19世紀初頭に崩壊する迄の約630年に亘り、ヨーロッパに君臨したハプスブルグ家。
最盛期には世界地図の1/3にあたる領土を所有していました。
と聞くと、さぞかし裕福で豪奢な王朝を築いていたかとお思いでしょうけれど、実は全く逆。
ハプスブルグ家は13世紀にマクシミリアンがヨーロッパ一裕福なブルゴーニュ公国の跡取り娘と結婚した事を機に歴史の表舞台に登場したのですが、それまでは、僅かな家領しか持たず、時には国王自ら鋤を持って畑仕事をした事もあった程。
600有余年の長い歴史の中には、真正面から困難に立ち向かった事も多少あったけれど、大方は嵐が過ぎるのをじっと耐え抜いて国難を乗り越えてきたのがハプスブルグ家です。
・・・・って、なんで今そんな話をしたのかと言うと、今、飲食業界は本当に大変な局面を迎えていますが、私がお邪魔しているオーストリア料理のレストランも例外ではなく、オーストリアの食材に特化しているだけに、食材が入って来ません。
勿論、お店はハプスブルグ家と違い、嵐が過ぎるのをじっと待つのではなく、嵐の中を前進中です。
それでも…
常に前進する事を信条として、今年からアラカルトメニューも増え、更なる飛躍をと言う矢先のコロナ禍
やりたくてもやれない状況の中、今回は、メニューの構成はお客様に任せ、お料理はその日に入った食材から作り上げると言ったライブ感覚のお料理となりました。
作る方は大変かと思いますが、頂く方はライブ感たっぷりのお料理ってホント楽しみです
で、こう言う時に露わになるのが、実力なんでしょうね。
いかに芯を崩さないか・・・・。
こう言う非常事態にオーストリア料理を頂くと、オーストリア料理って安定感がある料理なんだなぁ、とつくづく感じてしまう。
繊細でどことなく懐かしくて・・・・かと言って、その懐かしさと言うのは古臭さとは全く違うもの。
言うなれば、イタリアンの様な素朴さでもなく、フレンチの様にエッヂの効いたチェフの世界観をこれでもかと見せつける様な料理でもない。
結婚政策によって国を大きくしたハプスブルグ家。
そして、様々な国家の寄せ集めだった神聖ローマ帝国の皇帝…つまり総本家。
この2つの局面から、様々な国の食文化の影響を受け、良い所だけを取り入れオーストリア流に作り変えて今に伝わっているのがオーストリア料理だと思う。
ヨーロッパ一長い歴史を生きたハプスブルグ家。
そのハプスブルグ魂を受け継ぎ、本国オーストリア以上に伝統を大切にしつつ、自分にしか作れない料理を作り続けて行こうとされるシェフの料理なだけに、改めてその良さを痛感してしまいました。
1つ、1つがどこか洒落ていたり、凝っているけど気をてらわず、大変な状況なんてことも微塵も感じられない、底力のあるお料理達でした。
アミューズは、高知産のトマトやセロリ等の香味野菜を使った冷たい小さなスープ。上に載っているのはライムでマリネした生の車エビで、酸っぱ過ぎないライムの酸味がイイ。香りも素敵なアクセントに。
しかも、今回は「食べたいなぁ」と思ったモノが2品も登場!
その1つがアミューズの北海道産帆立の貝柱のフライ。
「あぁ、あそこの帆立のフライが食べたいなぁ。中が限りなくレアで美味しいんだよなぁ」と、ふと味と食感まで思い出したのが数日前。これまたピンポイントな引き寄せでした。
前菜は、山形牛のサーロインを軽くソテーし、ゆで卵にピクルス、ケイパーと沢山のハーブと一緒に。
私は健康的な理由と霊性的な理由で、余りお肉は食べません。
が、シェフがライブなら食べ手もライブ・・・こう言う時は喜んで頂きます。
牛肉の脂肪が赤身肉に溶け込んで、あっさりながらもコクのあるお肉。
これにケイパーやピクルスの酸味が効いたゆで卵って・・・・不思議でしょう?
でも、これ本当に美味しいんです。
ディルを始めとする爽やかな青い香りのハーブ類とお肉と言う組み合わせも変化球。
このお料理、癖になりそうです。
最近、ワインを余り飲まない私ですが、こう言うお料理にはやはりワインが欲しくなる。
樽を利かせたしっかり目の白か、軽めの赤・・・赤ならピノノワールがいいなぁ(こちらはオーストリアワインしか置いていません)と思っていたところ、エスターハージ―のロゼ。
品種はピノノワールとツヴァイゲルトです。
※写真を撮らずスミマセン。
そうだ!オーストリアワインはロゼと言う手があったんですよ。
と言うのも白ワインが主体の国なので、意外とロゼもイケるんですよね。
ただ、エスターハージ―はツルっとしていると言うか、万人向きだけど面白くない。
私は余り好きじゃないんですが、このロゼは豊かなベリー香ときれいな酸の中にタンニンが溶け込んでいて美味しかったです。
ただ、アフターまで若干タニックかなぁ・・・・でも、エスターハージ―にしては何時になく美味しいワインでした。
そして
私が食べたかったもう1皿が、北海道のとうもろこし「ピュアホワイト」を使った冷製スープ。浮身もピュアホワイトを使ったムースです。
昨年の夏、2度このスープを頂いたのですが、ホントっ美味しいの!!
お砂糖を一切使っていないのに、とても甘くて…そして、時々アクセントに塩味をピリっ、ピリっと瞬間的に感じる、この甘と塩の差が何とも言えず好きなんだなぁ。
これも前日位に、ふと脳裏に浮かんだお料理。
しかも、私が伺った日からメニューに上がるなんて…凄くない?
今年もこのスープに会えて本当に嬉しいよ!!泣ける・・・。
そして、毎回、我が侭で頂くのがソルベ。
今回は、白桃とミントのソルベ・・・・もう、説明は要らないよね。
どれだけ香りの要素が合うか、分かるでしょう?
さてメインは、鮎。
鮎をミンチ状にしてアンチョビとお米でハンバーグ状にして焼いた所謂ハンバーグ?
これにクリームと根セロリのソースと上に沢山のキノコをソテーしたモノと一緒に頂きました。
キノコを避けるとこんな感。
この根セロリの香りが・・・・なんか懐かしさを誘うんですよねぇ。郷愁のある香りと言うか。
しかも、鮎が美味しい
作りは凝っているんですけど、味はシンプルに美味しい。
四の五の言わずに、美味しい!
未だ未だ暑さが残る・・・いや、今年は残ると言うより、暑さ真っただ中、遅れて来た夏本番の様な暑さですが、それでも8月って既に秋が始まりつつある季節。
何かさ、7月って手離しに夏―っ!!って感じで解放感があるんだけど、8月の夏ってどこか物悲しさがあると言うか・・・・明らかに7月と8月って違いません?
日暮れも早くなって、風もどこかに秋の気配が混ざっていて…これだけ暑くても、日が落ちると熱風とはちょっと違う。
こんな風にキノコが沢山使われていると秋が始まるんだなぁって気がします。
ワインはお魚とソースに合わせると白、キノコに合わせると赤でも良さそうなのですが、ゴベルスベルクのグリューナーヴェルトリナーで。
あっ、そうそう。待望のデザートも私が食べたかったモノ。
チーズケーキとリンツァ―トルテ。
これ、ずっとお取り寄せしたかったんです。
私もリンツァーは作るのですが、私のリンツァーはクッキーに近いタルト生地をタルト型に敷きラズベリージャムを加えて、上から生地を格子状に絞る一般的な作り方。
こちらのはケーキ状で柔らかいリンツァーです。でも、スパイスが利いていて美味しいのは一緒。
今宵も素敵な一時を有難う。