ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
プランツ・オイゲン③
オイゲン公と言えば、現代でもオーストリアの陶磁器メーカー「アウガルテン」の食器にも「プランツ・オイゲン」と言うパターンにその名を残しているオーストリアの英雄だ。
オイゲン公はフランスのサヴォイ公家の御曹司であり、太陽王ルイ14世の遠縁にあたるが、
実はルイ14世の庶子ではないかとの諸説もある由緒ある生まれの公子だった。
しかし、身体が小さく女性の様な外見であった為、ルイ14世はプランツ・オイゲンの事を「僧侶にでもしておけ」と言っていたのだった。
オイゲン公には武人として名を馳せたいと言う夢があった。
そこでルイ14世の御前で平身低頭で頼み込んだ。
「陛下。どうかこの私に陛下の軍隊を1つ任せては頂けませんか」
(ふん、こんな女みたいな男に務まる筈はなかろう)
派手好みなルイ14世は風采が上がらない見かけのオイゲン公を一瞥すると
「ふん、お前の様な男に軍などやる訳がないだろう。お前なんか僧侶にでもなるのがお似合いだ。とっとと失せろ!」と言い放った。
(何をっ!! よし、分かった。それならば・・・・)
フランスで身を立てる夢は失ったオイゲン公はフランスを去った。
(ルイ、見てろよ!私は軍人になり、いつかお前を見返してやるからな)
オイゲンが逃亡した事は直ぐにルイ14世の耳に入った。
何故なら、国王の息子もオイゲンと共に旅だったから。
直ちに軍隊が後を追う。
捕まったら処刑されるだろう。
旅費が尽きようとしたライン川手前で、背後に追っ手が迫ってきた。
「オイゲン、行け!! 私にかまうな。私は王族だ。連れ戻されても処罰は下らない。でも、お前は違う。捕まったら火あぶりにされるぞ。」
「…ああ分かっている。でも、親友のお前を置いて私1人が行く訳に行かない」
「追っ手の目的は私だ。私がいれば足手纏いになる。…そうだ!私の代わりにこの指輪を持って行け。これで少しは旅の足しになるだろう。行け、早く! ぐずぐずしていると捕まるぞ!行けーーーーっ」
……。
「分かった!恩に着るぞ」
逃亡は重罪だ。
広場では公開の下オイゲンを型どった藁人形が火あぶりに処せられた。
フランスを去ったオイゲン公はフランスの宿敵オーストリアに向かった。
そして、皇帝レーオポルトにルイ14世の前で言ったのと同じセリフを言った。
元帥カール・ロートリンゲンの指揮官ぶりを間近で見たオイゲンの決意は揺らがなかった。
当然、宮廷では猛反対だった。
「フランス人なぞ軍隊にいれたら命取りですぞ!こちらの作戦がフランスに漏れてしまいます」
「どうせフランスのスパイだろう」
ところが、いつも優柔不断なレーオポルトだがこの時ばかりは譲らなかった。
「いや、あの男こそ、ハプスブルクの為に役立つと思う」
「して、その根拠は?」
「んっ!? 勘・・・かな?」
「ちっ、ジョーダンは顔だけにしておいて下さいよ、陛下!勘って何んすかっ?馬鹿にしてるんすかっ?」
しかし、
何故か、今回だけはレーオポルトは引かなかった。
どちらも譲らない状況が続いたが、とうとう家臣も根負けした。
「陛下がそこまで言うなら・・・・」
かくしてオイゲン公はオーストリア軍の指揮官となる事が許され、メキメキと頭角を現していった。
やがて、オイゲン公率いるオーストリア軍人はトルコ軍を完全に駆逐し、イタリアでの対フランス戦では見事な攻撃でフランス軍を一網打尽に玉砕した。
ヴェルサイユにいる太陽王にフランス軍の大破を知らされると、ルイは「あの時の小男が・・・」と悔しがった。
オイゲン公は自分にチャンスをくれたばかりか、破格の給料で雇い、未来を拓いてくれたレーオポルト帝に恩義を感じていた。
「この身をハプスブルクの為に・・・」
こうして、軍神オイゲン公はレーオポルト、ヨーゼフ1世、カール6世と3代に亘ってハプスブルク家に仕えたのだった。
オイゲン公がハプスブルク家に貢献したのは軍事ばかりではない。
フランスで生まれ育ったオイゲン公は芸術センスに秀でていおり、「美」に拘った。
現代美術館として、また観光名所として残されているベルベデーレ宮殿はオイゲン公の所有だった。
オイゲン公の死後、ベルベデーレ宮ではマリーアントワネットの婚礼のパーティーが行われている。
プランツ・オイゲン・完