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PS-Customizeの渡邊です。



2025.7.14 更新

ファンテーブルをVer.6に更新しました。動作温度や消費電力の比較はこちらの記事で紹介しています。


早速ですが、残念なお知らせです笑

初期型PS3(国内モデルでいえば、CECHA00,B00,H00,Q00)に載っている90nm RSXには、後述するとおり欠陥があると言われているため、これが事実であれば非常に短命かつ確実に故障することになります。

(RSXのデータシートが公開されておらず、仕様が不明なため断定はできませんが、海外有志の実験やリバースエンジニアリング等により、ほぼ間違いないことが判明しています。当店でもRSXの比較や同様の実験をして確認しています。)

 

「欠陥がある90nm RSXはイヤ!たかがゲーム機にこんな気を遣っていられない!」というかたは、欠陥がないRSXに自力で交換するか、公式リファービッシュ基板が載った機体を入手してください。

とはいっても、RSXの生産や公式修理サービスは既に終了していますので、現存する90nm RSXの基板分の代替RSXを用意することは現実的ではなく、公式リファービッシュ基板にも限りがあるため、入手できなければ90nm RSXの機体を使い続けるしかありません。

いずれ壊れるにしても、未対策のまま使用するのは愚策だと思いますし、なによりPS1~3までが一台で出来る素晴らしい機体の個体数をできる限り維持するためにも、RSXの載せ替えによらないオリジナルの機体の延命方法を検討していく必要があります。

 

データを取った結果、総稼働時間が200日(4,800時間)±50日前後RSXに起因する3034 YLODが発生する可能性が高いことがわかりました。

ただし、これは全ての機体に当てはまることはなく、RSXの種類や個体差、使用していた環境、電源投入&シャットダウン回数、プレイすることが多かったゲームの種類等によって異なるため、あくまでも目安とお考えください。


実験を重ねさまざまなデータを取りましたが、オリジナル基板の延命(欠陥対策)としては、
・CELL/RSXの低電圧化
・内部ファンコンのカスタム

が最も理に適っていると結論付けました。

これらを行うことにより、未対策の機体と比べてそのリスクをかなり低減させることができると考えられます。

 

3034 YLODを完全に対策できるわけではありませんが、間違いなく意味はあります。また、総稼働時間が少ない機体なほど効果は高くなります。

逆に、総稼働時間が多い機体では相対的に効果が低いといえますが、実際にどの程度延命できるかは判りません。

この点はデータが不十分なので、引き続き検証していく必要があります。


グリスを塗り替えても、殻割りをしても、穴を開けてファンを付けても...CELL/RSXの温度はほとんど下がりません。

メンテナンスや加工は、熱伝導率を回復させたり冷却を補助するもので、直接温度を下げるわけではありません。
結局は内部のファンが回ることにより冷却するので、これの回転数を上げたり、ターゲット温度を下げることが最も効果を発揮します。

 

ちなみに、ここでいう"総稼働時間"とは、Syscon EEPROM内に記録されている正確な値です。現在のところ、これを改ざんする方法は判明していませんので、信頼するに足る値であると考えます。

*ただし、bringupとshutdownの回数に著しい差がある場合は、値が正確でないおそれがあるため、注意が必要です。(不適切なシャットダウンの場合は、その間の起動時間がbecountに加算されないようです。)

 

前置きが長くなりましたが、本題に入ります。👇

 

・CELL 標準(CECHA00,COK-001)

グラフの各値は、

TempDステップの下限温度

TempUステップの上限温度

trp温度上昇の計画画面が表示される温度

tshutdown強制的に電源を切る温度

です。

TempU,TempDの温度以上または以下になると、次または前のステップに推移します。

ステップは、20〜100%まで10段階(p0〜9)となっており、20%がp0、25%がp1、28%がp2と続き、100%がp9となります。

 

CELLにおいては、標準の値では73.9°Cまで最低回転(20%)を維持し、74°Cになると25%に上がります。

25→28%に上がるには、温度が75°Cになる必要がありますが、逆に28→25%に下がるには、61°Cにならないといけません。

CELLの値以外にも言えますが、標準のファンコンでは全体的にTempUの値が高めに設定され、TempDはその前のステップのTempUより低く設定されています。

 

値を見る限りはターゲット温度を高めに設定することによりファンの回転数を低くして、温度が下がった後もその変動を極力抑える≒静音性重視であると考えられます。

 

当店のメンテナンス品や修理依頼品においては、以下の4点を基本に静音性を維持しつつ積極的にファンの回転数を上げて温度を下げるようこの値を書き換えております。

 

1. 最低回転数を20%→25%に変更

2. ステップ全体の上限温度を引き下げて、標準のファンコンで動作させたときよりも動作温度が上がらないように調整

3. TempUと次ステップのTempDの値を揃えて無駄な温度の上下をさせず、かつ温度変化に応じて速やかにファン速度が変わるように変更

4. 各ステップのファン速度を変更して冷却を強化しつつファンの回転音にも配慮

 

これをすることによって、後述する90nm RSXの欠陥によるYLODの発生リスクを下げ、また機体の寿命を延ばすことができると考えています。

 

それでは、CELLのカスタムした値を見ていきましょう!👇

 

・CELL カスタム(for COK-001)

・p0の温度を74°C→55°Cに変更

・各ステップの値を刻んでファン速度を細かく調整

・平均的な動作温度を考慮して、28.2%~28.6%は温度の範囲を拡大(63~76°C)し僅かな温度変化でファンが唸らないように調整

・最大許容温度は85°Cで変更なし

 

オリジナルの機体(12.8W/mkのグリスへの塗り替え、1.2→1.1750Vに低電圧化)でこの値を適用したところ、動作温度は以下の通りでした。

The Last of UsやGT6など、高負荷なゲームをプレイしているときは基本的に70°C以下で収まっていましたが、一時的に70°Cを超えることがありました。XMB待機時は55〜60°C前後、その他HD画質のゲームやPS1ソフトのプレイ時は〜65°C前後でした。

*室温25°C前後の環境で検証

 

標準の値では、電源ON→XMB待機時で74°Cまで上昇し、ファン速度が25%になると68°C前後まで下がりました。

標準の値と比べると、高負荷時の温度差は5°C前後ですが、低負荷時は10°C以上の差が生じることがあります。

カスタムしたファンコンにおいては、XMB待機時に最低回転で74°Cまで上昇してからファン速度が上がって温度が下がるのではなく、ファンのステップに合わせてゆっくりと温度が上昇して55〜60°C前後を維持し、無駄な熱サイクルを防止します。

なお、CELLについては信頼性に問題はありません。

 

続いてRSXです。👇

 

・RSX 標準(CECHA00,COK-001)

RSXの値は、ご覧の通り各ステップの温度がかなり高く設定されています。動作中、RSXのパターンに当たってファンの回転数が変わることは基本的にありません。

 

例えば、20→25%に上がるには83°Cになる必要がありますが、ほとんどの場合はその前にCELLが74°Cに到達するため、CELLの温度上昇によりファン速度が25%に上がります。その他のステップも84~95°Cに設定されているため、25→28%、28→30%と上がる際も同様にCELLの上昇によってファン速度が上がることが多いです。

室温等にもよりますが、RSXは65〜80°Cくらい(RSXのパターンにギリギリ当たらない温度)で推移します。

この温度自体は問題にならないのですが、90nm RSXには"バンプゲート"と呼ばれる欠陥があるとされているため、70°Cを超える(65°Cから要警戒)ことがソルダーバンプに致命的なダメージを与える恐れがあります。

 

・90nm RSXの欠陥、バンプゲートについて

CECHA,B,H00に採用されている90nm RSXには、製造上の欠陥があると言われています。

この欠陥は"バンプゲート"と呼ばれ、2005〜8年に製造されたNVIDIA製GPUをはじめとする多くの製品が影響を受けました。

RSXはNVIDIA GeForce 7800 GTXのカスタム品であるため、例に漏れずこの影響を受けていると考えられます。バンプゲートを引き起こす最大の原因は、採用されたソルダーバンプとアンダーフィルの組み合わせが不適切であったことです。

仕様は公開されておりませんが、90nm RSXのソルダーバンプは"高鉛はんだ"を採用し、アンダーフィルには"低Tgアンダーフィル"(Tg=ガラス転移点は70℃)が採用されている可能性が高いです。

高鉛はんだと低TgアンダーフィルではCTE(熱膨張係数)や硬化挙動が大きく異なるため、熱サイクルによる膨張と収縮で金属疲労(クラック等)が生じる恐れが高くなります。

高鉛はんだは柔軟性があるため割れにくいですが、はんだ付け部の周辺に応力が集中しやすい傾向があります。低Tgアンダーフィルは、比較的低温(RSXの場合はTgが70°C)で軟化するため、Tgを超えた熱サイクルを繰り返すとアンダーフィルの封止性が劣化するとともに、その応力を緩和できずバンプが剥離したり、クラックが生じることがあります。

材料セットのミスマッチによりダイとパッケージ接合部の信頼性が著しく低下し、結果的にYLODを引き起こす恐れが高まります。

 

*ただし、全ての90nm RSXに欠陥があるわけではなく、CXD2971B1GBという90nm RSXは、2009年製(65nm RSXと生産時期が同じ)でアンダーフィルが改良されていると言われています。

 

関連する研究レポートなどを参照すると、Tg以下で使用した場合は接合部の信頼性や寿命に大きな影響を与えず、Tgを超える温度サイクルで使用した場合では急激に寿命が短くなる傾向が見られるとのことでした。

 

まとめると...

・ソルダーバンプ(高鉛はんだ)とアンダーフィル(低Tgアンダーフィル)の相性が悪い。

→ただしTg以下で使用すれば、信頼性に大きな問題は生じない。

・Tgが70°C=70°Cを超えるとアンダーフィルが軟化し応力を緩和する能力が失われる。結果的に接合部の信頼性が低下する。

→RSXは70°Cを超えることがしばしばあるため、YLODの発生リスクが高まる。

 

つまり、安全圏と考えられる65°C未満で動作させれば、材料セットのミスマッチによるバンプ等への負荷や悪影響を理論上かなりの程度まで抑えることが可能ということです。

 

Tg-10~20°C=50~60°C以下で維持するのが理想ですが、これではゲーム中の静音性を大きく損なうことが予想されます。

現段階では64°Cを目安として、高負荷時もそれ以下で推移するように以下の通り書き換えました。

 

・RSX カスタム(for COK-001)

・p0の温度を83°C→45°Cに変更

・RSXの最大許容温度を70℃(アンダーフィルのTg)に変更

・trp(警告画面表示)を69°C、tshutdown(強制電源断)を70°Cに設定

・基本的には安全と言える64℃以下で動作するように調整

・28.6~50.1%までは2°C刻みとして、Tg-5°Cを極力維持するようにファン速度を調整

・低負荷時の平均的な動作温度を考慮して、28.2%は温度の範囲を拡大(51~59°C)し僅かな温度変化でファンが唸らないように調整

 

オリジナルの機体(12.8W/mkのグリスへの塗り替え、1.2→1.1750Vに低電圧化)でこの値を適用したところ、動作温度は以下の通りでした。XMB待機時は50°C前後、その他HD画質のゲームやPS1ソフトのプレイ時は45~55°C前後でした。

FHD画質のゲームやThe Last of Usのプレイ時は55~63°C以下で推移していました。

室温等により、高負荷なソフト(GT6、The Last of Us、GTA5など)をプレイすると65℃(警戒域)以上になる恐れがあります。

*室温25°C前後の環境で検証

 

標準の値では、電源ON→XMB待機時で78°Cまで上昇し、ファン速度が25%になると60°C前後まで下がりました。

CELLが74°Cに到達するのに時間がかかるほど、RSXの温度は上昇してTgを超えるおそれが高まります。

カスタムしたファンコンにおいては、XMB待機時にファンのステップに合わせてゆっくりと温度が上昇して50°C前後を維持し、無駄な熱サイクルを防止します。

 

最後にSB(South Bridge)です。👇

 

・SB 標準(CECHA00,COK-001)

標準の値は上の通りです。

SBが原因の3034 YLODも稀に発生しますが、致命的な欠陥があるわけではありません。

以下の通りカスタムしました。

 

・SB カスタム(for COK-001)

・p0の温度を60°C→40°Cに変更

・p4までの温度を引き下げて、高温で動作することがないよう調整

 

サーマルパッドを付け忘れることがない限りは、SBのパターンに当たってファン速度が上がることはないかと思います。

カスタムしたファンコンの環境下では、40~55°Cで動作しました。

 

ファンコンについての解説は以上です。

 

VDDC低電圧化については、今後新たに記事を作成する予定ですが、少し触れておきます。

VDDC(コア電源)の標準電圧は1.2Vで、90nm CELLが実効1.22V前後、90nm RSXは実効1.20V前後となっています。

動作に影響が出ない範囲でVDDCの電圧を下げれば、コアの発熱を少なくして消費電力も低減させることができます。

ただし、電圧を下げすぎると正常に起動しなかったり、負荷をかけるとフリーズ、画面にノイズが入る等の不具合が発生します。

 

これをファンコンのカスタムと併せて行うことによりファンの回転数を抑えつつ5~10°Cほど動作温度を下げることができます。

ファンコンのカスタムだけでも標準よりは温度が下がりますが、低&高負荷時のファン回転数が高くなる(ステップが+1段階)うえ、高負荷時にRSXが64°Cを超えてしまうことが多くなります。逆に低電圧化のみでは動作温度が1~2°C下がるのみですが、カスタムしたファンコンにおける低&高負荷時にその1~2°Cの差が大きく影響します。

 

また、標準と低電圧化済(1.1625V)では、低電圧化済のほうがXMB待機時比で10Wほど消費電力が低いです。

リファービッシュ基板ほどではないですが省エネです笑

 

最近は、CELL/RSXともに1.1625V(実効電圧はCELL/RSXともに1.14V前後)で行っています。

*本記事用にデータを取った機体は1.1750Vに設定していますので、若干の違いが生じるかもしれません。

 

基本的に製造年が新しいほど電圧を下げられる傾向がありますが、2006年製のCELL/RSXの下限(個体差に関係ない下限)を突き詰めたいと思います。

RSXはもう少し下げられる気がします…


ヒートスプレッダの刻印が黒色のCELL(いわゆる黒CELL)は、標準の電圧が1.14Vでした。

もしかすると、単に刻印が違うだけでなく、電圧にも差があるのかもしれません。

(確認できた母数が少ないため、現時点では未確定情報とします。)

 

以上になります!

ご覧くださいまして、ありがとうございました✨

 

 

2025.6.8 作成

2025.8.31 加筆・修正