涙の染み込んだ制服を身に纏う彼女が口を開いた。
「私、好きな人がいることがつらい」
本当につらそうに歪んだ表情から僕は目線をはずした。
「私がこんなに悩んで泣きそうになっている間に、あの人といえば今話題の連続ドラマを熱心に観ている」
冬の放課後の教室で、僕らは机を向かい合わせて座っていた。
どうしてこんな状況の中にいるのだろう。
僕はぼんやりと窓の方へ目をやった。
彼女も同じように黒く染まった窓の外に目をやった。
寂しそうな木の椅子が、ぎしと音をたてた。
僕は俯いた。
「どうしようもない片想いじゃないんだよ。両想いなの。私の好きな人は恋人なの」
不謹慎だけれども、妙に大人ぶったその言い回しにおかしくなった。
高校生に「恋人」なんて言葉は早すぎるような気がして。
「これからの二人のことも、今までの二人のことも、真剣に向き合おうとするのは私だけで、あの人に全部打ち明けたら一言『そんなに考え込まなくたっていいじゃん』ってそれだけなの。それほどの価値しかないの、私の頭は」
彼女は目を閉じた。
『恋人』との間にあった沢山の記憶。
それらを一つひとつ丁寧に鮮明に思い出しているように見えた。
彼の一言で僕の前にいる彼女は……
絶望しただろうか、悲しんだだろうか、それとも激怒したのだろうか。
僕はどれも間違いであると感じた。
やっぱり彼女が初めに言ったように、「つらい」しか当てはまるものは無いのかもしれない。
僕は、高校生と高校生のお付き合いはそれほど重大なものとは思えなかった。
十代の恋なんてそんなものじゃないか。
たとえば16歳と18歳の男女がいたとして、結婚を前提にお付き合いを、なんてそうそうない話だ。
今は彼氏、彼女、そういう存在が自分にいるかいないかに命をかける人が多い気がした。
「重いのなんて分かってるわ。でも軽いのは嫌よ、絶対、そんなの、やだ。やることやれればそれでいいなんて、もっとやだ。私は彼氏持ちという肩書きが欲しいわけじゃない。だって好きなんだもの」
蛍光灯の単調な明かりが彼女の目もとを光らせた。
窓を向いたままの横顔の乾いた線の上に、新しく涙の線が重なる。
僕は何も言えないままだ。
こういう子を面倒とは思わないけれど、かわいそうだとは思う。
どうしてもっと楽に生きられないのだろう。
感受性が強すぎて僕には見ていられない。
「難しいことなんて考えずに生きられたらいいのに」
そう言って顔を覆い隠した彼女。
僕は差しのべかけた手を止める。
彼女に触れるには
手はあまりにも冷たかった。








