ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
カール6世の悩み④
さて、カール6世が最も頭を悩ませたのが跡継ぎの問題だった。
カールはドイツの北方のブラウンシュヴァイク・ヴォルヘンヴュッテル家より王女エリザベート・クリスティーネを妃に迎えた。
透けるような肌を持つ、美しいクリスティーネの事を「白い肌のリールス」と呼んで、心から妃を愛した。
因みにハプスブルク家の君主は、630年の長い歴史の中で、一部の君主を除いて外に愛妾を持つ君主はいなかった。
真面目と言うか…「汝は結婚せよ」と言う家訓通り、ハプスブルク家の君主は皆、妃だけを愛し、生涯仲睦まじく暮らした、ヨーロッパの王室の中でも稀有な王室だ。
勿論、カールも例外ではなかった。
が…残念ながら子宝に恵まれなかったのだ。
カールと妻クリスティーネは妊活に励んだ。
「あなた、来週はバーデンの温泉に行ってくるわ。なんでもここの温泉は10年も不妊に悩んでいた夫婦でも赤ちゃんが出来たそうよ」クリスティーネの手には「るるぶウィーン」が握られている。
「おお、そうか!期待大だな。そうだ、もし子供が出来たらマリアツェル教会に黄金で子供の像を作らせ奉納しよう」
「そうね。それにね、このページに出ているコケモモのチーズトルテ美味しいんですって。楽しみだわ~」
「おい、おい。なんだ目的はスイーツか」
「ふふふ…。あなたにも買ってきてあげるわよ」
こんな風に、皇帝夫妻は温泉療法が良いと聞けば温泉に向かい、祈祷師に祈祷をして貰ったり、ワイン療法が効くと聞けば、それまで余りワインを飲まなかったクリスティーネだったが過剰なまでにワインを摂取する等と涙ぐましい努力を重ねていた。
つづく