してくれる。
そのおかげで俺はナベリウスで起きた事の中核へと迫ることができた。
その道の中で、様々な出会いがあった。
そして、波乱に満ちた時間を過ごした。
そうだ・・・。半年にも満たない時間が、何年にも感じるような、大荒れの時間を・・・。