呆――――――然っ。
余りにも呆気ないマリアの死にマクシミリアンは涙すら出て来なかった。
ウィーンにいるマクシミリアンの幼友達からは、心からマックスを心配した。
何故なら、結婚後、程なくしてマクシミリアンからウィーンの友人達に届いた手紙には、幸せな様子に溢れていたから。
「世界中探しても僕程不幸な人間はいないと思うんだ。 毎日やらなくてはいけない事が山の様にあって、 息をつく暇も無い位なんだ。」と君主の仕事が如何に大変か記載されていた。
しかし、それも書き出しの僅か数行の事。
マクシミリアンの手紙は愛妻の自慢話しで埋め尽くされていた。
「マリアはとても頭が良くて優しいんだよ。そして彼女は小さくて可愛らしいんだ。手や顔も小っちゃくて、目は少し垂れていて眠たそうな感じなんだよ。でも、それは気になると言うのでは無くて、とっても可愛いんだ。 彼女に出会えて僕は幸せさ。うん、とっても幸せなんだ。」と綴られていた。
そして、最後は初恋の幼馴染ロジーナに、早く結婚相手を世話してやってくれと、マクシミリアンらしい呆気らかんとした手紙に、皆で笑ったものだった。
マックス、立ち直ってくれ…ウィーンにいる仲間達は祈った。
その頃、ブルゴーニュ公国では…
「パパ…ママは天国って言うところから僕たちを見ているんだって。お祖母様が言ってた」とフィリップが義母と妹のマルガレーテと一緒に背後からやって来くる。
「マックス、貴方の悲しみは良く分かるわ。でも、今は悲しみに沈んでいる場合ではありません。貴方の立場はとても危険なのよ」と義母マルガレーテがそっと声をかける。
※マクシミリアンの一人娘のマルガレーテは敬愛する義母から名前を貰ったので、ややこしいが同名である。
「ええ、分かっています。でも…でも、何故、天使の様な彼女を神は天に召されたのか…うっ、うっ…」
マクシミリアンだって理性ではこの公国の民が自分に刃を向ける危険がある事は解っている。
しかし…
ついこの間まで夫婦揃って3人目の子供が生まれる日を心待ちにしていたのに、マリアはもう永遠にいなくなってしまった。
目の前にいるフィリップを見ると、ついこの間まで子供たちが笑えば2人は共に笑い、どちらか一方でもなけば顔を見合わせてハラハラした事を思い出す。
そんな失意の底にいるマクシミリアンには立上る気力すら残されていなかった。
つづく