100年前の心理学の本を紹介しますわよ | 植民所在地3丁目

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Alfooでのブログ『誰も知らない植民所在地』の発展系。所在地わかりました。

でも書いてることは変わらない。

既に記事にしていたかと思ったらまだしていなかったびっくり

 

知ってる人は知っている、知らない人にも隠してはいない。でうくさ、今は各地に飛ばされるしがないアラフォー社畜ですが、学生時代は本の虫、こと心理学はずっと学んでみたかった学問だったので、研究室に図書館に昼夜問わず出没する今考えるとかなりアヤシイ女でした。当時はスマホがようやく普及したかしていないかの時代、金もねぇ、足もねぇ、ネットに情報載ってもねぇびっくりマークおらこんな田舎いやだ~、おらこんな田舎いやだ~、政令市へ出るだ~、の心境だったのですが(私が住んでいた頃の熊本は政令市ではありませんでした)、大学の研究室を徘徊していると教授が専門書を貸してくれたり場合によっては譲ってもくださったり、図書館を徘徊すると本の市が開催されていて不用となった蔵書をタダで自分のものにできたりと、その時代はその時代でゆるゆると楽しんでおりました。

 

 

今回紹介するこの本は、図書館の本の市での掘り出し物。

 

 

『兒童心理學精義』(児童心理学精義)第五版。

なんと、1921(大正10)年7月に発行されたもの。104年前の書物ですねびっくりマーク

 

私の手元にきたのは15年ほど前ですが、その頃から既にボロボロな状態で、本を触ると指先が煤(すす)ける感じになるし、鼻水が止まらなくなります。有害図書(物理)w

 

定価金5円30銭なり。大正時代の1円は現在の価値にして1080円程度、1銭はその100分の1(10.8円)らしいので、現在の金額に置き換えると5454円のお値段になるようです。当時の大卒サラリーマンの平均月収が50~60円(現在の約54,000~64,800円)だそうなので、月収の10分の1をこの本に持っていかれると考えると・・・なかなかのお値段。月収30万の人が3万円の本を買う感覚よね・・・ガーン

ただ、専門書であることを考えると現在でも十分ありうる価格設定。

 

著者は上野陽一さんというかた。当時は調べようもなかったけど、現在になってどんなかたかを検索すると一発で情報が出てくるかなり著名なかた(画像は学校法人産業能率大学総合研究所のものをお借りしています)。

彼の経歴や功績、著書などの情報は研究所のホームページやWikipedia先生に丸投げするとして、心理学者としての活躍の他、マネジメント思想やコンサルティング技術の日本への導入、戦後の公務員制度の確立など、明治後期から昭和中期にかけ日本の舵取りにも多大な貢献をしたかたです。ちなみにこの人、「日本初のカメラマン」として幕末界隈で有名な上野彦馬の甥

 

同時期の心理学者としては、『千里眼事件』で有名な福来友吉がおりますが、同じ東京帝国大出身ながら全然毛色が違います。個人的には今後、福来についても調べたいし長州ファイブかつ日本の障害児教育の父でもある山尾庸三についても取り上げたい。

 

 

上野さんは心理学に関する著書を多数出版していますが、私の手元にある『兒童心理學精義』早稲田大学教員時代、37歳のときに著した12番目の専門書

 

ちなみに、こちらが『兒童心理學精義』の巻末で紹介されている当時の著書目録。

 

 

上野さん以外の研究者が著した心理学関連の出版物や

(当時、というか割と最近まで心理学の学位はなく、心理学者は「文学士」「文学博士」に分類されていました)

 

出版社である中文館が発行している書物の紹介もあり。当時の教員試験の受験者案内とか気になるw

 

中身についてですが、775ページにわたる大著であり、先達のこういった研究があるからこそ現在の日本社会や日本人が成り立っているのだと本当に頭が上がらない思いです。鼻水が出るのであまり長時間読めていないですけど(爆)、こういった基礎研究の遺産で現在は乗り切っている感があります。

 

 

「序」(はじめに)の部分。上野さんは専門としては産業心理学になるそうで、児童とはあんまり関係がないように思えますが、教育の重要性は強く感じていたとのことで、児童という教育の基礎に関わる分野の研究をまとめることにより、教育に関する理論的背景の理解や教育の問題点などを整理することが本著を著した動機であったようです。

 

 

 

目次の一部。

 

章としては全23章、構成は以下のようになっており、「メンデルの法則」で有名なメンデル、精神分析学者のフロイトヘレン=ケラーの事例(視聴覚を失っている子どもの教育事例)など、現在でも十分耳馴染みのある名前や言葉が載っています。フロイトもヘレン=ケラーも、この著書が出版された当時は生きていたんだよね。ヘレン=ケラーに至っては上野さんと同年代です驚き

 

 

         目次

 第一章:児童観の変遷と文明の進歩
 第二章:児童研究の沿革と児童保護運動の発達
 第三章:児童研究の方法
 第四章:児童研究の進化論的基礎
 第五章:児童研究の優生学的基礎
 第六章:児童研究の生理学的基礎
 第七章:児童研究の心理学的基礎
 第八章:本能の心理及び生理
 第九章:本能と教育
 第十章:自己保存の本能

   右矢印脊髄反射や物を溜め込みたがる(貯蔵する)本能、闘争-逃走反応、好奇心、いじめのメカニズムなどにも触れている。
 第十一章:種族保存の本能
 第十二章:社会的本能
 第十三章:児童の遊び
 第十四章:児童の言語

   右矢印精神・知能発達との関連や知能検査を実施するときの注意点などにも触れている。
 第十五章:児童の絵画制作
 第十六章:児童の絵画玩賞(がんしょう。観賞と同じ意味)
右矢印色覚異常、模倣作品の理解についても触れている。
 第十七章:習慣の生理及び心理
 第十八章:精神の発生と発達
 第十九章:意志及び徳性の発達
 第二十章:身体上の異常児

   右矢印身体障害のこと。言語障害や神経症(てんかん、ヒステリー、チックなど)もこの括りに入れられている。
 第二十一章:知能上の異常児

   右矢印知的障害のこと。優秀児(ギフテッド)についても触れており、優秀児に対しても特別な体制での教育が必要と述べられている。
 第二十二章:道徳上の異常児

   右矢印犯罪少年について触れている。
 第二十三章:心身発達の根本義

 

 

大正時代の書物なので言葉の使い方が心無い部分もありますが、そこは見逃してくださいませ赤ちゃんぴえん

 

参考文献は117本にわたる。さすが以外に言うことはございませんわよ。

 

挿画の目次もあり、文章一辺倒ではなく写真や画像に代わる挿絵、データのグラフなども掲載されておりました。

 

時代背景を表現した絵画の挿絵(左上)。

 

男女比や変遷を表したグラフ(左上)。

 

子どもの絵画の特徴を表したデータ(右上)。

 

精神年齢の指標の記述(左ページ)。

 

精神薄弱(知的障害)と少年犯罪の関連を調査するためのデータ。『ケーキの切れない非行少年たち』という本が一時期話題になりましたが、100年前からその関連については着目していて、海外研究を参考に日本でもデータ収集を開始した時期だったのですね。

 

文章の横にある赤いラインは私ではなく前の持ち主と思われる人が引いたもの。ひょんな感じで現在私の手元にあるこの本ですが、前の持ち主は子どもの情緒面の発達にすごく興味を持っているようでした(ここで暴露すんなやキューン)。

 

 

 

本書は国立国会図書館デジタルコレクションで全文を読むことができます。

 

 

 

久しぶりにこの本を引っ張り出して読みましたけれど、広げている間にも背表紙がぼろぼろと崩れていって、諸行無常感を味わいました笑い泣き

 

 

そして最後に。裏表紙に貼ってあるこのシールはなんだ滝汗

10何年保管しておきながら今更ですが、あんたちょっと不気味よびっくりマーク(爆)