神聖ローマ帝国消滅、ナポレオンvsハプスブルク⑦ | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」

神聖ローマ帝国消滅、ナポレオンvsハプスブルク⑦

 

 

一方、マリー・ルイーゼは疎開先でピアノの教師から「ナポレオンが新しい皇妃を探している。

ロシア宮廷とオーストリア宮廷が濃厚」と書かれた新聞を手渡される。

 

「嫌よ!あんな殺人鬼と結婚するなんて」

 

「マリー・ルイーゼ、今すぐお父様のところへ行きましょう!貴女をあんな殺人鬼と結婚させる訳にはいかないわ」


マリー・ルイーゼと継母のマリー・ルドヴィッカは急いで帝都ウィーンに向かう。

 

マリー・ルイーゼは疎開先でモデナの皇太子と恋仲になっており、父フランツに宛てて結婚を許してくれるよう手紙を出していたのだった。

 

「お父様…」

 

「マリー・ルイーゼ…」フランツはその先の言葉を続けられない。

 

「お父様、あの新聞に出ている事は本当なの? 嘘よね?」とマリー・ルイーゼ。

 

父と娘は2人だけで部屋に籠り話し合う。

 

「何とか、お前をあんな男の嫁にしない様考えたが、手が無かった…」フランツは怒りと悲しみで涙が止まらない。

 

Mだ…。Mが私の事を売りつけたんだ)


悲しそうな父の様子を見てマリー・ルイーゼはメッテルニヒが仕組んだ事を悟る。

 

M」 メッテルニヒはハプスブルクの子供達からMと呼ばれ恐れられていた。

 

この外相はスマートで遣り手だが、冷徹な面を持っている。

王家の人間の心情などお構いなしに、少しでも政策に利があれば何でも自分の意のままに決定してしまう。

 

メッテルニヒの機嫌が損ねたら何をされるか…ハプスブルクの子供達はいつも超ビビりまくっていたのだった。


メッテルニヒの名を口にするだけでも何か災いが起こる様な気がして、子供達は彼の事をMとよんでいた。

 

ずーっと後の話だが、マリー・ルイーゼの妹レオポルディーネはメッテルニヒの策略によって、ブラジルにいるポルトガル王家の世継ぎであるドン・ペドロと結婚させられてしまう。

ブラジルの資源を目的に、メッテルニヒがブラジルを植民地としてたポルトガルのブラガンサ王家と縁組を結んだのだった。

 

レオポルディーネは二度と生きて祖国の地を踏む事なく、ブラジルで悲惨な生活の中、病にかかり死を遂げた。

もっとも、心優しいレオポルディーネはポルトガル市民からとても愛されたのだったが…。

 

マリー・ルイーゼは長い沈黙の後、遂にモデナ王子との結婚を諦めざるを得ないと悟る。

そして、マリー・ルイーゼは嫌々ながらナポレオンと結婚する事を受け入れる。

大好きな父の為に…。

 

これに怒り狂ったのが継母のマリー・ルドヴィッカだった。

 

「アナタ!マリー・ルイーゼが余りにも可哀想です。あの男は成り上がり者ですし、戦争ばかりしている人殺しですよ! モデナのフランツ殿下の方があの子にはお似合いです! アナタ、黙っていないで何とか言ってくださいまし!」と帝妃マリー・ルドヴィッカも泣きながら猛反対する。

 

「…ナポレオンと戦って勝てると思うかい?」 フランツはそれ以上言葉を続けなかった。

 

「さすがメッテルニヒは遣り手だな。マリー・ルイーゼを高値で売付けたんだから」


「あぁ、彼の手にかかったら、大公女も大公も手も足も出せまい…いや、皇帝だって言いなりだろう。この分じゃ宰相の椅子ももう直ぐだな」


ハプスブルクの人々ばかりかヨーロッパ中の宮廷でマリー・ルイーゼが人身御供となったとの噂さで持ちきりだ。

 

だた…日が経つにつれ、当の本人、マリー・ルイーゼは少々事情が変わってきたようだ。

 

彼女は、フランスから届いたペンダントを恐る恐る開け、未来の夫となる男の顔を確認する。


そこに描かれていた肖像画は、ウィーンの街に貼り付けられていた毛むくじゃらで牙を剥く恐ろしい殺人鬼の顔でさなく、少しばかり翳りのある優しい顔をした男の顔だった。


マリー・ルイーゼはナポレオンの肖像画を見るなりドキッとして、慌ててロケットの蓋を閉じる。


何か自分が見てはならないモノに見てしまった様な気がする。


そして、再びそーっと…何か大切なモノを見る様にロケットの蓋を開け肖像画を眺めるうちに、少しずつナポレオンの事が気になってしまった。

 

「もっと怖い顔をした人かと思っていたけど、意外と素敵かも…」


ひえぇぇぇ…お父さんが聞いたら腰を抜かしまっせ!

 

それぞれの胸中を余所にマリー・ルイーゼはウィーンを旅だって行った。

 

つづく