統合失調症の私が選んだ本 -2ページ目

苔の話

秋山 弘之
苔の話―小さな植物の知られざる生態

  「苔生す」という言葉で、長い時間の象徴とされることもある苔の生態を解説したのが本書である。抗菌性を持ち腐りにくく、大気汚染の指標となり、苔玉として愛でられることもある苔。苔は小さい。注意しなければ気づかない。だが、注目すれば面白いことがいっぱいだ。少しゆったりした気分で足下を見つめてみよう。【苔生す度87点、日経サイエンス・平成17年1月号】

エモーショナル・デザイン

ドナルド・A. ノーマン, Donald A. Norman, 岡本 明, 伊賀 聡一郎, 安村 通晃, 上野 晶子
エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために
  本書は、『誰のためのデザイン?』(新曜社)を書いたドナルド・ノーマンの新著だ。プロダクトデザインは3つの側面を持つという。外見などから来る「本能レベル」、使うときの効率に関する「行動レベル」、製品自体の持つ物語性を問う「内省レベル」だ。良いプロダクトデザイン、良いインターフェイスとは何か、テクノロジーやロボットの未来について考察している。情動と認知は切り離せないし、人間の行動や動機づけ、パーソナリティとも深い関係があるという。このへんは最近の脳科学のベクトルとも近いものがあるように思う。
  ノーマンは巻末で「我々はデザイナーだ」と語っている。誰と会い、何をするか。どんな世界を構築し、どんな社会とかかわっていくか。生きるという行為そのものがデザインだ。ならば、美しいものを選んで生きることができれば、満足のいく人生や社会を作っていけるのかもしれない。部屋のなかに美しいものをおくように。【デザイナー度89点、日経サイエンス・平成17年5月号】

ゼロ成長の富国論

猪瀬 直樹
ゼロ成長の富国論

  『黒船の世紀』『ミカドの肖像』『日本国の研究』など数々の優れた作品を生み出した著者が、道路公団民営化の中で政治にモミクチャにされている姿を見て、しばらくはこの人から傑作を期待するのは酷かと思うこともあった。確かに本書は、これまでの氏のパフォーマンスの平均から見て傑出しているというわけではないが、一読に値する作品だ。テーマは人口減少と財政・経済の再建である。

  江戸時代の日本は、元禄までの百年間は人口の増加と経済成長が続いた。しかしその後の百五十年間は人口の停滞と低成長に終始する。この人工変動の、東日本と西日本の格差は大きかった。最も人口減少が激しかったのは下野・常睦などの北関東、人口増が顕著だったのは薩摩・周防など西南の諸藩である。明治維新へのエネルギーがこうした西南雄藩から生まれ出たのは偶然ではあるまい。

  猪瀬氏は、小田原藩の家老・服部十郎兵衛家の財政建て直しを引き受けた二宮金次郎の所業を振り返りながら、ゼロ成長社会の「出口」を模索する。金次郎は、分家旗本宇津家の領地下野国桜町領の調査を命じられ、その復興を任される。本書は金次郎の方式を、薪を担いで読書する金次郎の勤倹、節約のイメージとは異なる「攻めの富国論」として捉えている。

金次郎の資産形成の方法は、現代のファンド・マネージャー顔負けの合理的なものであった。奉公人たちが薪を売って金を集め、それを運用してメンバーには低利で融資する。田畑を買い求め、小作に出し、お金が溜まれば貸し金とし、貢租のかからない荒地を耕し、自らは雇われ人となって賃金を稼いだ。それは領主権力による収奪を巧みに潜り抜ける怜悧な方法であった。

  借金して土地を買う、これが終われば99%事業はできた、と言い切った西武鉄道の堤康次郎の錬金術にも通じる。それは複利を基本とする欧米型の金融技術であり、現在の日本の債券市場の考えより進んでいたと著者は言う。

  北関東の荒廃した宇津家桜町領の再建については、いわゆる「報徳仕法」と呼ばれる復興のモデルケースをつくりあげた。百年前の年貢高の平均と直近十年の数値を基本にして、今後十年の年貢高の限度を設定する。いわゆる「分度」設定である。宇津家の収入は向こう十年、これ以上増えることはない。したがって支出はこの収入を上回ることはできないという限界点を決めた。この発想を、現代日本の巨大な財政赤字の解決方法にも生かすべきだと著者は考えている。

金次郎の手法は既成の秩序との摩擦を生んだ。人口減少対策として村外からの「移民」を積極的に受け入れたことも摩擦の火種になった。百姓の新旧の差別のよる内部抗争が頻発したのである。ここでも現代日本の外国人労働者問題と金次郎の政策が重ね合わされている。

  金次郎は180年先までの収支計算を実に克明に行った。なぜ180年先のことまで示そうとしたのか。「大丈夫だ、未来永劫ずっとこれでやっていける、自信を持て、自信を持たなければ人生に何の意味があるのか」というメッセージだと猪瀬氏は捉える。確たる未来が見えないところに、どうして労働意欲など湧いてこようかというのだ。

  最後の二つの章は、現代日本経済の活路は農業の再生にあるという自説の展開に当てられている。建設業でダブつく労働者を革新的なアイディアの農業が吸収していくことが重要だ、そのためには、金次郎が実践したような農・工・商の間の交流と部門を越えた自由な発想こそ不可欠だというのである。

  この辺りの議論は確かに熱を帯びているが、現代日本の農地の利用規制について、もう少し踏み込んで議論して欲しかった。零細な兼業農家中心の日本農業は、農地保有者が資産としての農地の将来価格上昇を見込んで保有されたままでいることが、規模の拡大を阻み、生産性の上昇を阻止している。したがって農地の転売が行われても、土地開発業者と農地保有者のエゴむき出しの「虫食い状態」の土地利用が進むだけに終わっているのが現状なのだ。

  本書の帯びに、「財政赤字、人口減少、労働意欲減退。二宮金次郎はこの三つに苦しむ社会を救い、希望の未来を指し示した」とある。本書を政治的マニフェストとして読めば、その主張の力強さからして、猪瀬氏は国民を励ます優れた政治家の資質も十分だという感じがする。【富国度98点、文芸春秋・平成17年7月号】

試してナットク!錯視図典

馬場 雄二, 田中 康博
試してナットク! 錯視図典 CD-ROM付
  さまざまな錯視図形を集めたコンパクトな一冊。付属のCD-ROMを開くと、長さのマジック、変形のマジック、色彩のマジックなど、10のカテゴリーに分かれた多彩な錯視図形が出てくる。眺めるだけでなく、パソコン上で図形を動かせる工夫もあって、子どもとともに楽しめる。【錯視度96点、日経サイエンス・平成17年3月号】

98%チンパンジー

ジョナサン マークス, Jonathan Marks, 長野 敬, 赤松 真紀
98%チンパンジー―分子人類学から見た現代遺伝学
 分子生物学の進歩はヒトと類人猿の違いをゲノムの差異で表してみせた。では、遺伝子はヒトをヒトらしくするのにどれくらい役立っているのだろうか。分子人類学というキーワードで読み進むうち、話題は縦横無尽に広がりを見せる。ネアンデルタール、同性愛、人間の本性とは?・・・著者マークスはニコラス・ハンフリーとともに、ポスト・グールドとの期待も高いそうだ。【チンパンジー度95点、日経サイエンス・平成17年3月号】

がん遺伝子は何処から来たか?

J・マイケル・ビショップ, 大平 裕司
がん遺伝子は何処から来たか?
  プロトガン遺伝子の発見で1989年にノーベル賞を受賞した著者による本書は、ノーベル賞受賞顛末記、研究内容紹介、自伝、感染症とガンの研究史、科学のありかたや社会とのかかわりなどを一冊に押し込んだ本である。普通これだけ押し込むと食い足らない感じがすることが多い。だが、本書の場合はそれぞれの話題がテンポよく、ちょうどいい分量で展開されている。各章の内容の関連も展望できる本になっている。
  もともと著者は感染症の研究者で、小児麻痺ウィルスの研究をしていた。たまたま隣で鶏にガンを引き起こすラウス肉腫ウィルスの研究が行われていたことが、ガン研究に入るきっかけになった。だが例によって真っ直ぐに成果をあげたわけではなく、逆転写酵素の発見の一歩手前で引き返してしまう。ぜひ実際に読んでもらいたい。最終章の社会と科学の接点の話題への著者の熱さも読みどころの1つである。【ガン遺伝子発見度95点、日経サイエンス・平成17年1月号】

日本語練習帳

大野 晋
日本語練習帳

  どうすればよりよく読めて書けるようになるか。何に気お付け、どんな姿勢で文章に向かえばよいのか。練習問題に答えながら、単語に敏感になる練習から始めて、文の組み立て、敬語の基本など、日本語の骨格を理解し技能をみがく。学生・社会人のために著者が60年の研究を傾けて語る日本語トレーニングの手順。日本語教師の方にもお勧めである。【日本語度97点、購入済み】

English Grammar in Use

Raymond Murphy
English Grammar in Use With Answers: A Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Students : With Answers (BOOK & CD-ROM)

本書は、英文法の自習所である。

”The book is intended mainly for intermediate students (students who have already studied the basic grammar of English).It concerates on those structures which intermeadiate students want to use but which often cause difficulty.Some advanced students who have problems with grammar will also find the book useful. The book is not suitable for elementary learners."

日本人の私にも使い易い内容である。英語を再点検してみたいという人にはお勧めである。【自習度96点、購入済み】




物理学者ランダウ

佐々木 力, 山本 義隆, 桑野 隆
物理学者ランダウ―スターリン体制への叛逆

  20世紀を代表するソ連の物理学者レフ・ランダウ(1908~1968年)の思想と生涯を綴った歴史ドキュメント。「レフ・ランダウーー獄中の一年」を核に、さまざまな資料をもとに編集されている。反スターリン主義者として投獄されたランダウはなぜ処刑を免れたのか。貴重な歴史的資料もさることながら、物理学者カシミールが20代のランダウを回想する「若き日のランダウ」も興味ぶかい。【反スターリン度95点、日経サイエンス・平成17年3月号】

福祉工学の挑戦

伊福部 達
福祉工学の挑戦―身体機能を支援する科学とビジネス

  高齢者や重い障害をもつ人ばかりでなく、けがや病気で身体の機能を制限され、生活に不便を感じている人は多い。手足の不自由、失われた聴覚や声、さらには脳の働きを機械に肩代わりさせることで、QOL(生活の質)を高めようというのが福祉工学の狙いだ。人工臓器や再生医療と比べれば地味な分野に見えるが、本書を読むと産業としての可能性も見えてくる。【挑戦度90点、日経サイエンス・平成17年3月号】