Ⅱ-[1]
「じゃ、練習ガンバレよ!」
翼は笑顔でそう言って帰って行った。
その一言と笑顔で、あたしは今日も遅くまで続く練習を頑張れる。
1時間ほどして休憩になった時だった。
「ねぇねぇ佐久原さんて、ほんっと〜に一色くんと付き合ってないの!?」
尋ねてきたのは、同じ吹奏楽部のクラリネットの子だった。「・・あー、まぁ、うん・・・。」
この質問をされる度、あたしの胸は『キュウッ』と痛む。
確かに、付き合ってと言ったわけでもないので、肯定は出来ない。
そうなると、否定。翼が、一緒にいる理由は、幼なじみだから・・・?
「ほんとに!?じゃあ好きな人は!?いるの!?」
「・・・さぁー。。。」
そんな事、コッチが知りたい。
「なんでよ!?幼なじみなんでしょ!?どーしてわかんないの!?」
どーしてって・・・。
「な、なんで。」
ヤボな質問をしてみる。
「や、なんかぁ、リエが夏休み前に告ろうかなとか言っててー。」そう言うとおもむろに視線を外す。
(部長なのに!?)
そんなバカなコト、あるハズ・・コンクールを控えてるっていうのに。
告ったところで、遊べないでしょ!?
だったら、翼に余計なコト、しないで!!
「そこ、始めるよっ」
と、指揮の顧問に注意された。再びフルートを構え、練習が始まる。
一度だけ、小学校5年の時、クラス中でウワサにされて冷やかされた事があった。
朝、いつものように一緒に教室へ入ったら、黒板に大きく描かれてた。
『2人は付き合ってて、チューをしてた!!』
とか、ある事ない事。
・・・どっちも無かったんだけど。
あたしはとにかく恥ずかしくって、入り口で固まって下を向いてたら、翼はものすごい怒って、
「誰だよ!?コレ書いたヤツ!!美羽をいじめるヤツはオレが許さねぇ!出て来い!!」
…って、なんだかちょっと見当違いな事言ってたけど、
それがすごく嬉しくて、
心強くて、
もっともっと大好きになった。
・・・翼は、優しいから、告られたりしたら、断れないんじゃないかな・・・・・。
だったらあたしも『告れば?』って思うけど。
そんな、同情でOKされたくないし。
あたしなりに、頑張って努力してるつもり、なんだけどなぁ。
やっと練習が終って、薄暗いゲタ箱へ行くと、傘立てに誰か座ってる!?
てゆうか、動かないし!
恐る恐る近づいてみると、翼だった。
(・・・い、居眠りしてる。。)
サラサラの髪が顔にかかってる。
あ、今朝の寝癖、まだそのままだ。
起きそうにないなぁ。こんなトコでスヤスヤ寝てる。
ずっと、見つめてたくなっちゃうよ。
でも、虫に刺されるよー?
「・・・翼。」
仕方無く声を掛けた。
「ん・・」眠そうに目をゆっくり開ける。
「美羽!練習終った!?」
パッと笑顔になる。
「う、うん・・・。」
・・・ひょっとして、待っててくれたの?
「ぃやぁ~・・よく寝た!」
あくびをしながら、うぅ~んと両手を上げて、ノビをする。
ほんとに翼を広げてるみたい。
なんて自由な人生。
「じゃ、帰ろっか!」
満面の笑顔で言って、傘立てからぴょんっと立ち上がる。
「あっ蚊にくわれたっ痒いぃ~!」
即座に腕を見て、ボリボリ掻き始める。「・・・もォー、そんな所で寝るからだよっハイッ!」
あたしはすかさず“ポケムヒ”を差し出す。
「・・・サンキュー美羽♪オレの保健室みたいだ!」
翼のその笑顔につられて、あたしは『くすくす』笑う。
そうだよ、翼が困った時には、役に立ちたいから。
中学に入学したての頃、翼は髪の色を理由にしょっちゅう上級生から呼び出されていた。
地毛だって言っても信じてもらえず、お陰でケンカっ早くなってしまい、
生傷が絶えなかったから、以来あたしは絆創膏やなんかをポケットに常備していた。
*写真素材サイトサマ*
