ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
王位継承戦争⑨
テレーゼがハンガリーから救援を得た事は、直ちにプロイセン王フリードリヒの知る事となる。
戦略に長けたフリードリヒなら当然の事だ。
フリードリヒはハンガリーがハプスブルクに付いた事を知って、得体の知れない不安に襲われる。
「あの女…まかさと思う事をやってのけやがる!ハプスブルクとハンガリーが和平を組むだって⁈あるはずがない!いや、あってはならない事だ。あの間抜けな大臣達には到底考えつかなかっただろう。それをあの女は揚々とやってのけたのだ。マリア・テレジア…あいつは只者ではない!私とした事が大分あの女を見くびっていた様だ。
私とした事が、震えているのか?油断ならない。そう遠くない将来、あいつは何かとてつも無い事をするかも知れない、私の足元を揺るがす程の何かを…」
フリードリヒは不安に怯えながら、地団駄を踏んで悔しがる。
マリア・テレジア…オツムの軽い尻軽女だと思っていたが、とんだ見込み違いだった。
この時を境にテレーゼとフリードリヒは宿命のライバルとなる。
さて…
ハンガリーの軍隊と資金を得て、マリアテレジアの軍隊はプロイセンの攻撃から果敢にシュレージエンを奪い返そうとした。
来る日も来る日も熾烈な戦いが続いたが、開戦から8年後、残念ながらシュレージエンを奪い返す事は出来なかった。
この屈辱は、その後、7年戦争まで持ち越される事となる。
しかし、テレーゼにとって・・・いや、ハプスブルク家にとって唯一幸いだったのは、神聖ローマ帝国皇帝の冠が再びハプスブルク家に戻って来た事だった。
カール6世の逝去と言うどさくさに紛れて、王冠はバイエルンに渡ってしまった。
しかし、どうやら王冠はハプスブルクが好きらしい。
神聖ローマ帝国皇帝カール7世となったヴィッテルスバハ家のカールは、在位わずか3年で逝去してしまった。
「きゃーっ、王冠が戻ってきたわ!!フランツル、フランツル、見て、見て!貴方の王冠よ」
テレーゼは飛び上がって喜ぶ。
「わぁー、凄い!凄いや~!! 綺麗だなぁ。有難うレースル。皇帝に恥じない様に頑張らなきゃね」とフランツ。
「やはり、我がハプスブルクは神に選ばれた一族ですな」と御用学者達は雁首そろえて言い放つ。
(ふん、大変な時に何もしなかった癖に。アホか!!)
と、まぁ、それぞれの思いは置いておいて・・・・
フランツは古式厳めしい衣装を身に着け、戴冠式に向かうことになる。
つづく