Pの食卓 -8ページ目

若竹七海 『スクランブル』

また大切な一冊に出会ったかもしれない。

たった今読み終えた 「この瞬間」、そのように感じました。

この小説、好きです。


本日紹介いたしますは 若竹七海さんの 『スクランブル』 です。

サインをいただいて以来、すっかりその小説の魅力に取り付かれてしまいました。

日本推理作家協会賞候補作です。


若竹 七海
スクランブル

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1980年、あたしたちは高校生だった。そして、一人の少女があたしたちの通う学校で殺された――。それから十五年後、仲間の結婚式で再開したあたしたちは迷宮入りした事件の謎に迫るのだが……。過ぎ去った80年代を背景に、名門私立女子校で起きた殺人事件をめぐって、鮮やかに描かれる青春群像。17歳だったことのあるすべての人に贈る、ほろにがくて切ない青春ミステリの傑作。

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これは Interdependencyの断絶 を扱った傑作だと思う。

Interdependency とは日本語を充てるとすれば 「相互依存」、

さらに大雑把に単純化すれば 「甘え」 ではないでしょうか。

学生時分の人間なら誰しも必ず味わうほろ苦い経験だと思います。


「他人はどこまで行っても他人」 そのようなメッセージが文体、作中人物のセリフ、

書かれていない事柄から読み取ることができます。

そのような青春群像のテーマがガッチリと小説の構造に組み込まれているところが秀逸

ミステリ要素は単なる窓口で、メインは青春群像にあったかもしれません。


主人公格の人物たちが15年の歳月をかけて事件の真相を解き明かす。

連続した人生のほんの一箇所を理解するのに15年もかかる問題。

本当に単純なことなのに、理解するのになぜか気の遠くなる歳月がかかる問題、ありませんか?

そのような経験がある人は絶対に読むといいと思います。

おそらく主人公たちの心の動きを身近に感じることができると思います

理解していると思い込んでいること、理解されないということを受け入れないこと、

伝達不足からくる高校時代の悲劇がよみがえります。


さて言葉にならない思いを無理矢理書くのはここまでで、内容について。


まず舞台となる女子校、おそろしい、とてもおそろしい伏魔殿ですよ。

思春期の少年少女に起こりやすい集団ヒステリーも女子校になるとこうなるのか!

もちろん戯画化されているとは思いますが、それでもおそろしい。


高校という特殊な環境も作品に一味加えています

友人との関係、教師との関係、両親との関係、そして内なる自分との関係・・・

様々な人間関係が複雑に絡まり、自分というものが確立される年頃

『スクランブル』 ではそういった高校の持つ特殊性、閉塞感、暴発する力が描かれています。

まさにスクランブルエッグのようにかき回される年頃だと思います。


事件の内容やトリックについて、不可解性や意外性については中の中くらいだと思います。

クイーンや新本格の作家さんたちの事件が凄まじいので、霞んでしまっているのでしょう。

もちろん主人公が高校生で門外漢(女性だけど)であることも関係しています。

ですが、この地味な感じ、事件と隔たった感覚、好きです。

解決は、万人が納得する説明が与えられているとは言いがたいです。


学園ものとして考えた場合、『スクランブル』 は抜きん出ています

青春時代の特徴でもある 「集団でありながら且つ孤である」 という問題が前面に出ている。

誰しも必ず、「あ、そう思ってた…」 と言ってしまう普遍性があります。

言葉の足りなさ、簡素な表現、決して理解しあえない人物たち。

そういった微妙な距離感が心苦しくも素晴らしいものとして感じられます


繰り返し言うようですが、17歳であったことに覚えがある人、読んだら良いと思います。

もう興奮していて何も紹介にもなっておりませんが、この本は本棚にあるべき!


余談ですが、タイトルや章題の卵料理、最後の章に関係しており好感が持てます。

また、とあるギャグ?を理解するためにも、クリスティの 『スタイルズ荘の怪事件』 は読むといいかも?


若竹七海さん、まだ2冊目ですがその魅力に取り付かれてしまいました。

少し時間を開けて、『ぼくのミステリな日常』 いってみたいと思います。

こんなにもシェイプアップされた文体で、あんなにも色鮮やかに心情を描く作家さんって珍しいのでは?

世界らん展、行ってきました

前から気になっていた 世界らん展 に行ってきました。

あいにくの雨でしたが、じめじめした嫌な雨ではなく、ほどよく潤う気持ちの良い雨でした。

なんというか、寒かったです。


会場は東京ドーム、野球に興味が無く、一度も行ったことが無かったのですが、


rankaijou


広い!東京ドーム広いなー!と思いました。写真は会場入ってすぐのところです。

3Fの観客席から会場を見渡した感じなのですが、人がまるでg… ありのよう見えました!

そしてほんのりと香る蘭の香り。 なかなか期待させるものがあります。


princesskiko  幽谷遊蘭  京都ランセンター


左から、プリンセスキコ、幽谷遊蘭、京都ランセンター。

最終日に見に行ったため、全体的に元気が無い感じなのが残念ですが、百花繚乱なのです。

写メールの質が悪くて分かりづらいですが、右の写真のランは薄緑色の花に見えるのです。

よくよく近づいて観察すると、薄緑のがくの中に小さな黄色い花弁があることに気付かされます。

白雲といった名前だったかなあ?忘れました。


jiorama  蘭  オレンジジューム


中には左の写真のようにジオラマのような展示をしているスペースも!

これは水車小屋で、実際に小さな水車がカラカラと小気味の良い音を鳴らしていました!

蘭は中央や右のような小さな花弁が集合しているものが好きです。

オレンジジュームは香りも上品で良かったなあ。


桜蘭  コブラオーキッド  ran


左の写真は桜のように見えるランです。

ランを一本一本くくりつけ、一本の枝垂れ桜のようにしている作品です。

中央は、コブラオーキッド、形がまるでコブラが鎌首をもたげているよう、アフリカ原産で珍奇種だそうです。

右のは苔にランを植えて育てたもの。

他にも苔でクマやフクロウを作っている団体など、稚気があって楽しかったですね。


そのままテクテクと歩いていくと・・・


青いキリン


・・・ん?!


青いキリン2


きりんがいました!水色のきりんです!

なんだろう、この違和感の無さ!自然な感じだったので納得してしまいました。

きりんって水色でも良かったんだなあ。


他にも花火のように広がるランや、フレグランスの優れたランなどなど。

カトレア属のラン、カリヤザキショーゴの生花などなど、とても楽しかったです。


asakusa


らん展を見に行った後は浅草を下見してきました。

仲見世通りを歩いたのですが、なかなかワクワクする外観!

曇天に桜の造花が映えていました!!


きびだんごを食べながら歩いていると、目当てのお店 「助六」 発見!

「助六」 の目玉商品は何と言っても 「出世犬」 !


syusseinu  syusseinu2

(写真は郷土玩具の社さまより無断拝借; 問題ありましたら削除いたします;)


激しく萌えてきましたが、小さいものでも3000円オーバー・・・ 手が出せませんでした。

そういえばウチにあったかもなあ、とか思いつつ帰路に就きましたとさ。

帰る途中、折角だから横浜で寄り道。


ステーキ


帰りはお腹が減ったので横浜のアイリッシュパブTavernでご飯。

写真はギネス&ステーキパイ、中身はギネスビールで煮込んだ牛スジと煮汁!おいしい!

店内は8割が外国の方々でちょっとした異国気分を味わえます。

今日は偶然にもクリケットの試合がスクリーンで上映されておりました。

クリケット・・・紳士的なスポーツなので地味なのかと思いましたが、

走り回る激烈なスポーツだったのですね; 初めて見ました。


貫井徳郎さんのサイン会 TRICK+TRAP にて

来る3月25日(土)16時より、ミステリ専門書店TRICK+TRAP にて貫井先生のサイン会が催される模様。

新刊の 『愚行録』 を記念してだそうです。

申し込み方法は例のごとく、TRICK+TRAPのHPから戸川さん宛てにメールを送るということ。

坂木さんに続き、貫井さんの作品も未読なので今回もパス;

貫井 徳郎
愚行録

ついでに、TRICK+TRAP MONTHLY の第一号が無くなり、現在第二号が作られている模様。

3月1日から配る予定だそうですので、狙っている方はお早めに。

3月は忙しいので行けるかどうかわかりませんが、なんとかがんばって行ってみたいと思います。

本日 修了確定しましたー

脳がとろけそうになるほどに演繹に演繹を重ね、実態の無いものを可能な限り明確に証明した修士論文。

文学的考察などは省き、事実だけを書き、「できの良いアンソロジー」などと批判されつつも、

なんとか修了を認めていただける次第となりました。


これで安心して夜眠ることができそうです。


安西先生・・・ 金沢旅行に行きたいです・・・

十一月の文学フリマに向けて、徐々に活動をし始めたネット上のミステリー研究会 『ネトミス』

ゆるやかな雰囲気の中、会誌の名前も決まり、表紙も徐々に形になり、

会誌発行が現実味を帯びて参りました! 脱稿は許しません。


というわけで、GWにミステリ強化のため、金沢に篭ることになったメンバーたちですが、

さてさて、どなたか、金沢と関係のあるミステリについてご存知の方はいらっしゃいませんか!?


何でも良いです 「ここが○○の舞台になったところサ」 とか、 「作家さんの出身地だよ」 とか

「心霊スポットです」 とか、「妖怪が出ます」、 「メルカトル鮎が出ます」 などなど

なるべくガセじゃないネタをください!!


合宿にかこつけてあそb・・・ 強化合宿をするわけです。

「ここがのんびりできるところだよ」 とか、「飛騨牛ならこの店」 とか、「かきつばたがきれいだよ」 とかとか。

日常的な金沢の情報もお待ちしております。


どうか、どうか情報をくださいませ。 できればミステリ関係の情報を~


昭文社編集部
金沢・能登・北陸

買いました。

倉知淳 『まほろ市の殺人 春 無節操な死人』

電車内で読む本を持たずに家を出てしまったので、ぶらりと本屋に入り、

ほとんど無意識状態で手に取った一冊、『まほろ市の殺人 春』。

そういや白い梅がきれいだったけなあ、春を感じたから手に取ったのかもしれない。


本日紹介(?)しますは、倉知淳さんの 『まほろ市の殺人 春 無節操な死人』 です。


mahoro
倉知 淳
まほろ市の殺人 春―無節操な死人
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「人を殺したかも知れない…」真幌の春の風物詩「浦戸颪」が吹き荒れた翌朝、美波はカノコから電話を受けた。七階の部屋を覗いていた男をモップでベランダから突き落としてしまったのだ。ところが地上には何の痕跡もなかった。翌日、警察が鑑識を連れどやどやとやって来た。なんと、カノコが突き落とした男は、それ以前に殺され、真幌川に捨てられていたのだ。
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《まほろ市について》

四人の作家さんたち(我孫子さん、麻耶さん、有栖川さん、そして倉知さん)が作り出した幻想都市《真幌市》、その作りこまれた世界観に好感が持てます!


表紙をめくると見開き一杯の地図、そしてそこには様々な見慣れた文字が並ぶ・・・

駄陰市、九陰市、土井留市、舞久浜市、網州・舞乱島、芦茂町、知須田トンネル、そして鮎川鉄道

ここまでは良いとして、問題なのは、富良奈がんセンター・・・ 大爆笑しました。

他にも涙香町や有梅製菓などなど、思わず失笑(?)してしまいます。

多分、富良奈がんセンターは麻耶さんの趣味なんじゃないかと妄想。


そんな真幌市ですが、四人の作家さんが統一したテーマで書くという理由からか、

とてもよく作りこまれた幻想都市となっております。

森があり、城があり、川があり、トンネル、埠頭、島、どんなシチュエイションの事件にも対応可!

汎用性に富む事件都市、真幌市でした。


ネタバレでは無いですが、非常にマイナスなイメージでもって記事を書いているので、以下反転。

伝える意思の無い記事、書く意味無いですね^^;



《作品内容》

これはちょっとひどいと思いました;

ミステリで重要な位置を占める《事件の幕開け》、それはセンセイショナルなものであったり、

不可解なものであったり、人の興味を引くものが好ましいと思います。しかし今回のこの事件・・・ 


紹介文の字面では不可解、奇妙奇天烈な事件のように見えますが、

そんなに奇想天外なものでもなく、開始数ページで予想がついてしまう。

『星降り山荘』 で鼻が抜けたような衝撃を受け、とても楽しんだ経験があったため、

ちょっと期待しすぎた感もありました。 でも、これはちょっと無いくらいです;
(トリックを批判しているわけではなく、あくまでもミステリとしての展開を批判してます。)

せめて真幌市に用意された様々な装置を、お遊び半分でも、有効に使って欲しかったです。


《キャラクターについて》

職業作家さんにしては安直。強気な女の子+引っ張られる男の子、そして○○な探偵役。

プロットを組み立てる上でとても有効なキャラクタライゼイションで、

僕たち素人でも楽しく物語りを綴っていける黄金図式だと思います。

もう少し徹底して役割を際立たせて書いて欲しかったです;


《学園青春もの?》

ではないです。大学生で学園青春ものを期待してしまう設定なのですが、

なかなかどうして、大学生である必然性も、大学生であるメリットも、

大学生である理由が見当たらない気がします。

でも、こんなにだらだらした大学生活、送ってみたかった気になれました。


《楽しめなかった原因》

中編小説だったからだと思います。

もしこれが長編小説であったならば、事件はより一層不可思議なものになり、

キャラクターたちも事件の不可能性を崩すために明快な推理をしたりするかもしれません。

または短篇だったならば、キレのある地の文と小気味良い会話文により、

鮮烈かつ軽快な構造美を備えた短篇小説になっていたかもしれません。

魅力を損なう唯一かつ最大の欠点は、中編小説という構造にあったのかもしれません。


有栖川さんと麻耶さんが書いているため、とても期待していたシリーズだったのですが、

一作目にして早くも挫折の様相を見せてしまいました;

他の書評やアマゾンの書評を見ると、『秋』が最も仕上がりが良いそうです。

このダメージから立ち上がれたら、夏、秋そして冬を読んでみたいと思います。


ファンの方、1時間半の読書を求める方、Pと趣味が異なる方、買ってみてはいかがでしょうか?


森博嗣さんの作品も思想の違いから評価できないのですが、この人の作品は絶対売れる!
と直感的に理解できるところがあり、二度目に読んだときは楽しめたのですが、

真幌市春・・・ 初めて良く無いミステリを読んでしまったような、ちょっとショックでした orz


若竹七海 『古書店アゼリアの死体』

サーシャ・コーエン、仕上がった人間が放つ、ある種のオーラが演技に溢れていましたね。

青を基調とした衣装、回転をするたびにきらめく黄色い裏地が印象的でした。

荒川さんの演技も堂に入っていて、徐々に盛り上がっていく表現は神懸かっていたかと思います!

村主さんが時折見せる半開きの目に見られる複雑な表情が良いと思います。

23日に行われる女子フリー滑走順14(安藤)、20(コーエン)、21(荒川)、22(村主)、24(スルツカヤ)

かなりアツい順番かと思います!?


いきなり小説とは全く関係の無い話ではじめましたが、

本日紹介いたしますは、若竹七海さんの 『古書店アゼリアの死体』

先日サインをしてくださった記念となる一冊でした。


若竹 七海
古書店アゼリアの死体


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勤め先は倒産、泊まったホテルは火事、怪しげな新興宗教には追いかけられ…。 不幸のどん底にいた相澤真琴は、葉崎市の海岸で溺死体に出合ってしまう。運良く古書店アゼリアの店番にありついた真琴だが、そこにも新たな死体が!事件の陰には、葉崎市の名門・前田家にまつわる秘密があった…。

笑いと驚きいっぱいのコージー・ミステリの大傑作!

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無駄が無い、これが初めて読んだ若竹さんの作品イメージでした。

余分なものをそぎ落とし、過度な装飾を施さず、いわば「表現をしない」文体でした。

ゆえにユーモラスな遊びを入れているにも関わらず、どこかしら寂しさ冷たさ厳しさを感じさせる

若竹さん本人から受けたイメージと全く違った文体で驚きました。

「コージー?コージーなのか?」 と思いながら、古書店アゼリアの怪事件にのめりこんでしまいました。


コージーミステリの定義を勘違いしていたところに原因があった模様。

その定義は巻末の池上冬樹さんの解説で述べられていますが、

第一資料である 権田萬治さん監修の 『海外ミステリー事典』 から引用させていただきます:


    cozy mystery コージーというのは、「居心地のいい」 「暖かな雰囲気の」 「くつろいだ」

    というような意味で、初めから終わりまで暗く、絶望的な内容の ロマン・ルノワール などと対照的に、

    恐ろしい事件が起こっても、それが解決すると再び平穏な、

    心地よい平凡な日常的な生活に戻っていけるという安心感に支えられたミステリーを差す。

    ハードボイルドと対照的な意味に使われることもあるが、これは誤り。

    また、この言葉を伝統的な探偵小説と同じような意味で使うのも誤りである。

                        (権田萬治 ed., 『海外ミステリー事典』. 東京: 新潮社, 2000. )


若竹さんは、コージーとハードボイルドは相反するものではない、という好い例なのでしょう。

『ぼくのミステリな日常』 や 『心の中の冷たい何か』 の紹介でハードボイルドという言葉を耳にしますが、

とても読みたくなります。


『古書店アゼリア』 を読んでいて、もっとも強く感じるテーマ、それは日常に潜む悪意ではないでしょうか。

コージーミステリの主なサブジェクトの一つだと言われればそれまでですが、

ユーモラスでありながらも冷徹な文章からはにじみ出てくるような悪意を感じることができます。

若竹さんの作品全体に見られるテーマならば、他の作品も読みたくなります。


長くなりましたが、『古書店アゼリア』 の紹介に入ります。

『ヴィラマグノリアの殺人』 に続く、葉崎市を舞台にした 「葉崎コージーミステリシリーズ」 第二弾。

登場人物や建物に前巻との繋がりがあるようですが、問題なく楽しめました。

巻末解説にあるとおり、もしかしたら、こちらから読んだほうが楽しめるのかもしれないです。


事件の舞台となったロマンス専門古書店 『アゼリア』、気に入った客にしか本を売らない老店主・紅子。

前田紅子のキャラクターが僕の日常に関わる様々な人と、関わってきた様々な人と重なります。

臨時雇いの真琴とのロマンス一問一答問答は、生前師と交わしたシェイクスピアセリフ当てを思い出し、

江戸っ子を想わせる小気味良さや、瞬間湯沸かし器的な性格は師本人の性格を思い出す。

昨晩は読みながら過去を思い出し、寂しいような、懐かしいような、哀しい気持ちに浸ってしまいました。


ロマンス小説に対する言及が多く、読みたくなる魅力的な作品紹介などが作中語られているのですが、

なんと、一番読みたいと思ってしまった作品・・・ 若竹さんの創作タイトルでした;

また、前田紅子のロマンス小説の定義はとても特異なもので、様々な見方を提供してくれます。

中でも ヘンリー・ジェイムス の 『ねじの回転』 がロマンスにあげられていたことに驚きです!

なるほどー!そうきたかー!と一人暗がりの中納得してしまいました。


様々な人物が多視点から捉える 『古書店アゼリア』 の事件、

主語が頻繁に入れ替わるため、それに翻弄されることもあるかと思いますが、

さっぱりとした言葉使い、無駄を省いた冷徹な文体、必要最低限の心的描写、

それらによって、総じて読みやすいミステリとなっています。


仁木悦子さん、日常に潜む悪意、ドラマ好き、横浜市民な人は買いだと思います。

反対に、多視点、理詰めでない解決、ベタユーモア、ベタロマンス、が嫌いな方にはオススメしません。




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次に読もうかと思う若竹七海さんの作品は以下列挙、忘れない用。


若竹 七海
ぼくのミステリな日常
若竹 七海
スクランブル
若竹 七海
閉ざされた夏
若竹 七海
心のなかの冷たい何か

権田萬治 新保博久 監修 『日本ミステリー事典』 『海外ミステリー事典』 絶版?!

ちょっと衝撃的なニュースを 『パン屋のないベイカーストリートにて』 で発見しました。

ミステリデータベースのバイブル 『日本ミステリー事典』 および 『海外ミステリー事典』

この二月一杯で絶版となるようです。


『日本ミステリー事典』 『海外ミステリー事典』 の優れたところは、

ミステリ作家の情報量の多さだけでなく、研究書や論文の検索にも有用というところです。

ミステリ研究の手がかりになりやすい良書だと思っております。

あまりにも有名な作品についてはネタバレの危険があるため、用心して読んだらよいかと。

(ポウの作品についてはオチがバッチリ書かれております。)


権田 万治, 新保 博久
日本ミステリー事典
権田 万治
海外ミステリー事典


そしてさらなる耳寄り情報、編者の一人である新保博久さんのトークショー。

3月26日 TRICK+TRAP にて。 上記二冊を購入の方には新保さんがサインをしてくれるそうです。

申し込み方法は、戸川さん宛てのメールにて参加希望の旨を伝えること。

詳しくはコチラ→ 『パン屋のないベイカーストリートにて』

また、同ページ内にて、ブックカバーだけを求めるお客さんが増えたら・・・という話もあります。

カバーだってタダじゃありませんし、購入に対するサービスとして付けてくださっているものです。

二種類欲しいならば、ハードと文庫、両方買った方がいいですよね。


つけてもらって嬉しいTRICK+TRAPのブックカバー、嬉しい気持ちで本が読める最高のカバーです。


エラリー・クイーン 『フランス白粉の謎』

本日紹介いたしますは エラリー・クイーン 『フランス白粉の謎』

記事がとんだので、気持ちもダウン・・・


エラリー・クイーン, 井上 勇
フランス白粉の謎

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エラリー・クイーンの地位を確固不動のものにした、その第二作。ニューヨーク五番街の大百貨店“フレンチス”の飾り窓から忽然と転がり出た婦人の死体をめぐり、背後に暗躍する麻薬ギャングと知能比べを演じるエラリーの会心の名推理。わずか数粒の〈白粉〉と、棒紅のなかからころがり出たヘロインの〈白い粒〉の謎の真相は、一体何か?

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『ローマ帽子』、『オランダ靴』、『ギリシア棺』 に見られる共通点として、

探偵役のエラリーが終始分析家の役に徹していることが挙げられるかと思います。

今回の 『フランス白粉の謎』 ではどうだったかというと・・・


シャーロック・ホームズなど名探偵を意識した描かれ方をされていたかと思います。

何せコートに忍ばせたアルミ製の探偵セット・・・ 何となく残念な感じです。

しかし、この探偵セット、後の巻にて別な役割を果たすことに! それでよかったよかった。


事件の始まりは 『ローマ帽子』 に比べて、よりセンセーショナルなものに!

衆目看視の中、ショウウィンドウの中突如ごろりと現れる女性の死体・・・

これぞセンセイション! 事件の不可解性を高めるに充分な要素でした。


が、しかし、おもしろかったものの、『フランス白粉』 の事件は、

用意された回答に合うよう道具や伏線があちらこちらに貼り付けられたような感をぬぐえません。

パズルの悪い面が出てしまい、プロットに影響を及ぼしているのかもしれません。


肝心のエラリーの推理ですが、丁寧な論証による、重厚な論理を築き上げています。

100%の推理を展開する姿勢がうかがえてとてもよいです。

ただ衝撃的な結末かと言いますと、多少物足りないものがあるのでは無いかと思います。

その辺りは後の 『オランダ靴』 『ギリシア棺』 で昇華されているので問題無いのでしょう。


巻を重ねるごとに質が高くなるエラリー・クイーン、次の 『エジプト十字架』 が楽しみです!

泡坂妻夫 『亜愛一郎の狼狽』

    そして「雨だ、雨だ」と叫んで、両足をそろえてぴょんぴょん飛び跳ねた。
    その跳ねかたを見ると、運動神経の方がまるで駄目のようであった。
                          (DL2号機事件、地の文:亜の描写)


すらりとした長身、統一されたカフス等のアクセサリ、ギリシャ彫刻のような顔立ち、
ムシや雲を撮るカメラマン亜・愛一郎、かっこよすぎます!

スーシェのポワロのようになりたく、日夜試行錯誤をしておりましたが、
亜さんのようにもなりたい!そう思わせてくれる探偵でした。


今日紹介いたしますは、泡坂妻夫さんの 『亜愛一郎の狼狽』 です。


泡坂 妻夫
亜愛一郎の狼狽


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『11枚のとらんぷ』を筆頭に、『乱れからくり』 等数々の名作でわが国推理文壇に不動の地位を築いた泡坂妻夫が、この一作をもってデビューを飾った記念すべき作品――それが冒頭に収めた「DL2号機事件」である。ユニークなキャラクターの探偵、亜愛一郎とともにその飄々とした姿を現した著者の、会心の笑みが聞こえてきそうな、秀作揃いの作品集。亜愛一郎三部作の開幕!
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読後、寒い夜の中、次巻の『亜愛一郎の転倒』を求め書店巡りに出てしまいました。
なんでしょうこの感覚、読んでいてとても楽しかった…
今までにこれほど楽しさを感じた推理小説は無いかもしれません。
楽しいというより可笑しい推理小説の方が合いそうですね。
傑作推理小説との出会いを感じました!大事な何かに出会った、そんな気持ちで一杯です。


収められている小説は全部で8編、もちろん短篇です。
 ・記念すべき亜愛一郎デビュー作: 第1話「DL2号機事件」、

 ・空中密室に挑む: 第2話「右腕山上空」、

 ・死臭漂う不気味さ: 第3話「曲がった部屋」、

 ・弥勒の掌で踊る黄金仮面: 第4話「掌上の黄金仮面」、

 ・雪の道路で: 第5話「G線上の鼬」、

 ・これは傑作: 第6話「掘出された童話」、

 ・過去の事件に挑む: 第7話「ホロボの神」、

 ・コメディ調; 第8話「黒い霧」
以上8編が 『亜愛一郎の狼狽』 に収められています。
雑誌『幻影城』で連載されていたものだそうです!


『幻影城』というと、奇抜な探偵やアクの強い事件を想像してしまうのですが、
亜愛一郎の事件は 「頭をかしげる不思議な事件」 のような感じでした。


事件はスラップスティックのような調子で始まり、可笑しい話なのですが、
亜愛一郎が事件の謎解きを始めると、位相がずれるような、世界がひとつずれるような、
不思議な雰囲気が漂いだして、思いも寄らない解決にたどり着きます


特に好きだった事件は第6話の「掘出された童話」!
『秘文字』の解説でも泡坂さんが書かれていましたが、
この手の推理小説はもう二度と書きたくないそうです^^
それだけ苦心されただけあり、とてもおもしろく、半日ほどかけて楽しんでしまいました!

亜愛一郎のみせる 「小悪人ぶり」 も好感が持てますw


他には懐かしいスラップスティック調の妙が冴え渡る「黒い霧」、
おごめく虫のようないやーな雰囲気が漂う「曲がった部屋」
『亜愛一郎の狼狽』を体現したかのようなデビュウ作「DL2号機事件」
ホントにホントにオススメです!


泡坂さんの考え方に共感できるか否かによって、作品の評価は変わるかと思いますが、
『曾我佳城全集』 や 『煙の殺意』などが特に好きではなくとも、
『亜愛一郎の狼狽』 は充分に楽しめるかとおもいます!! ぜひ買い!