前回大統領選の結果(2020年11月8日時点のGoogle検索)
アメリカ大統領選が近づいてきました。
今回の選挙で注目されているのが、激戦7州と呼ばれる7州(ノースカロライナ(NC)、ジョージア(GA)、ミシガン(MI)、ウィスコンシン(WI)、アリゾナ(AL)、ネバダ(NV))です。
昔は激戦州と言えばオハイオ(OH)とかフロリダ(FL)だったと思うんですが、随分と変わったものです。
そこで今回は、大統領選を前にこれらの州について短く書いておこうと思います。
「豊かな南部」の帰趨
「激戦7州」のうち、ノースカロライナ、ジョージアの2州はアメリカの南部に位置しています。前回の大統領選でもいずれの州も大接戦となりました。
これらの州は実は産業面でもかなり強い州で、大企業の本社も多く立地しています。経済は伸びており、それに従ってエンジニアやビジネスプロフェッショナル層も増えています。そうした人たちが民主党を支持しているかどうかは別の話ですが、少なくともトランプには投票したくない、と言う人がいても不思議ではないでしょう。
Visualize the Fortune 500 | Fortune
アメリカの大企業「Fortune500」の本社の立地をまとめた地図から南部諸州を切り抜いてみました。円の大きさは各企業の収益の大小を示します。「North Calorina」と「Georgia」には、他州に比べて比較的多くの企業立地があることが分かります。ノースカロライナの代表的な企業と言えば米国4大商業銀行の一角「Bank of America」ですが、他にも金融機関やメディカル企業(「IQVIA」等も含む)が本社を構えています。ジョージアの大企業と言えば「Coca Cola」ですが、他にも「Delta Airlines」や「Aflac」等、日本で知られているような企業も同州に本社を構えています。
そうしたところで働いている人たちを始めとして、これらの州の経済発展をリードしている人たちの投票動向が選挙結果の帰趨を決めます。なお私自身は、アリゾナ州やネバダ州はこれらの州に比べると肌感覚に乏しいところがありますが、アリゾナも経済発展は著しく、ネバダは(民主党の牙城である)カリフォルニアからの移住者も多いとされています。
「ネイション」が交差する東部~中西部の攻防
前回の大統領選の記事で、個人的に実感が持てる話として、以下の本による「アメリカは11のネイションに分断している」という説を紹介しました。
ここで言う「ネイション」とは、「特有の歴史・民族・文化を共有する地域的な文化圏」を指しています。この本は「11のネイション」を識別していますが、今回の激戦州、特に東部から中西部に位置する「ペンシルバニア」「ミシガン」「ウィスコンシン」の帰趨を占うにあたり、重要になるのは以下の3つです。
- ヤンキーダム:アメリカ東北部~5大湖周辺を中心とした地域。清教徒の末裔であり、宗教的情熱を帯びた理想主義的・集団的特性を強く持ったネイション。
- ミッドランド:ニューヨークの南側に位置するペンシルバニア州から、内陸部に至る地域を中心とする。クェーカー教徒を始祖とし、ドイツ系移民が多く、職人的倫理を尊ぶ。
- グレーター・アパラチア:アパラチア山脈周辺から内陸部に広がる地域を中心とし、スコットランド系・アイルランド系が多い。総じて気性が荒く戦闘的。
コリン・ウッダード「11の国のアメリカ史――分断と相克の400年」より(https://atlanticsentinel.com/2014/04/cultural-heritage-geography-shaped-americas-political-divides/から引用)
「11のネイション」を描いた地図から、アメリカの東海岸~中西部を切り抜いてみました。「Yankeedom」「The Midlands」「Greater Appalachia」が複雑に絡み合っていることが分かります。地図全体は前の記事をどうぞ。
我々が「アメリカの白人」とひとくくりにしてしまいがちな人たちの中にも、実はいろいろな人がいます。例えばバイデン氏は、バックグラウンドとしては「人種的にはアイルランド系(他に英・仏の血も)、ペンシルバニア州出身、デラウェア大学⇒シラキューズ大学(ニューヨーク州の五大湖方面の地域にある私立大学)ロースクール卒業」であり、例えば「人種的にはアングロサクソン、ニューイングランド(ボストン等)で育ち、Ivyの大学を卒業」といった人物とは背景・アイデンティティ・文化も大きく異なります。上記の用語で言えばバイデン氏は、やや理想主義的な傾向のある「ヤンキーダム」というよりはより穏健な「ミッドランド」の人物であり、同氏が最近の民主党としてはあまり先鋭的にならずに中庸なイメージを堅持できたことが、前回の勝利、特に「ペンシルバニア」「ミシガン」「ウィスコンシン」での勝利に寄与した側面は大きかったものと思います。
今回、バイデン氏が選挙戦から退く一方、新たに登場したのが共和党の副代表候補、前回の記事でも取り上げたJDヴァンス氏です。同氏は人種的には同じくスコティッシュ・アイリッシュですが、アパラチア山脈周辺の地域をルーツとし、祖父母の代に中西部オハイオに移住してきた、上記の用語で言えば「グレーター・アパラチア」の人物です。氏は貧しい崩壊家庭の育ちながらイェール大学ロースクールに進学、卒業後はカリフォルニアのベンチャー・キャピタルに進み、アメリカン・ドリームを達成しました。一方、その後はオハイオに帰郷し、そこで地元の開発のためのファンドを立ち上げる等の活動に従事した後に上院議員に当選、という中西部の発展にコミットした人物でもあります。
ヴァンス氏のメモワール。壮絶な人生が語られています。出版当時はトランプ現象を説明する一冊としてベストセラーになりました。
こうした登場人物の交代にこの地域の人たちがどう反応するか?そこでキーポイントになるのは、この地域の多様なアメリカ人達のアイデンティティ・思想・文化だと思います。実際には副大統領はさほど選挙結果には影響を及ぼさないという経験則もあり、またハリス氏もあまり先鋭的にならないように留意しながら選挙活動を展開しているようではありますが、ヴァンス氏は立志伝中の人物でもあり、今回の登場人物をこの地域の人達がそのアイデンティティ・思想・文化に照らしてどのように評価するかが、選挙戦の運命を分けることになるでしょう。
今回はこれだけです。他所の国の人たちの指導者の話ではありますが、日本や世界に与える影響は甚大ですので、なんとか収まるところに収まってほしいものです。
(11/8追記)
選挙結果はトランプの勝利。「激戦7州」も5州でトランプの勝利となりました(2州は勝者が決まった時点で決着つかず)。
トランプの勝因・ハリスの敗因についてはいろいろな論評が飛び交っています。筆者には正直のところ本当のところは分かりませんが、やはりハリス氏が急進的なイメージを持たれ、必ずしもハードコアなトランプ支持者でもない「普通の」アメリカ人達の票が十分に集められなかった、といった側面は否めなかったものと思います。上の整理で言えば、南部のエンジニア・ビジネスプロフェッショナル層…こそ比較的ハリスに入れていたようではありますが、「ミッドランド」や「グレーター・アパラチア」ネイションの住人達はトランプに入れた人が多かったようです。
個人的には、トランプだとどうしても反移民的な政策になってくると思いますので、アメリカに留学して、そこから現地で就職して活躍しようとしている人たちの夢を潰す結果にはならないといいなあ、とは願うばかりです。








