子供の頃に見て、あまりの奇怪さにとりこになった「犬神家の一族」。その後映像化は何度もされ、都度原作(ココでは1976年の映画を指す)との違いを見比べて来た。ところが30年の時を経た2006年に、同一の監督と主演により再び映画化された。当時見た(どちらもTVで)感想としては「そっくり」だと漠然と思った。だが最近2006年版の映像を入手して見直してみた所、あまりにも似すぎではないかと思った為、再生や切り替えのレスポンスが早いHDDレコーダーの特性を利用してザッピングのように頻繁に切り替えて見比べてみた。
↑1976年版 ↓2006年版
オープニングの金田一登場のシーン。街並みはそのままだが、2006年版は、旧景に歩く金田一が合成されているという(Wikipedia調べ。以下同)。おそらくこの旧景はもう残っていないのだろう。
(追記)ちなみにこれは現在の姿(Googleストリートビューより借用)。画面右に見える赤屋根の家屋と肌色のビル状の建物は、共に旧版にも写っている。旧版はよく見ると蛍光灯の街路灯や、空を覆うような数々の電線等、現代的なものが色々写っているのに対して、新版ではこれらのものがなくなっている。しかも新版にもかかわらず画質が妙に悪い。これらの事から、旧版よりも更に昔の写真を元に合成したのか、あるいは画像処理でお絵かきを加えて戦後風にしたのか。いづれにせよ、この懐かしい光景は現存しない事が判った。
那須ホテルの女中「おはる」と出会うシーン。新景のまるで観光地化されたかのような美しさがやや不自然だが、同じ場所。電柱(及び街灯)に張られた「犬神製薬」の看板が同じだった事が、そっくりに作られているのではと思った最初のきっかけだった。
↑1976年版 ↓2006年版
那須ホテル入口。扉に書かれた「那須ホテル」「電話十六番」の位置が逆になっている。つい最近まで旅館として普通に営業していたが、近年廃業し、建物が売りに出された。
↑1976年版 ↓2006年版
金田一が泊まった部屋。障子の修繕がされている。障子を左右に開ける順番が逆になっている。
↑1976年版 ↓2006年版
旅館の窓からの絶景に見入る金田一。この位のアップになると新旧の区別がやっとつく。
↑1976年版 ↓2006年版
「国破れて山河あり…」とつぶやくシーンは、青木湖。旧ヤナバスキー場付近からのもの。那須ホテルの建物は佐久市内にあり、近くに湖はない。
↑1976年版 ↓2006年版
照明器具が変わっている以外は当時と変わらない室内。廃業前はこの部屋に普通に泊まれたというから、マニア垂涎だった事だろうl。こんな事になるのならボクも泊まっておけば良かった。
↑1976年版 ↓2006年版
湖の対岸にそびえる犬神家の豪邸。新景のみならず旧景までもが合成。旧版のスタッフロールに「合成」の文字が見える。なので建物の構造がまるで異なる。
↑1976年版 ↓2006年版
珠代さんのボート遊び。この桟橋のような取水口のような部分は本物。建物は合成。
↑1976年版 ↓2006年版
金田一が珠代の容姿を褒めるのでお春が拗ねて立ち去る時に衣類の一部が襖に挟まるシーンも忠実に再現されている。
↑1976年版 ↓2006年版
珠代のボートに異変が起き、部屋を飛び出す金田一。窓枠付近の構造が大きく異なる。窓のすりガラス化はともかくとして、太い柱が何本も撤去されている。
↑1976年版 ↓2006年版
宿の裏口から飛び出す。宿屋は現存しているにもかかわらずまったく異なる場所を使用している。旧景の建物は実際に湖畔に存在していたが、現存はしないという。
↑1976年版 ↓2006年版
珠代を助ける為に猿蔵が飛び込むシーン。この桟橋のような取水口のようなものは、30年の時を経て改修が加えられているものの現存している。
↑1976年版 ↓2006年版
粉薬を飲んでは噴き出す橘署長/等々力署長の名シーン。だが旧作ではまだ粉を拭き出すという設定はない為、ただ普通に薬を飲んでいるのみ。2度目の服用シーンで僅かに粉を拭いた事がきっかけでその後シリーズ化(?)されたのではないか。署長を演じる加藤武は旧作時(47歳)のギラギラ感はすっかりなくなったものの、その分演技が深くなっている。他のヒトも含めて全般的に台詞がゆっくりになっている。
↑1976年版 ↓2006年版
犬神家から帰る金田一と古舘弁護士。喋っている内容は同じだが、カメラ割りは大きく異なる。一見似たような白塀だが共通点はそれだけで、他は大きく異なる。おそらく旧景が現存していないのだろう。
↑1976年版 ↓2006年版
佐智が惨〇され、狂ったように暴れまわる竹子夫人を寅之助が小夜子と共に布団蒸しにして押さえつけようとして弾き飛ばされ、襖をブチ抜くシーン。ココがそっくりである事が、新旧比較してみようと思い立ったきっかけだ。
犬神家の複雑な家族構成を、じゃがいものにっころがしを食いながら自ら家系図を作成する事によって整理する金田一。旧版ではこのシーンの手前に松子と母のやりとりがあるが、新版では梅子の花ばさみ疑惑と珠代拉致の後にこのシーンとなり、その後に松子と母のやりとりがある。
↑1976年版 ↓2006年版
大学病院へのおつかいから帰って来た春子にうどんをおごるも、報告をせかすためにうどんの箸がまったく進まないという名物シーン。旧版では珠代拉致、梅子の花鋏、猿蔵への電話の後にこのシーンがある。また新版には金田一がお使いを頼むシーンが追加されている…と色々書いても何が何だか判らないだろうから、新旧それぞれのシーンを登場順に羅列してみた。
・旧版
佐武胴体見分結果報告→珠代湖上で休息(旧版のみ)→松子と母とのやりとり→珠代湖上で休息(一瞬、旧版のみ)→家系図作成→麻薬で成長→珠代拉致→梅子の花挟みと署長(応接室で)→猿蔵への電話→うどんを食いながら調査結果を訊く→珠代帰宅(旧版のみ)→琴の授業
・新版
佐武胴体見分結果報告→梅子の花挟みと署長(門の前で)→珠代拉致→家系図作成→松子と母とのやりとり→探偵の助手依頼(新版のみ)→麻薬で成長→猿蔵への電話→うどんを食いながら調査結果を訊く→琴の授業
…これでもやはりよく判らない。なので表にしてみた(左が新版、右が旧版)。
元々この表を元にシーンの前後関係を文章で記したのだが、この表でもまだ十分に解りにくい。それを文章にして話が伝わる訳がない。
更にこうして線を引く事で、やっと新旧でのシーンの有無や並び方の違いをどうにかつかめるようになったのではないか?或いはもっとわかりやすい方法があれば知りたい。
↑1976年版 ↓2006年版
当作品で最も有名なシーン。おおよそ同じ場所である事は判るが、新版の方がより湖の中心に近い所で撮影されている。スケキヨが逆さまになって、下半分が湖に埋もれて見えない事から「斧(ヨキ)」を見立てるという秀逸なトリックが無視されているのは旧版同様。他の映像化作品でもこの件に触れられているものは少ない。「誰が」やったのかという疑問を他にそらすような思惑があるのではないか。
結論としては、極めて似ている中で、一部では左右を入れ替えるといった遊び要素も感じられた。一方では不要箇所をカットしたり、説明不足な所を追加したりしている箇所も多々あったが、シーンの順番を入れ替えた意図は、色々考えてみたもののよく判らなかった。本来そういった違いを見比べる為に製作された訳ではなく、往年の名作を再び映画館で上映するというのが主目的だろう。映画館で観れるものが観たいが、TVで観るならばやはり旧作の方が味わいがあるように思え、また思い入れもある為、どちらが良いかと聞かれれば迷わず旧版を選ぶだろう。
59.25 16.9