カラヤンがドイツ・グラモフォン(DG)と契約して最初に録音したのが、R.シュトラウス作曲の交響詩『英雄の生涯』作品40でした。そのため、Karajan 1960sの1枚目は、当然この曲のディスクです。

英雄の生涯
カラヤンにとって『英雄の生涯』は特別に愛着がある曲なのか、ベルリン・フィルと3回セッション録音で残しています。

1回目:1959年3月2~4日(DG)
2回目:1974年5月23~28日(EMI)
3回目:1985年2月(DG)
更に演奏回数も多く、ライヴ録音でも主なものだけで3種類出ています。
1969年:モスクワ公演(メロディア)
1972年:ロンドン公演(テスタメント)
1985年:ロンドン公演(テスタメント)

カラヤンがDGへのデビュー録音に『英雄の生涯』を選んだのは、カラヤンがR.シュトラウスの作品に対する強い愛着と自信からでしょう。同じ1959年3月に、英DECCAへの初録音としてウィーン・フィルハーモニーを指揮してLP4枚分の収録を行いましたが、その中にもR.シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』が含まれています。


さて、「英雄の生涯」の演奏ですが、冒頭の低弦によるテーマから、力強く聴きてをグッと引き込んできます。カラヤンの自信あふれるタクトさばきが見えるようです。
第2曲「英雄の敵」ではベルリン・フィルの木管奏者達の妙技+弦の厚みがすばらしく、第3曲「英雄の仲間」にはミシェル・シュヴァルベの艶っぽいソロが後年のカラヤン・サウンドの萌芽を思わせます。
第4曲以降も、力強さと見事に構築された音響空間で一気に第6曲「英雄の引退」まで聞かせます。

ドイツ最高のオーケストラを手に入れたカラヤンが自信をもって臨んだ第一作は、その後の輝かしい録音歴の冒頭を飾る名演として永く残るでしょう。
勿論、ベルリン・フィルがスーパー・オーケストラとしての名人芸満載の1975年盤もこの曲を代表する素晴らしい演奏ですし、オーケストラとの軋轢が深まってきた1985年盤は、カラヤンの統率が緩んだ半面、曲自体が全面に出たカラヤン晩年の特色ある演奏でもあります。
『英雄の生涯』が好きな方なら、3種類とも持ちたくなる録音なので好みで選んで良いでしょう。

また、この盤は、カラヤンが招いたコンサートマスター、ミシェル・シュヴァルベの名人芸を堪能できる最初のディスクでもあります。(その後、R=コルサコフの「シェエラザード」やヴィヴァルディの「四季」等でも彼のソロを聴く事が出来ます)

注文しておいた、「Herbert von Karajan 1960s」が届きました。
カラヤンがドイツ・グラモフォンで1960年代に制作したアルバムをまとめた82枚組ボックスセットで、歌劇を除く1960年代にDGに録音した全ての作品を82枚に収めています。
元々、韓国ユニヴァーサルが企画・制作したCD BOXセットが販売されていましたが、その後ドイツ・グラモフォンが国際版として再リリースしたもので、価格も安くなりました。
82枚のCDは、カラヤンがベルリン・フィル芸術監督就任後にDGと契約した初録音の『英雄の生涯』(1959年)に始まり、原則としてオリジナルLPのカップリングを踏襲しオリジナル・ジャケットも極力再現しています。

そのため、CDとしては短時間収録のディスクもあり、ベートーヴェンの交響曲第4番や第5番がそれぞれ1枚に独立して収録されています。また、カップリングの関係で、一部1970年代の録音も収録されています。(1971年の『ミューズを司るアポロ』、1973年のR.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番)

DGへの録音第一弾が、得意としていたR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」で、ベルリン・フィルとは70年代(EMI)、80年代(DG)に再録音しています。
また、後年に再録音のない作品も数多くあり、60年代のカラヤンとドイツ・グラモフォンがどんな作品を録音してきたかの歴史を見るだけでも楽しくなります。

全82枚中、リヒテルと共演したチャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番だけが、ウィーン交響楽団、他は全てベルリン・フィルハーモニーです。
この中には、私が初めて父親に買ってもらったLPもあります。
CD38、ムソルグスキー/ラヴェル編/「展覧会の絵」とラヴェル/「ボレロ」のカップリングです。
その後に購入したLPや後に購入したCDもありますが、このようにまとまった事で初めて聴く機会ができたCDもあります。
CD50のバッハの協奏曲集は、なぜかLPが未発売のままでした。そのため、元のジャケットイメージがありません。
これから、ランダムに60年代の名演を聴いてみたいと思います。



TAHRAからフルトヴェングラー指揮のライヴ録音が数多くCD化されています。
最近は、その一部がSACD化されたので聴いてみました。


いわゆる「ウラニアのエロイカとして有名な録音で、オリジナルのLPは生前のフルトヴェングラーの抗議ですぐ発売停止になりましたが、死後にはLPやCDが多くの会社からリリースされました。

その多くは発売が打ち切られたウラニアのLPからの板起こしでしたが、その後放送局に残ったアーカイヴから新たにマスタリングしたものも出てきました。

このSACDは、ドイツ放送アーカイヴのオリジナルアナログマスターテープコピーからピッチを修正し、24bit / 192kh(PCM) で新たにマスタリングし直され、DSD変換してSACD化されたものだそうです。


ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 Op.55『英雄』

管弦楽: ウィーン・フィルハーモニー
指揮 : ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

録音時期:1944年12月19/20日
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(放送用セッション)

演奏自体は、フルトヴェングラー全盛期の1940年代、後年のEMIに録音した落ち着いた演奏と比べて、演奏表現のダイナミックでは勝るとも感じます。但し、大戦中の古い録音のために過去のCDは劣悪な音質の中で、彼の演奏を想像しながら聴くしかありませんでした。
今回のSACD、テープヒスなどのノイズはかなり除去されて逆に気味が悪いほどです。ただし、ピッチのムラは巧みに修正されて、はるかに聴きやすくなっています。

1944年のエロイカの良質な再マスタリング盤としてはお勧めですが、SACD化のメリットは正直「?」です。確かに、過去の「ウラニアのエロイカ」の中では良好な音質に仕上がってますが、あくまで「1944年の放送録音」としてであり、1952年のEMIのスタジオ録音よりはかなり落ちます。また、1952年のベルリン・フィルとのライヴが良質なマスタリングでCD化され、音質面ではSACD化によるメリットはさほどないと感じされます。

EMIミュージック・ジャパンがフルトヴェングラーの録音を大量にSACD化して、クラシックのCDとしては異例のヒットになったため、後を追いかけた感がしないでもありません。

今は価格が安いので、「ウラニアのエロイカ」のCDとしては、お勧めしたいと思います。


3年ほど前にリリースされた、バッハのモテット全曲。なかなか聴く機会がなかったのですが、今回聴いてみました。
意外にも、鈴木雅明さんが指揮するバッハ・コレギウム・ジャパン、これが初めてのモテット全曲録音だそうです。


J.S.バッハ:モテット全集
・御霊は我らの弱さを支え助け給う BWV 226
・おおイエス・キリスト、わが命の光よ BWV 118
・恐れるな、私はあなたと共にいる BWV 228
・イエス、わが喜びよ BWV 227
・私はあなたを離しません、私を祝福してくださらなければ BWV Anh.159
・主を讃えよ、すべての異邦人よ BWV 230
・来たれ、イエスよ、来たれ BWV 229
・歌え、主に向かい新しい歌を BWV 225


ソプラノ: 野々下由香里、松井亜希
カウンターテノール:ダミアン・ギヨン
テノール: 水越啓
バス  : ドミニク・ヴェルナー
合唱  : バッハ・コレギウム・ジャパン
指揮  : 鈴木雅明

録音時期:2009年6月
録音場所:神戸松蔭チャペル

合唱は、唖然とするほどの技術で軽々と歌い上げます。リズムも軽く、発音・ブレス・アインザッツ・ハーモニー、ほぼ完ぺきでしょう。元々は大半が葬儀で歌われるよう作曲された作品群ですが、いわゆる「葬礼」用音楽だけでなく、演奏会作品としても大変魅力的なものです。
私は、この中で一曲しか演奏した事はありませんが、きちんと活き活きと演奏するのはなかなか大変です。

録音も、透明感あふれるサウンドをバランスよく収録しています。
SACDの威力を発揮できる名録音といえましょう。

クラウディオ・アバド・シンフォニー・エディションの中に、ブルックナーの交響曲第1番ハ短調をルツェルンで収録した最新録音が含まれていました。


クラウディオ・アバドは、長年レパートリに独自のこだわりを見せてきました。

ブルックナーの交響曲では、録音したのが第1番・第4番・第5番・第7番・第9番です。
有名な第8番は全く録音がありませんが、初期の第1番はなんと3回も録音しています。
1969年11月、12月 ウィーン(リンツ稿)
1996年1月  ウィーン(1866年リンツ稿ノーヴァク版)
2012年8月  ルツェルン(1890/91稿,ウィーン稿/ブロシェ校訂版)


シンフォニー・エディションには、主に1996年頃の4,5,7,9番が収録されていますが、第1番だけ2012年のルツェルン音楽祭の最新ライヴ録音が収録されました。
なお、ルツェルン音楽祭ライヴでは、今までに第5番と第7番が映像ソフトでリリースされています。
さて、この第1番のスコアは大きく分けてリンツ稿とウィーン稿があります。
これまでの2回の録音ではリンツ稿を主に使用していましたが、今回はウィーン稿/ブロシェ校訂版による演奏です。アバドは他の交響曲では主にノヴァーク版を採用していましたので、第1番でもやっと合わせたのでしょうか。第1番は校訂をノヴァークではなくブロシェが担当したので、正確には「ウィーン稿/ブロシェ校訂版」と呼ぶべきでしょうが、一般には「ウィーン稿」と呼ばれています。

演奏も、スーパーオーケストラを存分に生かし切って、活き活きとした息吹あふれる演奏を繰り広げています。過去のリンツ稿の演奏では、時には「初期の作品」という意識過剰とも思えるストイックな表現も垣間見られましたが、今回はよりスケールの大きい表現を実現しています。
ルツェルンでも、取り上げるブルックナーは1, 4, 5, 7, 9番と変わりませんが、最新のアバドが円熟においてなお前進し続ける素晴らしさを感じることができます。
個人的には、ぜひ第8番を(マーラーも残った8番を)演奏してほしいと思います。