研修生としての日程を終え、これから修了任務に向かう新人アークスたちに、
レギアスはモニターの向こうでそう言った。
大英雄の六芒均衡の「一」から激励され、周りの新人は様々な反応を見せていた。
感動に打ち震える者、緊張でガチガチに震えるもの、特に興味もなさそうにゆるりとする者。
そんな彼らの中に、俺もいた。
アークスシップを六年間離れていたという事実は本来なら俺に様々な制約を共用してくるはずだった。
その六年間、一体何をしていたのか。
アークス上層部に無断で、それも認識されていない星に勝手に行ってしまうというのは、本来ならば相当の大事だとレギアスは言っていた。
そんな俺が何事もなく、研修生としての訓練を終えられたのは彼の力によるものだ。
六芒均衡という立ち位置にいる以上、それ相応の役目があったのか、訓練生として日々を過ごし始めた最初の頃、少しだけ様子を見に来てくれてはいたものの、時間が経つにつれその頻度は減っていった。
数える程度しか顔を合わせることもなければ語り合う暇もなかった。
それでも、俺はレギアスに感謝をしていた。
訓練日程を終えた訓練生は晴れてアークスとして、そして最初の任務として惑星ナベリウスに降り立つこととなった。
内容は二人一組でパーティーを組み、原生生物のデータをとってくること。
そこで、俺は一人のアークスと出会う。
「よろしくな。相棒」
初対面でいきなりそう呼ばれたときは驚いた。
アフィン・・・。
少しあどけなさの残るニューマンの少年で、俺と同期。
先ほどのセリフが示す通り、人懐っこい、いい奴だ。.
同じキャンプシップに乗っていた連中も、全てパーティを組み終えたところで、終了任務は始まった。
緑が豊だという点では、俺が六年間過ごしたあの星と似たところがあった。
だが、星を覆う木々はアークスシップの中にある建造物ほど・・・などという馬鹿げた大きさではない。
その分、空が随分広く感じた。
「お前、随分リラックスしてるな。緊張はしてないのか?」
アフィンは深呼吸をする俺にそう言った。
そして、笑って首を振るだけで返答した。
「微塵もしていない」なんて言ったら、イヤミになりそうだったから。
四年ぶりに降り立った惑星を目の前にして、俺の気分は少し高揚していた。
青い空で感じるフォトンは清々しい。・・・ただ、ほんの少しだけ、あの星にはなかった『濁り』のような物を感じる。それが気になってはいたが・・・。
「おい! どう見てもお友達になりそうって感じじゃないぞ!」
ナベリウスの森へと続くエリアを進んでいると、俺達は一匹の猿のような原生生物でであった。
ウーダンと呼ばれる、肢体の発達した俊敏性の高い生き物だ。
普段、刺激さえしなければおとなしいはずのウーダンだが、どういうわけか恐ろしい程の興奮状態であり、俺たちを見るやいなや襲いかかってきたのだ。
やむなく俺は、支給されていたソードでそのウーダンを昏倒させた。
初めての実践でも肝が座っていると評価してくれたアフィンだったが、ウーダンと似たような生物と何度も幼少から喧嘩したことのある俺にとっては朝飯前もいいところだ。
・・・これもイヤミになってしまうだろうか?
終了試験は順調に進んでいった。
途中、何度か興奮状態の原生生物と交戦をしたものの、それを危なげもなく払い除けていく。
アフィンも最初はオドオドしていたものの、やがて慣れてきたのか、ソードで戦う俺の後ろから、
アサルトライフルで援護をしてくれた。
的確な精度で的確なタイミングに的確に攻撃をヒットさせる。
本人はあまり主張はしていないが、彼の腕前は相当のものだと俺は思っていた。
「お前と組めてラッキーだったぜ。相棒」
そう言ってくれるアフィンの目は、信用していると示していた。
正直、俺は友人を作るのは苦手だった。
研修生時代も、少しは話はするものの、どういうわけか気がついたら一人の時間が多かった。
そのせいだろうか。
仲間として信頼してくれるアフィンの振る舞いが、少し嬉しかった。
俺も、なかなか運が良かったのかもしれない。
終了任務はその後、順調に進んだ。
原生生物との交戦でそれなりに上質なデータも取れた。
そろそろ、帰還するための転送ポイントへと向かおう。
そう二人で結論付け、俺達は歩いていた。
そして・・・。
――タスケテ。
声がした気がした。
「ん? どうした、相棒」
訪ねてきたアフィンに、俺は聞いた。今、誰かの声が聞こえなかったか・・・と。
アフィンは不思議そうな顔をして、あたりを見回すが、うん?っと首をひねった後、「聞かなかった」と答えた。
俺もどこから聞こえたのか、あたりを見回すが人の気配などまるでなかった。
気のせいだ。そう結論づけ、帰りを急ごうとした。
・・・・悪寒が走った。
大気を満たしているフォトンが一瞬にして冷やされ、それが自分の頭から足先までを通り抜けていく感触だ。
顔色を変えた俺に、アフィンが再び「どうした?」と聞く。
俺は今度も間違いであってほしいと願った。 なぜならそれは・・・。
十年前、俺がダーカーと対峙していたあの感覚に似ていたからだ。
さっきの声も気のせいだったのなら、この感覚も気のせいということにしてくれ。
俺は切に願った。・・・願ったが。
その願いは無駄に終わる。
奴らは・・・ダーカーは再び、俺たちの前に姿を現した。
あの星で見た幻覚なんかじゃない。
間違いなく本物の・・・宇宙の・・・俺達の敵が、目の前に現れたのだ。