フランツ・ヨーゼフ逝く⑦ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

フランツ・ヨーゼフ逝く⑦

 

 

前線にいたカールはすぐさまウィーンに戻る様、帝都から連絡を受け取る。

 

それは宮内大臣モンテヌーヴォ侯からの電報で、皇帝の病が重篤な為、帝位継承者の臨席を薦めるとの内容だった。

 

19161112日、カールを載せた皇室列車はウィーンのシュタットラウ駅に到着した。

ホームにはチタが待っていた。

 

カールとチタは待たせてあった車に乗り込むと、車はシェーンブルン宮殿に向けて走り出した。

 

車内には重たい空気が漂っていた。

きっと大叔父は息も絶え絶えにベッドに横たわっているのだろう。

想像したくない場面が何度も脳裏をかすめ、その度に予測を否定する様にカールは頭を振る。

 

「叔父さん・・・・」 カールとチタは握りあった手に力を込める。

 

コン、コン

「叔父さん、入りますよ…」ドアを開ける。

 

「へっ?」

「・・・・・」 絶句。

 

「おお、カール。チタ。どうした・・・」

 

「どうしたって…叔父さん大丈夫なの?」

「そうですよ、無理をなさってはいけません」

 

フランツ・ヨーゼフは苦しそうな息遣いで、時折咳をしながらも軍服姿で執務室の机に向かって、いつもの様に仕事をしていたのだった。

 

病状は良くなったのだろうか?

それともモンテヌーヴォが心配し過ぎたのだろうか?

 

「あっ、い、いえ・・・。この度は昇格させて頂き有難うございました。昇格のお礼と胃腸炎の治療で参りました…」

まさか、アナタが危篤と言う電報を貰ったので・・・・とは言えず、カールはそつのない返答をする。

 

「そうか。まぁ、無理せんように。おぉ、チタ…何て顔してる? どうせモンテヌーヴォ辺りが私の具合が悪いとでも伝えたか? 心配はいらん」

 

「はい、陛下のお顔を見て安心しましたわ・・・・」

 

チタはフランツ・ヨーゼフの事を本当の祖父の様な思いを込めて接してきた。そしてフランツ・ヨーゼフもまた、チタの事をことのほか可愛がっていた。

 

皇帝が病を押して執務を続けるのは今始まった事ではなかったし、短いやり取りとは言え、一刻を争う程の状態でもなさそうなので、この日2人は病室を出た。

 

翌日、再び皇帝と面会をした。

この時も、カールには病状は段々快方に向かっている様に見えた。

 

依然として皇帝の熱は下がらなかったが、バイエルン王ルードヴィヒとの会談も予定通り皇帝は行ったので、カールは、この様子ならチタと共に一旦ライフェナウに戻れると思い、戦場にいる部下には4,5日もすれば前線に戻れると電報を打った。

 

しかし、2人の予想とは裏腹に、皇帝の病は実はかなり重篤であると知らされる。

 

つづく