1月の物語 『camera×camera』彼は写真が好きだった。
いつ、どこで会っても、彼の骨ばった手には、ゴツいカメラがあった。
それも今時珍しく、アナログの一眼レフ。
大学の構内にも彼のシャッター音が響く。
彼は言っていた。
「写真が後で出来上がるのが楽しみなんだ」
と。
使い捨てカメラでそのもどかしさを知っていた私には、イマイチ理解が出来なかった。時代の便利さに、すっかり慣れてしまっていたからだ。
彼はいつでもどこでも、気になる被写体を見つけては、シャッターを切った。
夕焼けの空、路地裏の猫、夜空の月、公園ではしゃぐ子供。
カメラを構え、レンズ越しに世界を見つめる彼を、私はスマホカメラで撮った。
私のこの小さく華奢な電子機器の中に、彼を閉じ込めたくなって。
そして彼は、撮影旅行へ出掛けた。一人で。
数日後。
『君へ。』
というタイトルで、画像が送られてきた。
彼からだった。
『飾らない、君みたいだ。』
そう、一文が添えられた写真は、雪帽子を被った、真っ赤な椿の花。
白と、赤と、緑の配色が、見事だった。
さらに数日後。
知らない番号から着信があった。
いつもなら出ないはずだったのに、何となく出てみた。
その人は低い声で、『彼の友人』だと名乗った。
「・・・実はあいつ、数日前に旅先で事故に遭って―――」
耳を疑った。
私は今、イタズラ電話にでも騙されているのかと。
しかしその人は、彼の名前も住所もちゃんと知っていた。
彼は私への写真を送った後、事故に遭い、この世から、消えた。
彼のスマホも事故に巻き込まれ破損し、データが飛んでしまったらしい。
だから、私への連絡が、遅くなったと。
事態を、飲み込めなかった。
だって彼は、私のこの電子機器の中に、いるのに。
すでに通夜も告別式も終ってしまっているらしい。
だけど、彼の家まで来てほしいと、そういう連絡だった。
私は普段着のままで向かった。
初めて訪ねた彼の家には、彼の遺影が、ひっそりと、佇んでいた。
手を、合わせられない。
そんな、認める行為を。
すると背後から、その友人が私を呼んだ。
友人に案内され、二階の彼の部屋へ向かった。
暗室になっていた彼の部屋。
そこで友人が、一枚の写真を私に見せた。
「!」
それは、紛れもなく、私。
けれども、自分でも見た事の無い笑顔だった。
「・・・あいつの、最期のフィルムの、一枚目に、入ってた。」
そうだった。
彼は旅立つ前に、私をそのゴツいアナログカメラに、収めていた。
いつものようにして。
「・・・あいつに、君みたいなヒトが、いたなんて。」
友人は私から視線を逸らしたまま、力無く笑った。
その瞳に光るものを、私は見逃さなかった。
その一言で、私は全てを、理解した。
お互いに、自分のカメラへ、お互いを、閉じ込めて。
今更になって、涙が頬を伝った。
私は、彼を、好きだった。
そして彼も、私を、好きだったのだとわかった。
お互い、口にはしなかったけれど。
無意識に、独占欲が、生まれていた。
それなのに。彼はもういない。いないのだ。
出来上がるのが楽しみだと言っていた、写真を見る事なく。
素直に「行かないで」と言えばよかった。
死の旅行になんて、行かせるんじゃなかった。
涙は枯れる事無く溢れ続けた。
私の小さな電子カメラの中には今日も、笑顔の彼が、いる。
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椿(赤)花言葉:気取らない優美・気取らぬ魅力・つつしみ深い

※この物語はフィクションです。花言葉は後から偶然知りました!驚き。