統合失調症の私が選んだ本 -5ページ目
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シュバイツァーの仕事

長薗 安浩
シュヴァイツァーの仕事

  主人公は、池内太郎という引きこもり寸前の学生。彼は親に出してもらった学費を使い込み、アルバイトをしなければならなくなるい。太郎が応募した「有限会社シュヴァイツァー」の時給3000円のアルバイトとは、山梨の奥地にある産業廃棄物処理会社(山梨の山奥という設定が『楢山節考』に対する著者の強い思い入れを物語る)でのアシスタント作業というふれこみだった。だが現場に出かけてみると、そこはたくさんの仏像が建ち並ぶ、気味の悪い場所だった。太郎はアシスタント業務として、穴掘りの手伝いをさせられる。

  重病を患っているらしい、老いた「博士」こと河原政治社長(彼は医者でもある)、三河弁を操る社員の杉浦、痴呆が始まった杉浦の妻カズコらが関わる有限会社シュヴァイツァーの事業とは、廃棄物処理に注意深く隠されていたが、やがて太郎は、この会社が尊厳死を願う人々を迎え入れ、願いを実現するために設立されたことを知る。

  「博士」の信仰とは、人間は自ら尊厳ある死を選ぶ権利を持つ、という一語に尽きるであろう。【尊厳死度94点、中央公論・平成17年7月号】

やがて消え行く我が身なら

著者: 池田 清彦
タイトル: やがて消えゆく我が身なら

  本書は生物学者である池田清彦のエッセイ集である。冒頭の章題が「人は死ぬ」だ。あまりの直球ぶりに思わず笑ってしまう。他にも「未来のことはわからない」なんていうのがある。「人は死ぬ」「未来のことはわからない」って、そりゃ当たり前だよ、と思う。だが、実際に中身を読んでみると、これが新鮮なのだ。

  「ところで、人はなぜ死ぬのだろう。多くの人はすべてての生物は死ぬのだから人もまた死ぬのは当然だ、と思っているかもしれないが、それは少し違うのである。たとえば、バクテリアや一倍体(ハプロイド、染色体数がnの固体)の原生生物は原則的には死なない。もちろんエサがなくなったり、高温や乾燥に長期間さらされたりすれば死んでしまうが、それはいわば事故死である。原則的に死なないという意味は、細胞系列が分裂を重ねても老化しないということである。大腸菌は何回分裂をくり返しても老衰で死ぬということはない」

  本書を読みながら読者はちょっとだけ自由な気持ちになれるのだ。【自由度94点、文芸春秋・平成17年7月号】

反乱するメキシコ

著者: NoData
タイトル: 反乱するメキシコ

「組織も銃もなく、ぼろをまといながら、まったく実利的な理想のために、すなわち、わずかばかりの穀物をそだてる一片の土地のために命を捧げる決意を固めた軍隊」(序文から)への若き米国人記者の従軍記である。そこに登場する人間たちの何と生き生きとしていることか。「平和は善で、戦争は悪」という二分論で計るのが常套だが、戦争にもさまざまな背景があり、その一つひとつをしっかりと見据えることで、はじめて、戦争を止めるための手立てが見えてくると、私はいま、強く思っている。【反乱度91点、中央公論・平成17年7月号】

森の回廊ービルマ辺境民族解放区の1300日

著者: 吉田 敏浩
タイトル: 森の回廊―ビルマ辺境民族開放区の1300日

  四年近くの歳月をかけ、軍政ビルマからの独立を願うカチン独立軍に従軍した記録だ。中国国境に隣接する解放区への旅は六ヶ月にも及ぶ。途上、13度もマラリアの熱に倒れながらの厳しい旅。

  政府軍との戦闘では、兵士が死亡するのを目の当たりにする。「死ねば、人間も草木虫魚鳥獣や微生物や土地や水と同じく生態系の一部でしかない」と感じながらも、「そう思うのは結局のところ、私にとって戦死者たちは肉親でも友人でもない。無縁の他者でしかないからではないか。その死のありように衝撃を受けても、心底から嘆き悲しむ対象とはなりえない。同じように、彼らにとっても私は無縁の他者にすぎないだろう」と自問自答の思いを巡らす。

  寝食を共にし、村人と種を蒔く中で、彼自身も変わっていく。チェルノブイリ原発事故のあと、その影響を心配する兵士の言葉に、「村人は傘も持たずに雨に打たれて働くときもあるし、川や泉の水をのみ、雨の恵みを受けて実る焼き畑の作物を食べている。彼らにとっては汚れなき天の水であり、死の影を秘めた核の雨であってはならない」と気遣う。

  日本人としての自分自身も問われるたびだった。親しくなった村人に「カチン人をはじめビルマ中の人々が日本軍に苦しめられた。農作物や家畜を奪われたり、苦力としてこき使われたり、敵に協力しているとして殺され傷つけられたり、家に爆弾を落とされたりした」と言われ、言葉を失う。が、その村人は最後に「むかしは、カチン人と日本人は敵同士だったけれど、これから、わしとおまえは友達だからな」と語るのだ。

  別れの日、「やっぱり、帰らなきゃいかんのだな。でも、また訪ねてこいよ。道は覚えただろう。また来るのを待ってているぞ。わしが生きているうちに、な。でも、いなくなったあとでもかまわないさ。とにかく、また訪ねてきてくれよ」と語る。私たちは、遠くの違う世界に住む人とも確実に心を通わせることができると吉田の経験は教えてくれる。【カチン度95点、中央公論・平成17年7月号】

三酔人経綸問答

著者: 中江 兆民, 桑原 武夫, 島田 虔次
タイトル: 三酔人経綸問答
高坂先生は、本書を引用して「過慮」の戒めを
説いた。本書に登場する洋学紳士君は「非武装論」を唱え、東洋豪傑君は「大陸侵略論」を主張したが、いずれも西洋列強のアジア侵略が必然的であることを前提としており、それは考えすぎ(過慮)だと、三酔人のひとり南海先生は批判したのである。日頃、あまり深刻ぶって深読みすることのないよう自戒しているのは、本書(あるいは恩師)から得た教訓のようなものなのかもしれない。【教訓度89点、中央公論・平成17年7月号】


「文明の裁き」をこえて

著者: 牛村 圭
タイトル: 「文明の裁き」をこえて―対日戦犯裁判読解の試み
  著者は、東京裁判史観を見直す新視点を提供し、個人名を挙げず、十把一絡げに「アジア民衆を傷つけたA級戦犯」などという紋切型を反復する論調を厳しく批判している。
  この馬鹿の一つ覚えを耳にする機会がまたぞろ増えた。国論が歪められている。【戦犯度93点、週刊文春・平成17年6月30日号】

ニュースがわかる!図解 紛争地図

著者: 浅井 信雄
タイトル: ニュースがわかる!図解 紛争地図

  内戦や傭兵拘束や憲法9条や自衛隊派遣にかかわるニュースが大量に流れはしますが、日本人がそれほど国際紛争に関心があるとは思えません。

  日本人だけでなく、徴兵義務がなくなったアメリカだってそうです。こうして現代の戦争は、一見軍縮の陰で外注化と民営化が進んできました。

  紛争は、議事堂のなかで起きているんじゃないッ、現場で起きているんだ、と青島刑事ならずとも叫びたくなります。

  画面や紙面を通じて、日々あちこちの紛争が報じられはするのですが、多くの日本人には、どことどこがどのような理由で何を争っているのか、ぴんとこない場合が多いようです。

  本書は2003年3月の発行ですから、アメリカの対イラク戦争には間に合っていません。しかし、英米が苛立つイラクの諸問題や、世情を賑わす北朝鮮の核開発についても、しっかり押さえられています。ミャンマーやネパールの反政府運動、チベットの自治要求、レバノン内戦、北アイルランド紛争、キューバとアメリカの冷戦、インドの部族問題、キプロス紛争、タジキスタン内戦・・・・・。

  これら37件の国際紛争が、すべて2ページずつ、左側に図表、右側には簡潔な解説が付されています。竹島や尖閣諸島も、やはり2ページです。中学校教材のような本ですが、「今さら人に聞けない」人に、とても役立ちます。【図解度95点、文芸春秋・平成17年7月号】

戦場の現在

著者: 加藤 健二郎
タイトル: 戦場の現在(いま)―戦闘地域の最前線をゆく
  自分より若いジャーナリストのなかで、私はこの著者を最も尊敬しています。理由は、戦争の最前線を単独で歩き続ける、愛すべきバカだからです。
  羨ましいことに私などとは違って、彼の風貌は愛嬌があり、能天気(失礼)に見えます。ぽわわんとした顔は、緊迫した戦場取材では明らかに有利です。
  彼は、そのことを、つまり自分が状況のなかでどう見えるかを、よく心得ているのでしょう。だからこそ15年間で二日以上の身柄拘束を8回も体験しながら、相手を油断させることに成功します。
  彼はイデオロギーの人でなく、リアリストです。ロシア軍の包囲網からチェチェン人部隊が脱出するときに「金で話をつける」事態や、無抵抗のまま逃げ出したイラク兵と何もしなくてよかったアメリカ軍と取材陣の総ての利害から「戦闘が捏造される」様子も、虚偽の犠牲者数がどんどん膨れ上がって報告される実態からも目を背けません。
  所詮、戦争は破壊と人殺しです。大量破壊と大量殺人を推進する側の政治家たちが、知ろうともしない戦場の現在が、本書には偽りなく描かれています。【能天気度95点、文芸春秋・平成17年7月号】
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