『先生の背中』を観に行く
97歳の母から
「こんなの喜ぶのは貴女くらいだから」
と古い映画スタアのブロマイドを20枚譲られた
流石に女優さん俳優さんの顔と名前が一致しないので裏書で名前を書いてもらい持ち帰る。
原節子・高峰秀子・高峰三枝子・田中絹代・木暮三千代・京マチ子・李香蘭・上原謙までは認識できたが、水戸光子・川崎弘子・三浦光子・高杉早苗に至っては分からない。
さてさて「推しのいる私」としては貴重だが困った。
ブロマイドの中で気になるのは高峰秀子さんくらいなのです。
子供の頃の一番古い映画を観た記憶は邦画では「喜びも悲しみも幾年月」（佐田啓二・高峰秀子）
洋画だと「汚れなき悪戯」この2本のワンシーンくらいを覚えてる。
なので昨年の東京都写真美術館で開催の「巨匠が撮った高峰秀子生誕100年」写真展に行き記憶の掘り起こしを試みた。
併設のホールで上映された「女が階段を上がる時」（監督：成瀬巳喜男）も鑑賞した。
その流れで高峰秀子の作品をHu luで探し「女の園」（監督：木下恵介）を ENDRECHERI LIVE浜松会場前日に夜明けまで見てしまうことになる。
翌日のLIVE前、浜松散歩で木下恵介記念館に遭遇という偶然が待っていました。
そして本日、以前から誘われていた「先生の背中」〜ある映画監督の幻影的回想録〜をPARCO劇場で鑑賞
予備知識も事前情報もないままで「幕が上がり」（芳根京子さんもヒロインでご出演）
・舞台セットが映画の古びた撮影所なこと
・撮影所近くの「食堂の娘」が監督のお気に入りなこと
・娘と助監督が恋仲なこと
・大女優が現場を仕切っていること
なんか見覚えのある風景と監督の台詞回しにある人物と重なる
昭和な匂いがプンプンなのです。
あとでパンフレットを読み納得の「物語」でした
先生とは・・・
松竹映画全盛を築いた小津安二郎監督がモデルだった
世界で、特に欧州で黒沢・小津・溝口は絶大な人気を今も誇るが自分のアプローチは違った
奈良好きな自分は渋谷実監督の1961年公開「好人好日」推しで、翌年1962年公開「秋刀魚の味」にも笠智衆・岩下志麻配役が同じ父娘の結婚までの物語を残しているのが気になっていた。
この「先生の背中」で劇中に撮影進行中の「映画」が「秋刀魚の歌」でパロってたのだ。
岩下志麻の兄役の佐田啓二は舞台主演の中井貴一氏の父親で芳根京子演じる食堂の娘が母親になる
二人の仲人が小津安二郎と木下恵介の独身の二人です。
劇中で若い夫婦が男の赤ちゃん（貴一本人）に命名をお願いするシーンもある
舞台の進行も「現在」と「過去」が行ったり来たりの先生の回想と妄想に近い状態で小津に関わる五人の女性が登場する
観ているこちらも昔のニュースと山田洋次監督の「キネマの神様」の物語がグチャグチャになる
「キネマの神様」では原節子役は北川景子で食堂の娘が永野芽郁で佐田啓二は菅田将暉でした。
「先生の背中」では先生を惑わす五人の女性に原節子が柚希礼音、食堂の娘が芳根京子、芸者にキムラ緑子、銀座ホステス藤谷理子、戦争未亡人に土居志央梨、が演じ賑やかです。
手元に来た80年前の銀幕のスタアは全員が小津安二郎監督の作品に出演していた。
それだけでも「松竹」という映画会社が覇王なのがわかる
映画スタアは日本中の娘にブロマイドを買わせ、風呂屋が空になる現象を起こさせた。
岸恵子と佐田啓二の「君の名は」この主人公のすれ違い映画を観た時、戦後の女性の生きづらさと敗戦の惨めさを当時を知らない自分にリアルに写り伝わった。
「秋刀魚の味」に至っては行き遅れと呼ばれ、オールドミスを蔑視し嫌う風潮が淡々と切り取られてる気がした。
舞台「先生の背中」にも「昭和」「映画界斜陽」「組という現場の連帯」そんなオマージュとあの頃は良かったとしか言えない映画人の心の呟きが聞こえてきそうなエンディングでした。
銀幕のスタアを感じてブロマイドの昭和な女優さんと同じ匂いを一番に感じたのは一番新人な「湯川ひな」でした。
プログラムには「あの時代に女性のスタッフはいなかった」が敢えて配置されたようです。
ひたむきに大好きなシネマに関わりたかった女性の代表として、すばしっこく走り回り、小道具を調達する「小田組」の大切な一人に見えました。
半世紀前の現場には居なかったんだろうね・・・女だから、女のくせに、女だてらが。
殆どが鬼籍に入り受け継ぐ者の使命を「中井貴一」が演じている
「先生」として尊敬と畏敬の念で追いかけられる存在を先人の背中を演じてる
北鎌倉の円覚寺には宗派を超えて小津安二郎監督、佐田啓二、笠智衆が眠っていらっしゃる。
今年、5月1日にパティ・スミスが小津安二郎のお墓参りをしたことをSNSで報告
お酒が好きなことも知っているんだね。