ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
皇妃エリザベート⑪~シシィの孤独~
宮廷の感覚とシシィの価値観とは大きくかけ離れいた。
ポシーの館にいた時は自分の事は自分でするのが当たり前だったが、ここでは着替え1つ自分でする事は許されなかった。
他にもシシィが理解出来なかったのは、靴は一度履いたら処分される事だった。
モノを大切に、丁寧に扱う様に育ったシシィには、ほんの数時間しか使っていない新品同様の靴をもう一度履こうとするだけで厳しく叱られる事に訳が分からなかった。
まだ十分履けるのに…私の常識は間違っているの?
シシィは叱られる度に思う。
ここの人達と私では考え方が大分違うんだわ。
こんなに沢山人がいるのに私はひとりぼっち。
窮屈な宮廷生活に感覚のズレを感じたシシィは、部屋に閉じこもり、故郷に手紙を書いたり、作詩をする事で気分を紛らす様になる。
本当は大海原を自由に飛んでいる筈のカモメが、狭い籠の中に閉じ込められている様なものだ。
1人で自分の世界に引き籠る事が、唯一、気持ちが休まる時間だった。
それでも、程なくしてシシィは女の子を出産した。
女の子は大公妃の名前をとってゾフィーと名付けられた。
しかし・・・・。
シシィには育児は無理!と言われ、その子はゾフィーに取り上げられてしまう。
「シシィさん! ゾフィーに会う時は私の許可を取ってからにして頂戴、いいですね」
「…はい、お義母さま」
ここで反論しても、突っぱねられるだけだ。
シシィはやるせ無い気持ちを抑えて、ただ言われるままに返事をするしか出来なかった。
「お義母様じゃないでしょ、大公妃殿下とお呼びなさい、って何度言えばわかるの⁈」
「はい、大公妃殿下…」
初めての出産で気持ちが不安定なところに来て、更に自分は何のためにこの宮廷に居るのか、シシィは自分の存在意義が見つからない。
すると…
別の部屋から大公妃や取り巻きの女官達が娘ゾフィーをあやしている楽しそうな声が聞こえる。
…楽しそう。
私だってあの子の側にいて、あやしてあげたいのに…。
ぐすん、うっ、うっ…
「どうして、私は自分の娘に会ってはいけないの?」
シシィが娘と会う時は、女官やゾフィー立ち合いの元でしか会う事が出来ず、決して2人きりで会う事は許されなかった。
「私は籠の鳥だ。私の人生は終わってしまったわ…。あの人のプロポーズを受入れてさえいなければ。あの時、虚栄心に負けなければ、こんな事にはならなかったのに…」
シシィはイシュルでのお見合いで、皇帝のプロポーズにYesと言ってしまった事を後悔する。
程なくして、シシィは再び懐妊する。
またもや女の子だった。
ギーゼラと名付けられた女の子。
この子も大公妃ゾフィーに取り上げられてしまう。
つづく