ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
フランツ・ヨーゼフ逝く⑦
前線にいたカールはすぐさまウィーンに戻る様、帝都から連絡を受け取る。
それは宮内大臣モンテヌーヴォ侯からの電報で、皇帝の病が重篤な為、帝位継承者の臨席を薦めるとの内容だった。
1916年11月12日、カールを載せた皇室列車はウィーンのシュタットラウ駅に到着した。
ホームにはチタが待っていた。
カールとチタは待たせてあった車に乗り込むと、車はシェーンブルン宮殿に向けて走り出した。
車内には重たい空気が漂っていた。
きっと大叔父は息も絶え絶えにベッドに横たわっているのだろう。
想像したくない場面が何度も脳裏をかすめ、その度に予測を否定する様にカールは頭を振る。
「叔父さん・・・・」 カールとチタは握りあった手に力を込める。
コン、コン
「叔父さん、入りますよ…」ドアを開ける。
「へっ?」
「・・・・・」 絶句。
「おお、カール。チタ。どうした・・・」
「どうしたって…叔父さん大丈夫なの?」
「そうですよ、無理をなさってはいけません」
フランツ・ヨーゼフは苦しそうな息遣いで、時折咳をしながらも軍服姿で執務室の机に向かって、いつもの様に仕事をしていたのだった。
病状は良くなったのだろうか?
それともモンテヌーヴォが心配し過ぎたのだろうか?
「あっ、い、いえ・・・。この度は昇格させて頂き有難うございました。昇格のお礼と胃腸炎の治療で参りました…」
まさか、アナタが危篤と言う電報を貰ったので・・・・とは言えず、カールはそつのない返答をする。
「そうか。まぁ、無理せんように。おぉ、チタ…何て顔してる? どうせモンテヌーヴォ辺りが私の具合が悪いとでも伝えたか? 心配はいらん」
「はい、陛下のお顔を見て安心しましたわ・・・・」
チタはフランツ・ヨーゼフの事を本当の祖父の様な思いを込めて接してきた。そしてフランツ・ヨーゼフもまた、チタの事をことのほか可愛がっていた。
皇帝が病を押して執務を続けるのは今始まった事ではなかったし、短いやり取りとは言え、一刻を争う程の状態でもなさそうなので、この日2人は病室を出た。
翌日、再び皇帝と面会をした。
この時も、カールには病状は段々快方に向かっている様に見えた。
依然として皇帝の熱は下がらなかったが、バイエルン王ルードヴィヒとの会談も予定通り皇帝は行ったので、カールは、この様子ならチタと共に一旦ライフェナウに戻れると思い、戦場にいる部下には4,5日もすれば前線に戻れると電報を打った。
しかし、2人の予想とは裏腹に、皇帝の病は実はかなり重篤であると知らされる。
つづく