Pの食卓 -6ページ目

恩田陸 『象と耳鳴り』

    ―――あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです。

                      (象と耳鳴り: 冒頭の一文)


この推理小説、とても大事な一冊となりました。

"象と耳鳴り" は連作短篇集 『象と耳鳴り』 の中の一作に過ぎない、

またその連作短篇集の中でも分量の少ない話なのですが、

それでもこの印象深さ、おもわずゾクっとしてしまいます。


今日紹介しますは、恩田陸さんの 『象と耳鳴り』 です。


恩田 陸
象と耳鳴り

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「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです」退職判事関根多佳雄が博物館の帰りに立ち寄った喫茶店。カウンターで見知らぬ上品な老婦人が語り始めたのは、少女時代に英国で遭遇した、象による奇怪な殺人事件だった。だが婦人が去ったのち、多佳雄はその昔話の嘘を看破した。蝶ネクタイの店主が呟く彼女の真実。そしてこのささやかな挿話には、さらに意外な結末が待ち受けていた…。(表題作)ねじれた記憶、謎の中の謎、目眩く仕掛け、そして意表を衝く論理!ミステリ界注目の才能が紡ぎだした傑作本格推理コレクション。

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恩田陸さんの作品は、新潮文庫のキャンペーン期間中、(YONDA腕時計が欲しかったため;)

デビュウ作 『六番目の小夜子』 を読んだきり、そのままにしておりました。

謎の提示は好きなのだけれど、プロットの展開やティーンズ文庫風のキャラクターなどが合わず、

ちょっと苦手意識があったかもしれません。


しかし、今回の 『象と耳鳴り』 でそんな印象は全て吹き飛びました!


『象と耳鳴り』 は解説文でもあるとおり、論理ミステリを念頭に置いた作品なのですが、

ロジックものというよりも探偵味溢れる作品と言った方がいいかもしれません。

江戸川乱歩や過去の探偵小説を思わせるプロットが魅力的です。


そんな 『象と耳鳴り』 探偵役は関根多佳雄(せきねたかお)、元判事の老人。

頭脳明晰な息子は検事、娘は弁護士と法律家一家の長をしている老人だ。

イメージとしては、作中でも述べられていますが、

リチャード・クイーン警視を思わせる雰囲気があります。


関根多佳雄の安楽椅子探偵風の解決には胸躍るものがありました。




《読書感想文》


  曜変天目の夜

    陶器の展覧会から思わぬヒントを見つけ出す関根多佳雄.

    とにかく曜変天目茶碗の幻想的な描写が印象深いです。

    関根多佳雄の方向を決定付ける一話だったかと思います。


  新・D坂の殺人事件

    これは危ない!江戸川乱歩の 『D坂の殺人事件』 を読んでいない方注意!

    ネタバレではありませんが、隠されていた重要な事実が暴露されています。

    関根多佳雄の不思議な推理力が発揮される話。


  給水塔

    三番目くらいに好きな話でした!

    怪談めいたホラー要素を含みつつ、おどろおどろしい雰囲気を持つ給水塔

    解決も余韻の残る謎めいたもので、僕の好みにバッチリあいました。

    この話で探偵味がぐっと増したように思えます。


  象と耳鳴り

    文句無しにこの小説内で最も優れた話だと思います。

    叙情的でもあるし、旅情も感じることもでき、且つノスタルジックな印象さえある。

    数ページに込められたメッセージに無限のおもしろさを感じることができます。

    象というイメージがとても好きです。


  海にいるのは人魚ではない

    中原中也の詩をモチーフに人魚のミステリ。

    要所要所に寄せては返すさざなみのような中原の詩の余韻が効果的です。


  ニューメキシコの月

    この話もかなり好きでした。

    ある死刑囚の話なのですが、その死刑囚の背後にある話がなんとも!

    派手さは無い、既に犯人も捕まっているし、どうやって殺したかもわかっている。

    why の先にある because と cause を探すミステリが好みなのかもしれません。


  誰かに聞いた話

    関根多佳雄が安楽椅子探偵振りを遺憾なく発揮する一話。

    なんと無く背筋に冷たいものを感じる話でした。


  庭園

    この話が二番目に好きでした!

    愛憎と花の絡まりあう庭園に探偵小説の良さを感じることができました!

    ツル植物のように絡みつく文体が特徴的な一話でした。


  待合室の冒険

    関根多佳雄と息子の事件簿。

    エラリー・クイーンとリチャード・クイーンの関係を意識されたかもしれませんね。

    何となく友達のような関係の父子に微笑みが自然と漏れてしまう。

    事件自体は、この作品群の中では、それほど好評かは期待できない。


  机上の論理

    章題から既に笑ってしまったのですが、これも好きな話です。

    推理小説に "机上の論理" という言葉を当てていることから、

    稚気溢れる作品になっていると予想できるのですが、予想通り(以上)のおもしろさでした。


  往復書簡

    関根多佳雄の安楽椅子探偵振りが遺憾なく発揮・・・

    ではなかったりなんだり、読んでからのお楽しみですが、

    一風変わった種明かしに思わず、「なあんだー」と笑みが浮かびました。


  魔術師

    この話の主題はとても好きな主題なので、もう少し煮詰めて欲しかったです。

    都市伝説を研究する白旗さん・・・ 僕も弟子入りしてみたいです。

    恩田陸さんは怪談やホラー、都市伝説のような不可解な話を得意とされているのかしら?

    赤い犬という創作都市伝説には思わずゾッとしてしまいました



色彩に富む豪華な連作短篇小説なので、四の五の言わず皆さんお買いくださいませ。

どうおもしろかったのか、いまいちうまく説明できていないのが残念 orz

とにかく良かったのです;

乃南アサ 『凍える牙』

今日は趣向を変えて、社会派推理小説を紹介させていただきます。

ネトミスの傾向としては、本格推理小説偏重型だと思いますし、

僕自身本格推理小説の方がおもしろいと思っているので、

最初で最後になるかもしれません、そんな社会派推理小説。


おもしろいと思った社会派推理小説、乃南アサさんの 『凍える牙』

しっかりとしたハードボイルド刑事ものでした。


乃南 アサ
凍える牙

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深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した!遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか?野獣との対決の時が次第に近づいていた―。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。

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直木賞受賞作品だったのですね。 道理で文体が良い感じだったわけです。


主人公は趣味としても仕事としてもバイクを愛する女性刑事。

とてもサバサバした性格で、独立心が強く、ハードボイルド。

かといって、若竹七海さんの描くキャラクターほど割り切ってもおらず、

不確定な気持ちが初速の二輪自動車のように不安定に揺れ動く。


しかし物語も終盤に入ると、揺れ動く主人公の気持ちは定まり、

まるで安定速度に到達したバイクのように、しっかりと地を捉え、さらに加速する。

最後のチェイスは疾走感溢れる描写で、読んでいる読者もトリハダもの!


そんな印象を受けました。

強い女性、社会派推理小説、バイク、これらに抵抗を感じる方は読まれない方がいいです。

それ以外の方は、おもしろいので読んでくだされば嬉しいです。

恩師宅訪問

今日は町内会の仕事を休み、亡き恩師の御宅へおじゃまさせていただきました。

「去年の今頃も訪ねたなあ」 とか 「どうやって驚かしてやろうか、なんて考えてたなあ」

なんて感傷に浸りながら小田急線に揺られること1時間半、恩師の御宅はそこにありました。


天気は快晴、雲ひとつ無い青い空が何となく春めいていて、僕は少しだけ嬉しかった。

沈丁花もだいぶ花開き、ちょっと強いけれど、良い香りを放っておりました。

この香りに目を覚ましてハチとかハナアブとかやってくるんだろうなあ。


jintyouge


この沈丁花はウチの庭に咲いているものです。

車庫のすぐ脇にあるため、車に乗るときに香ってきて印象的。


hana


花つながりで、ヒヤシンスとユキヤナギもついに花開く。

鼻腔をくすぐるような香りが、これまた春のお知らせのような感じがして好きです。

春といえば、恩師の飼い犬であったハルコちゃん。


haru


エサに釣られて殊勝な顔をしてオスワリをしているところを激写。

もう少し普段も愛想よくしていないと、直に構ってもらえなくなるよ?

と、お説教をしつつ、何だかんだで色々あげてしまうのでした。

椅子に座っていると、膝に足を乗せて 「エサ頂戴」 とやってくるのが愛らしいです。


恩師の御宅には僕が理想とするイスがあります。


isu


写真では分かりづらいのですが、アームレストの部分にもクッションがついており、

デザインもヴィクトリア朝っぽくてカッコイイ! 座り心地も良い感じなのです。

一人暮らしをするとしたら、最低20万以上はかけてイス・コーヒーテーブルを揃えたいと思います。


御宅にお邪魔すると、なんとランチの用意がされておりました。

恩師の奥様の作る料理は味に深みがあり、いくらでも食べられてしまうのです。


lunch   tea


そして、僕が修士課程を修了するということで、わざわざワインを!

ボルドー産の シャトー・ドゥ・ロッシュモラン これがまたおいしい!

酸味と軽い香りが印象的な飲みやすい白ワインでした。


食後は紅茶で一休み。 この紅茶ポットが印象的でおもしろかったです。

他にも恩師の御宅にはセンスの良い陶器がたくさんあり、

そのそれぞれで食事をすると、必ず思い出に残るような感じがあります。


cheese


食後は、優秀な後輩が作ってきたチーズケーキを食べます。

このチーズケーキが素晴らしい! プロの作るケーキと遜色ないできでした。

本人が謙遜するので言いませんが、一芸に通ずるものは多芸に通ず、という言葉が示すとおり、

彼女は料理の才能も、勉学の才能、好奇心どれも一級品だと思います。

レシピ聞いておけばよかった・・・ もしブログみてたら教えてください。


他にも青森大学の今井先生ご夫婦と話をし、とても楽しい時間を過ごすことができました。

やっと笑えるようになれた姿、恩師の生きている間に見せたかったと思います。

また遺言で僕のことにも触れていてくれていたそうで、その話を聞いたとき、

思わず込み上げてくるものがありました。


実践を信条に、底辺を活動の基点に据え、理想を現実のものとしていこうと心に再び誓いました。


映画 サイレン -Forbidden Siren- 観てきた!

昨日は映画 『サイレン』 を観に新百合ヶ丘に行ってきました!

待ち合わせ時間より早く着いたので、例のごとく、早速散歩。

というか徘徊。


《新百合ヶ丘散歩編》
新百合ヶ丘は寿司屋や飲み屋関係が充実している模様。

そして緑も多い。 百合丘や新百合ヶ丘は結構好きな雰囲気です。

代官山ほど騒がしくなく、発展もしていなく、ほどよい静かさがあるですよ。


kobusi


うろうろしていたら、コブシの樹を発見

この頃暖かかったりしたものだから、花が数輪咲いていました。

五枚の花弁からなる大振りの花びらがきれいなんです。


新百合ヶ丘駅改札を出て右を向き、そのまま真っ直ぐ行き、横断歩道を渡ると、

MAPLEというショッピングモール?のようなお店の集合した建物が右手に見える。

そこに西洋アンティーク調の家具を置いたお店を発見


フットスツール


写真はフットスツール。もう少し緑が強かったら引かれているところだった。

店内はヴィクトリア調~アールヌーヴォと幅広い品揃え。

椅子を探しているなど談笑して参りました。

ランプシェードがとてもよい品揃え、花の形をしたものが多かったです。


写真は撮り損ねましたが、MAPLEの左端にあるイタリア料理店ラ・カンパーニャ

http://www.la-campagna.yokohama.walkerplus.com/

なかなかおいしそうでしたよ!


調子に乗って色々歩き回ったため、映画を観る前にお疲れモード;

ちょっとそこらのカフェで一息つくことにしました。


kyuukei


久々にコーヒーを頼む。頼んだコーヒーはフレンチクラシック。

苦味が効いていて、疲労感がすっと抜けていきます。

苦みばしった感じになれたところで、読書。


持ってきた本は恩田陸さんの 『象と耳鳴り』

文庫の装丁の感じも良いのですが (写真より鮮やかな緑と白)

何よりもその内容が素晴らしい! 好みのど真ん中に的中しました!

まだ半分しか読めていないので、感想アップは後々ですが、この本大好きです。


待ち合わせ時間になったので、映画を観てくることに。

既にチケットとパンフは購入しておいたので、ポップコーンでも食べようという話に。

しかし・・・ ワーナーのポップコーン、Mなのにどう見てもLサイズです(笑)




《映画サイレン感想編》

ジャンルとしてはホラー映画に分類すべきなのでしょうが、

あえてミステリ映画として紹介させていただきます。

形式はホラーなのですが、やっていることはミステリ、そう感じてくだされば本望。


結論から言うと、普通におもしろかったと思います。

評判では酷評が目立ち、正直不安でしたが、観てマジビビリを感じました。

一人で観に行くのには向いていないかもしれませんが、

誰かとポップコーンを食べながら観るには良い感じです。


先にゲームのサイレン1とサイレン2を知っていたため、

あのストーリーを継承していると思って見ていましたが、

実際映画を見たところ、全く別物と言って良いでしょう。

設定だけを移植したオリジナルストーリーです。


監督がどうやら金田一少年の事件簿の上海人魚を作った方だそうで。

あれは結構好きなドラマ映画でした。

また金田一シリーズのドラマをやっていただきたい。

そんな監督が手がけた作品であったため、ミステリ色が強かったのかもしれません。




《サイレン後》

たいした恥を見せることもなく、サイレンも無事見終わりご飯タイム。

最後の最後でお腹が鳴ったことがバレていたのが無念。

デキャンタでワイン飲み飲み、オムライスを食べて大満足。

さらにサラダを食べ、チョコレートパフェを食べ、と大大満足。


談笑の後、今日は夢でサイレンが鳴るかもねー、とか言っておりましたが、

出てきたのは別のものでした;


エミリー・ローズ・・・ まだ見ていないホラー映画が夢に出てくるってどういうことですか;

エミリーローズ公式ホームページ→http://www.sonypictures.jp/movies/theexorcismofemilyrose/site/


また行きましょうと約束し、ほろ酔い気分で帰った17日の夜でした。


お酒バトン

Bohemian Rhapsody の みかんさん からバトンを受け取りました。

その名も 「お酒バトン」 世の中色々なバトンがあるものですね。

運動会の時に受け取ったバトンって、微妙にトゲトゲしていて触り心地悪かったですよね。


では早速回答させていただきます。

人と一緒にいるとき、人と食事をしているとき以外は飲まないため、

まともな回答ができるか不安ですが、一つやってみたいとおもいます。


Q1.酔うと基本的にどうなりますか?

  笑い上戸になります。 いつも笑ってますが;

  お酒を飲んでいないのに、最近酔っ払いと言われることがあり、遺憾の意を表明中。


Q2.酔っ払った時の、最悪の失敗談はなんですか?

  修学旅行の付き添いで同行したとき、他の先生方と菊正宗を飲み、

  二日酔いで死にそうになりながら、京都を見回りしたこと;

  失敗というより、つらかったことですね;


Q3.その時はどの位飲みましたか?

  一升瓶を四人で空けたくらいなので、それほど多くは飲んでいません。


Q4.最悪の二日酔いはどんな感じでしたか?

  Q2の状態のときでした。頭がガンガンするのは序章で、まぶたが上下くっつきそうになったり、

  どうしても横になりたい気分になったりと、ダメな人間やっておりました。

  きちんと仕事はいたしましたよ;


Q5.酔っ払って迷惑を掛けた人にこの場で謝りましょう。

  いつも笑っていてすみません。

  飲んでいないときも笑っていてすみません;

  不愉快に感じている方いらっしゃるかもしれませんね orz


Q6.今、冷蔵庫に入っているお酒の量は?

  ベイリースとリキュールが2本くらい?


Q7.好きな銘柄は?

  リキュールならば: バーレンイエーガー(ハニーリキュール)


  ラガービールなら: カールスバーグ


  軽いエールなら: バス


  油物食べながらなら: ギネス


  洋食ならば: 白/赤ワイン


・・・つまりは食べ物をおいしく引き立てる組み合わせなら何でも好きです。


Q8.最近、最後に飲んだお店は?

  レストランアンジュ http://r.gnavi.co.jp/a600700/

  おいしいフランス料理のお店、席が少ないのと評判が良いのとで、要予約?


Q9.よく飲む、思い入れのあるお酒5品は?

  ビール: カールスバーグ (ロンドンで毎日飲んでいた水代わり)


  リキュール: バーレンイエーガー (クマが蜂蜜を取ろうとしているラベルがいい!)


  ワイン(白): シュヴァルツカッツ (青いビンと黒猫のラベルが良い感じ。スパークリングで後味もいい。)


  ワイン(赤): キャンティクラシコ (すみれの香りがなんともいえず、芳しいワインです!)


  日本酒: 七賢 (師の別荘に行くときによく買っていきました。こんなおいしい日本酒は無い!)


Q10.バトンのジョッキを渡すヒト、5人は?

  どうしましょう; どなたか20以上でお酒好きな人は受け取ってください;



こんな感じですが、回答してみてわかりましたけれど、

お酒だけを単品で飲むことは無いものなんですね。

D・B・ワイス 『ラッキー・ワンダー・ボーイ』

    すると、第三幕はステージIIIに対応するわけだ。《ラッキーワンダーボーイ》が大好きで、

    ほんとうによく知っている人なら、前人未到の地に突入した、あるいは、

    少なくとも別人の証言を通じてそのあこがれの地をじっと見つめたことがあるはずだ。

    探偵の頭が必要になってくる―――

                                 (ラッキー・ワンダー・ボーイ: 地の文 p.192)


この本の表紙を見た記憶を最後に、一瞬時間が飛び、いつの間にかレジに並んでいる自分を発見した。

「世界中にいる全ての僕のための小説だ」 一目見た瞬間に、そう感じた。

マリオのジャンプに夢を見て、インベーダーのレインボーフラッシュに感動した僕たち。

80年代をブラウン管の中で過ごした全ての人なら必ず手に取る小説かもしれない。


現在急ピッチで進めている、会誌投稿用の原稿を書いている合間合間に、

息抜きで書いているオリジナル小説 『飛べ、マリオ!』 と重なるところがあったので、

この小説を手に取ったことは偶然ではなかったのかもしれない。


そんなわけで、D・B・ワイスの 『ラッキー・ワンダー・ボーイ』


D・B・ワイス, 鈴木 豊雄
ラッキー・ワンダー・ボーイ

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任天堂出身のプログラムマー、イタチ・アラキが作った伝説的ゲーム“ラッキーワンダーボーイ”。ほぼ到達不可能の隠しステージが用意されているというこのゲームの攻略に、アメリカのおたく青年アダムは青春のすべてを賭けた。恋も仕事も放り投げ、イタチが住むという日本の京都へと旅立ったのだが…はたして、幻のステージ3に待ち受けるものとは?パックマンなど懐かしのゲームが満載のアメリカン・おたく・グラフィティ。

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ファイナルファンタジー12が発売された日、僕はマリオのジャンプについて考えていた。

マリオの世界では努力で超えられない障害はない。

BダッシュをしてAでジャンプをすれば、ワールド中に置かれた様々な障害を飛び越えることができる。

障害物だけじゃない、その気になれば画面枠外へと飛び出すことだってできた。

そんな 『スーパーマリオブラザーズ』 が本当に好きだった。


土管から生え出てくる "パックンフラワー" だって例外じゃない。

マリオのジャンプの最高地点は "パックンフラワー" をぎりぎり飛び越えることのできる高さだ!

もちろん数ドットでもジャンプ地点を間違えればパックンの餌食になってしまう、

その "ぎりぎり" に何かしら人生へのメッセージを僕は感じていた。


今日紹介することにしている 『ラッキー・ワンダー・ボーイ』 は、

そんな8ビットゲームに情熱を注ぎ、人生の全てをかけた青年アダム・ペニーマンの話です。

アダムの人生をかけることになったゲーム、その名も Lucky Wonder Boy。


「ワンダーボーイ」 という言葉を聞いてピンときた人はどれくらいいるだろう?

かつて16連射で伝説となり、技の毛利名人と歴史的一戦を繰り広げた僕たちのヒーロー、

「高橋名人」 の名前が浮かんだ人は、それはそれはたいしたもの、

「ワンダーボーイ」 は 「高橋名人の冒険島」 のコピー元だったりするのだ。


「ラッキー・ワンダー・ボーイ」 と 「ワンダー・ボーイ」 には関連はなさそうに思えた。

セビロなんて名前の敵は出てこないし、茫漠たるステージを彷徨うステージIIも見たこと無い。

関係ないのかな?と思うけれど、鏡とか小物が似ていたりする・・・

まったく別ものでありながらどこかで同じ雰囲気を感じる、そんな関連性があった。

でも残念なことに、 「ラッキー」 は架空のゲームだったのだ。


長々とゲーム談義、以後読後感想




《読後感想》


TRICK+TRAP MONTHLY vol.2 にて、戸川さんが述べていたことの一つに、

ミステリとして書かれたものではないのに強く探偵味を感じる小説がある

という言葉かそのような事が書かれていたかと思う。

この小説でその言葉を実感した。


謎があり、執拗な姿勢で謎を解明する、そのような 《様式》 が探偵味を出すのかもしれない。

「ラッキー」 の主題 「謎の第三ステージを解明する」 はその様式にぴったり合う。


それほど楽しいと思えなかったにも関わらず、ブログで紹介するつもりになったのは、

そんな探偵味に触れたからかもしれない。


小説全体の感じとしては、村上春樹の小説を想像したらだいたい合っていると思う。

つまりミニマリズムの感触があちこちから感じられたわけです。


村上春樹の小説は色々読んでみたけれど、好みの小説ではなく、

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』 以外は満足に読めなかった記憶がある。

( 『世界の終わり~』 はひきこもり世代のさきがけを感じさせる良書だった!)

「ワンダー」 も8ビットゲームの懐かしさが無ければ読みきることはできなかった。


しかし、ミニマリズムの特徴?とでも言うか、村上春樹の特徴とでも言うか、

物語が進行していく過程で、徐々にメインプロットはメタ次元へと沈降していって、

終盤では主客の転倒が顕著なものとなってしまう。

僕が望んでいた世界とは全く違う世界になってしまった。

倒錯した愛。 日本、もしくはアジアに対する歪んだ愛を感じ取ってしまった。


作者のレトロゲームに対する薀蓄はおもしろかったけれど、

それに付随する考察(マルクス主義や形而上学的な考察など)には食傷気味になるかもしれない。

薀蓄を語るのも小説の醍醐味なのだけれど、どうも最近ソレを受け入れられない。

推理小説にしても、突然薀蓄を語り出す小説は、読んでいて興ざめな感じがする。

もっともっと小説の中にのめりこませて欲しい!そういう気持ちになってしまう。


マリオ、パックマン、ポン、ドンキーコング、村上春樹、これらのワードにピンときたら買い。

では映画 『サイレン』 最終日なので行ってきます!

散歩 吉祥寺周辺と井の頭公園

所用で成城に出てきたものの、用事は5分で終了してしまったので、

急遽、 『吉祥寺散歩デー』 に切り替えました。


成城学園前から下北に出て、京王井の頭線で揺られること10分ちょい。

吉祥寺に到着、成城からだと案外近いんだなあ、と改めて実感しました。


では散歩記録



《TRICK+TRAP編》

まずは、第一の目的、 TRICK+TRAP の月刊フリーペーパーを手にいれること!

とりあえず "TRICK+TRAP MONTHLY vol.2" 無事に入手することができました。

しかし 3月12日発行 (第2刷) って・・・ ものすごく早い気がする;


構成は1面が TRICK+TRAP CALENDAR で近況や予定についての紹介。

( CALENDAR が CALENDER と綴り間違いになっているのは秘密だ!)

リニューアルなさってから取材が波のようにやってきてご多忙のご様子です。


2~3面は新刊書評というコーナーに変わっておりました!

2面は栗須一さんによる 『オックスフォード連続殺人』 と 『あなたに不利な証拠として』

 (ギジェルモ・マルティネス 『オックスフォード~』、ローリー・リン・ドラモンド 『あなたに~』)

『オックスフォード~』 の紹介で結構読みたくなってしまいました。


ギジェルモ マルティネス, Guillermo Mart´inez, 和泉 圭亮
オックスフォード連続殺人
ローリー・リン ドラモンド, Laurie Lynn Drummond, 駒月 雅子
あなたに不利な証拠として

3面は戸川さんによる 『ラ・パティスリー』 と 『愛国者』 についての書評です。

 (上田早夕里 『ラ・パティスリー』、深草淑子『愛国者』)

『ラ・パティスリー』 は明日にでも買ってこようかというくらい興味津々、理由はペーパーにて。

それと 『愛国者』 の深草淑子さんは日本探偵小説界の巨匠、甲賀三郎さんのお孫さんだそうです。

ミステリ界に入って日が浅い僕にとってはホントに嬉しいフリーペーパーでした!


上田 早夕里
ラ・パティスリー
深草 淑子
愛国者

4面はリレー・エッセイということで、今回は新保博久さんのエッセイ "消えるミステリ"

もうすぐ絶版図書となる 『日本ミステリー事典』 『海外ミステリー事典』 についてのエッセイ。

この二冊、第三世代の新本格ファンにはオススメできませんが、(西尾維新とか載っていないため)

それ以前の探偵小説や本格推理小説ファンの方にはオススメです!

「ちょっと知りたいこと」 や 「ずっと知りたかったこと」 が網羅されている良書です。


権田 万治, 新保 博久
日本ミステリー事典
権田 万治
海外ミステリー事典

そんな感じで TRICK+TRAP に潜入してまいりました。

購入した本は 泡坂妻夫さんの 『乱れからくり』 前々から読んでみたかったので、

思い切って購入してしまいました。 泡坂さんの小説は好きなので、楽しみです。



《井の頭公園》

今吹き荒れている嵐のような風雨、春になる季節の変わり目の特徴だそうです。

というわけで、梅や桜のきれいな (予感のする) 井の頭公園に行ってまいりました。


oisisou  白梅


左の写真は 『芙葉亭(ふようてい)』  お値段5000~10000円のコース料理がおいしそう!

お店の雰囲気も中々良くて、ちょっとした発見でした。 井の頭公園入り口。

芙葉亭のホームページ → http://www.fuyotei.com/


右の写真は白い梅、こんな感じで結構きれいに花開いておりました!もう少しってところかも?


サンシュユ


これはサンシュユという花らしいです。

一つの花に見えますが、よく見ると黄色い小さな花の集合体なのです。


携帯電話を変えて、カメラの性能が上がったので、これでもかってくらいに写真撮ってます。

我ながら自分の単純さに脱帽、というか絶望・・・

ねこやなぎ  トサミズキ


左はユキヤナギで右がトサミズキ。

ユキヤナギは好きな花で、すずなりに咲く小さな白い花々が印象的。 まだ蕾でした。

トサミズキは釣鐘状の黄色い花が連なって咲いているように見えます。 妖怪みたいですね。

そんな感じで井の頭公園めぐりは終了。 駅の方に戻ります。



《食道楽編》

駅に戻る途中、数ヶ月前にお世話になっている先生に勧められた喫茶店を探すことに!

「迷うかもしれない」 とおっしゃっておられましたが、どっこいすぐ見つかりました!

ご存知の方には有名なクラシック喫茶BAROQUE と JAZZ喫茶 Meg!!

光量が少なかったのでボヤけてますが、落ち着いた雰囲気がGood!


バロック&メイ  ねこ


JR吉祥寺駅の中央口から出て、左三本ほど路地を越えた先にあります。

JAZZ喫茶Meg が青い看板を出しているので、それほど困難極まるところではなかったです。

右の猫はBAROQUEの下のカーペットでくつろいでいた猫。 動く気配ナシ。

今日は入店せず、またいつか音楽が聞きたいときに入ってみたいと思いました!


さて歩き回ってお腹がちょっと減ってきたというもの!

前から気になっていたアレをひとり抜け駆けして食べてみることにしました!


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吉祥寺のとある通りにあるお肉屋さん?サトウ・・・

行くたびにものすごい行列ができており、ちょっと気になっていたのです。

しかし、このサトウ、気がついてみれば2階がステーキハウスだったのですね。 気になります。


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並ぶこと約15分、ついにアレをゲットいたしました! そこまでして手にいれたかったアレとは・・・

「メンチカツ」 (ジャジャジャジャーン!) なんておいしそうなメンチカツ!

しかし、地獄堕ちなことに、購入してから5分は食べてはいけないという制約付き・・・

なんでも揚げたてなメンチカツなので、その余熱で中に火を通しているからだそうです;

本当に良い香りがしましてね、それはそれは地獄でした


5分間待って一口かじると、これなんてショウロンポウ?ってくらい肉汁が!

おいしいなんてものじゃない! ふっくらと柔らかいお肉とシャキシャキ熱の通ったタマネギ!

そして、カリカリの衣の絶妙なこと! こんなにおいしいメンチカツは初めてだ! また食べたいや。


コロッケも一緒に買いましたが、おいしいと感じたものの、

うちの方がおいしく作れる、と密やかな自信を感じました。

ウチのコロッケは油を使わないし、パセリが程よく入っているので味がしまっておいしいのです。


そんなこんなでぶらぶらしていたら、こんなお店も発見いたしました。


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スペイン料理DOSCATOS(ドスカトス)! 二匹の猫って意味なんでしょうね。

お店の扉にも黒猫の飾りが付いており、とても好印象。

トリックトラップと同じ通りを先に進んだところにあり、見つけやすい。

とってもおいしそうな香りがしておりましたが、あいにくの雨で、散歩は終了。


抱えきれないほどの楽しみと一緒に電車の中で力尽きました;

推理小説とは関係ない記事で申し訳ないです;

あー、無理矢理繋げるとしたら・・・


いやあ、吉祥寺って本当にミステリですね。


エドガー・アラン・ポウ 『モルグ街の殺人事件』

ずいぶんと昔、まだ文学一筋であったころに読んだポウ。

今回はミステリ作家、またはミステリの父として再読。


原点回帰の意味もこめ ポウの『モルグ街の殺人事件』 を読んでみました!

Edgar Allan Poe The Murders in the Rue Morgue: 1843.


morgue
エドガー・アラン・ポー, 佐々木 直次郎, Edgar Allan Poe
モルグ街の殺人事件

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特異な美意識とともに明晰な頭脳と数理的な思考をもち、近代小説に推理小説のジャンルを確立したポーの短篇集。残虐異常な母娘殺人事件の謎を、天才的な分析力を持ったデュパンが解明する推理小説第一作『モルグ街の殺人事件』、同じくデュパンがその推理能力を遺憾なく発揮する『偸まれた手紙』、市の世界の恐怖を象徴的に描く『早すぎる埋葬』など4編を収録する。

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《作者ポウについて Edgar Allan Poe (1809-1849)》

ポウの人生は実に劇的なもので、そのまま小説にしても通るほど波乱に満ちたもの。


  エリザ・ポウとディヴィッド・ポウの役者夫婦の間に生まれる。生名エドガー・ポウ。

  ポウ3歳のときに両親と死に別れ、商人のアラン家に養子として迎え入れられるものの、

  大学在籍中に賭博にはまり、莫大な借金を背負い中退、その件で養父とも不仲になってしまう。

  その後、士官学校に偽名を使い入学するも、素行不良から退学。
  ポウ27歳のとき、13歳の従妹と結婚するも、1847年極貧の中従妹は肺を患い逝去する。

  妻の死に酷く打撃を受けたポウは酒に溺れるようになる。

  過剰な飲酒に溺れたポウはボルティモアの酒場で泥睡し、路上で倒れているところを発見される。

  病院に搬送されるも、四日後病院にて息を引き取る。 享年40歳。


  最後の言葉は It's all over now; write Eddy is no more. 「全てが終る、ポーはもういないと墓に書け」

  もしくは Lord, help my poor soul. 「主よ、我が哀れな魂を救いたまえ」


公私共に破滅していたにも関わらず、多くの人に影響を与え、文学史上にその名を刻んだポウ。

そんなポウの作品が好きです。



《作風について》

ポウの作品は人工美の一言で表せると思う。

その作品に見られる人為性や人工性には信仰にも似た信念さえ感じられる

人工美の追求は、ポウの評論 The Philosophy iof Composition (1846) で言及されている。

その中の The Raven 創作過程について触れているところを要約すると以下のような感じ。


  ポウに言わせれば、The Raven はロマンティックなインスピレイションの産物ではなく、

  計算しつくされたいくつかの条件のもとで創作されたもの。

  いくつかの条件をまとめると以下のようなもの:

   第一に30分で読みきれる長さ。

   第二にメランコリックな韻律を基調とす。

   第三に 「若く美しい女性の死」 をテーマにすえる。


まるでオーギュスト・デュパンのごとき数理的な分析に基づく詩作だと思う。

そのような意思の下に作られた作品群、『モルグ街の殺人事件』 も例外ではない。

以下読後感想文。




《読後感想》


『モルグ街の殺人事件』、以前に怪奇小説として読み、それほどの感銘は受けなかったと記憶。

しかし、今回改めて推理小説として読み返してみたところ、とてもセンセイショナル!

原点にして至高、そんな感想が頭をよぎりました。


数多くの推理小説内や評論その他あとがきや解説にて多分にネタバレをされている本作品。

未読でもストーリーを熟知している方も多数おられるかと思います。

しかし、この作品、推理小説好きならば一度は読んでおかなければならないと思います。

結末に至るまでの展開、その運びの見事さは実際に読むことでしか感じられない。


トリックの意外性に関しても素晴らしいと思う。

「え?これってホントに最初の推理小説なの?」 と思わず首をかしげてしまうほど。

この作品以前に書かれた推理小説っぽいものは、

 ・チャールズ・ディケンズの 『バーナビー・ラッジ』 (1841-1843 歴史小説に分類)

 ・フランソワ・ウージェーヌ・ヴィドック 『ヴィドック回想録』 (ヴィドックの自伝)

『モルグ街』 も 『バーナビィ』 も推理小説初期の作品ですが、どちらも一級の奇想。


ポウとディケンズには繋がりが多く、ポウが連載されていた 『バーナビー』 の最初の章を読み、

メイントリックを見破り、雑誌 『グレアムズマガジン』 に投稿したことはあまりにも有名。

その後、同雑誌にて 『モルグ街の殺人』 を発表している。

また、ポウは 『バーナビィー』 に出てくる大鴉について 「もっと有用に使えた」 と文句も言っている。

そして一部の学者はポウのThe Raven は 『バーナビー』 の大鴉にインスピレイションを得たものとも。

実際問題、研究してみても資料不足から追及することはできないが、

ポウとディケンズの間には少なからず繋がりがあることは確かだ。


推理小説に事欠かない今の時代に読むと、どちらにも新鮮味を感じないかもしれない。

というよりも、今の推理小説はこの150年の間、ほとんど進化していないのかもしれない。

新しいトリックの捻出、新しい犯人像、様々な試みはなされているものの、

大枠はポウの作り出した推理小説に全て当てはまりそうな感じです。


没落貴族オーギュスト・C・デュパンというキャラクター性も秀逸。

若竹さんの 『ぼくのミステリな日常』 にて、探偵小説はキャラ命とありましたが、

まさにその通りだと思います。圧倒的な個性、特異な人物による、神懸かった推理。

そこに《探偵小説》の魅力の一つがあるのかもしれません。


この作品でポウが提示した探偵小説の構造は後の推理小説の進路を決めたようなもの。

端的に挙げれば以下のような感じ。


 ・天賦の才能に恵まれた探偵役

 ・読者の視点に立つ引き立て役(ワトソンのような助手役)

 ・謎に満ちた事件性

 ・結末の意外性

 ・解決に必要な全ての情報を読者に提示するフェアプレイ精神

 ・推理の過程を説明する結末


ほとんど黄金期に使われていた手法、ともすると現在も使われている手法が既に確立されている。

ポウの特異性に驚かされました。 そこが一番の驚きだったかもしれない。


新本格や広義のミステリを一通り読み、別な刺激が欲しいと思う方、是非原点回帰をオススメします!

きっと現在に至る推理小説の源流を見ることで、ますます愛情が育まれるかと思います。



ルー・リードの The Raven では 『大鴉』 の素晴らしい音読を聞くことができます。

何度も繰り返して聞いてしまう大好きなCD。


Lou Reed
The Raven

ルイス・キャロル 『不思議の国のアリス』 トーベ・ヤンソン画

トーベ・ヤンソンの挿絵による 『不思議の国のアリス』 購入しました。

ムーミンが好きで、彼らの不思議な間の取り方や独特のセリフ回しや、

一見的を外しているようでその実正鵠を射る観念など、

トーベ・ヤンソンのセンスが好きで好きでたまらないわけです。

情報くだすったBに感謝。


そんなトーベ・ヤンソンがルイス・キャロルの 『不思議の国のアリス』 を訳していた!

ルイス・キャロルの 『不思議の国のアリス』 もとても好きな本なのですが、

この二人の良さが合わさったとき、一体どんな作品に生まれ変わるのだろう?

とても興味をそそられました。


ルイス キャロル, Lewis Carroll, Tove Jansson, 村山 由佳, トーベ ヤンソン
不思議の国のアリス

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守ってあげたいアリスです。村山由佳(直木賞作家)の新訳。トーベ・ヤンソンの“幻のアリス”40年の時を経て初公開。
キャロル自身がアリスに語り聞かせる口調をそのまま文章にした、永遠の少女たちと、彼女を守りたいと願う永遠の少年たちに捧げる新訳。「ムーミン」で知られるトーベ・ヤンソンの「幻のアリス」、40年の時を経て初公開。

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トーベ・ヤンソン版の 『アリス』、 ヤンソンの本国では既に絶版らしいです。

ということは、ヤンソン版の挿絵が使われている本書はそれだけでも価値がある!

珍しい試みなので、買っておいて損はありません。


挿絵ですが、テニスンの挿絵よりも幻想的な雰囲気が出ております。

テニスンの挿絵は風刺めいたところがあり、ややグロテスク。

ともするとクドく煩わしく感じることもあったりします。

それに対しヤンソンの挿絵は、あくまで世界を描くのみに留まっています。

よって絵だけ見ていても物語性があって良いです。


そして、一番評価が分かれる≪訳≫の問題ですが、

ちょっといただけない感じがいたしました。

言葉遣いが文語から口語風に変わってしまったことが残念。


口語レベルに落とした例として、マッドハッターが関西弁なのは許せるわけですが、

詩的な部分まで口語レベルに落とされると、ちょっと興ざめの感。

例えば、気狂いお茶会の席にて有名な詩:


    輝け、きらきら、小さなこうもり、おまえのめあては何だろう!

    この世をはなれて高く飛ぶ、ちょうどみ空に茶盆のよう。

                                輝け、きらきら   (岩崎民平訳)


    ちーかーちーかーひーかーるー おーそーらーのーコウモリよー

    はーるーかーなーせーかーいー お盆のよーにーとんでゆくー

    ちーかーちーかーひーかーるー・・・                  (村山由佳訳)


     "Twinkle, twinkle, little bat!

   How I wonder what you're at!"


    "Up above the world you fly,

   Like a tea-tray in the sky.

         Twinkle, twinkle—"' (ルイス・キャロル文)


やっぱり 「ちかちか光る」 よりも 「輝けきらきら」 の方がきれいな感じがするなあ。

この歌の後に続く、ドーマウスの "Twinkle, twinkle, twinkle, twinkle" のうるさい感じも、

「ちーかーちーかー」 より 「輝け、きらきら、輝け、きらきら」 の方が好きだなあ。

好みの問題なので仕方ありませんが、訳は岩崎民平訳のがいいです。


そんなこんなでしっかり楽しんだ トーベ・ヤンソン絵 『不思議の国のアリス』

ムーミン好きやアリス好きな人は即買いの方向でいかがでしょうか?

綾辻行人 『眼球綺譚』

    閉ざされた古い洋館は当時の私にとって、大袈裟な云い方をすれば、
    決して足を踏み入れることの適わぬ異世界の象徴であった。
    高い煉瓦塀は、こちらとあちらとを隔てる越え難い境界線だった。
                                  (眼球綺譚・地の文)


以前、Never Fade の都鞠さんが 「綾辻行人 彼岸と此岸の架け橋」(*) という小論を掲載なさっていたのを拝見したことがあったのですが、その小論が真正鵠を射るものであることが、綾辻さんの作品内の文章から読み取ることができます。もちろん作品内で書かれていること=作者の意図という構図は成り立たないわけですが、この場合 presentation と representation の考察をするまでも無く、「こちらとあちら」「彼岸と此岸」「現実と異世界」という二元対立の図式は綾辻さんの特徴を捉えたものだと思います。

                         *Never Fade 都鞠さんの2006年2月2日の記事より


と、ミステリの話で始めてみましたが、本日紹介しますは怪奇小説だったりします。
好きなんですよね。怪奇小説。むしろ推理小説より好きかもしれません。

そんなわけで、綾辻行人さんの 『眼球綺譚』 です。


綾辻 行人
眼球綺譚

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ある日、大学の後輩とおぼしき男から郵便が届いた。「読んでください。夜中に、一人で」という手紙とともに、その中にはある地方都市での奇怪な事件を題材にした小説の原稿が…。表題作「眼球綺譚」他、誕生日の夜の "悪夢" を描いた「バースデー・プレゼント」、究極の "食" に挑んだ逸品 「特別料理」 など、妖しくも美しい7つのホラーストーリーを収録。著者の新境地を拓いた短篇集。
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まみやのミステリ日記のまみやさんの薦めで手に取った『眼球綺譚』。
いやはや、どうしてどうして、ばっちり好みの作品でした。
まみやさん教えてくださいまして、ありがとうございます。


怪奇小説が好きで、江戸川乱歩、ポウ、ラブクラフトやゴシックホラーなどなど、
一時期読み漁っていたこともあり、怪奇小説には愛着があります。

怪奇小説にはロマンがあります。

そのロマンとは不可解性、解くことのできない純粋な謎のことです。
分析の範疇を超えたところにある謎、それに心引かれる今日この頃。
解けない謎の方が(本格推理小説でない限り)おもしろいのかもしれません。


密室は開かれない方がわくわくしますし、
超常現象的なトリックが使われていてもぞくぞくしますし、
幽霊はいた方が良いし、UFOも好き勝手に飛んでいたら良いと思う。

「謎を論理的に解く」 という本格推理小説の大前提に影響されないミステリ、
それが怪奇小説のおもしろさなのかなあと思います。



《読後感想》

一度記事が飛んだので、手短に感想。
七つあるうち、三つほどお薦めしたい作品がありました。


 第二話・呼子池の怪魚
    怪奇小説において魚というイメージは大事なわけですが、
    この作品に出てくる魚、とても好きです!
    奇妙、奇怪、なんとも言えない不安を味わえました。


 第五話・鉄橋
    この短篇集の中で一番好きな怪奇小説でした!
    ここまでストレートに怪奇小説を書いてくれるとは、正直予想外でした。
    話の運び、怪談の内容、最後のオチ、どれも一級品でした!


 第七話・目玉綺譚
    これも豪華な話です。がっつりと嫌な気持ちになれました。
    夜中、一人で読むために書かれたような話です。
    視線を感じ、なんども後を振り返って見てしまいました;


ロジックものや難解なアンチミステリで疲れた頭に怪奇小説なんていかがでしょうか?


追記:

『眼球綺譚』 の表紙は京極夏彦さんのデザインだそうです。

京極夏彦さん、デザイナーでもいらっしゃったとは驚きです。

一芸に通ずるものは多芸に通ず、といったところでしょうか。