柔らかな木漏れ日の差す午後。
たまたま立ち寄った薄暗い古本屋で見つけた、古い辞書。
歴史を感じるその擦り切れた背表紙へ、自然と手が伸びていた。
棚から取り出すと、そのずっしりと重みのある辞書の淵は、黄色く色褪せていた。
パラパラと捲ると、あるページで止まる。
そこには、丁寧に折り畳まれた便箋がはさまれていた。
それを静かにそっと、開いてみる。
『拝啓、君へ。
元気ですか。
あれからもう何度か、君と過ごした短い季節が訪れますね。
あの頃の僕はまだ子供で、君の笑顔を守ることさえ出来ずに、
君を傷付けたまま、この手から、離してしまった。
君の愛に気付けずに。
本当に、どうしようもないぐらいに愚かで、子供でした。
季節が巡り、僕は幾分かは成長出来たように思います。
今なら、君を手放したりなんてしないのに。
君はまだ、僕を許せないでいますか。
出来ることならもう一度君に、おかえりなさいと、言ってもらえたなら。
僕は今度こそ君に、真実の幸せを贈りたい。
そうしたらやっと、君の本当の笑顔が見られることでしょう…。
君と出逢えたことは良かったと、あの日と変わらず今でもそう思っています。
ただ、隣にその君がいないことが、僕の一生の後悔でなりません。
さようなら、ありがとう。
僕はこうして今日も君へ、届くはずのない手紙を書いています。
それでは、また。
君の毎日が、幸せでありますように。』
それはもう何十年も昔に書かれた、ラブレターだった。
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