ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
大公女テレーゼの結婚①
カール6世は頭が痛かった。
マリアテレジア15歳。結婚適齢期に差し掛かっていた。
市民の子女と違い、王室の子女となれば結婚は個人の問題では済まず国家政策だ。
由緒ある大国の美貌の大公女を是が非でも我が妻にと、テレーゼの元にはヨーロッパ中の王子達から結婚の申し込みが後を絶たなかった。
しかし!
テレーゼには幼い頃から心に決めた恋人がいる。
幼馴染のフランツ・シュテファンがその人だった。
2人は愛し合っていた。
思えば、フランツが15歳の時ハプスブルク家に遣わされたのは、父レーオポルト公とカール6世の間で交わされた、ある種のお見合いの様なものだった。
本来なら思惑通り、2人は愛し合っているのだから何の問題はないのだが、フランツが急逝した父の後を継いでロートリンゲンに帰郷している間にカールの心境は変化していた。
あれだけ目の中に入れても痛くない位フランツを可愛がっていた癖に、条件の良い求婚者が続々と現れた途端、カールは「何も花婿候補はロートリンゲンだけじゃなくても良いではないか」と思い始めたのだ。
だが、テレーゼはフランツ以外の男性には見向きもしない。
「うぉっほん。テレーゼ、結婚の話だが…」と切り出そうにも、娘はプイっと横を向くばかりで機嫌が悪い。
(よし、今日こそは、ガツンと言ってやろう)
「テレーゼ!ちょっと来なさい」
…ふん! 無視である。
(げっ、スル―かよ!)
「レースル、レースルちゃーん。ちょっとパパの話も聞いてくれるかなぁ」
「何よ、パパ!結婚の話なら聞かないわよ!そんなにしたければバイエルンとでもプロイセンとでもパパがすればいいじゃないっ!」と剣もホロロに突っぱねる。
(うーん、誰に似たのか頑固だ)とカールは頭を抱える。
そう、テレーゼは頑固なのだ。
そして、追い打ちをかけるように宮廷ではオイゲン公が「大公女様の結婚相手は、隣国バイエルンが良かろう」と助言したかと思えば、官房長のバルテンシュタインが「テレーゼ様のお相手はプロイセンのフリードリヒ王子がお似合いかと思います」と口を出してくる。
(あぁ、どいつもこいつも、うるせーなぁ!!)
唯でさえ最近ロクに口もきいてくれないのに「フリードリヒ」だの「バイエルン」だの等と言い出せる訳がない。
(あぁ、老公に会いたくねーな)と思ったところに、オイゲン公が謁見に現れる。
つづく