信じると言う事―オルフェオとエウリディーチェより- | Salon.de.Yからの贈りもの〜大事な事は全てお姫様達が教えてくれた。毎日を豊かに生きるコツ

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元ワイン講師であり歴史家。テーブルデコレーションを習いに行った筈が、フランス貴族に伝わる伝統の作法を習う事になったのを機に、お姫様目線で歴史を考察し、現代女性の生きるヒントを綴ったブログ。また宝石や精神性を高め人生の波に乗る生き方を提唱しています。

ウィーンの宮廷でマリー・アントワネットの音楽教師をしていたグルック。


アントワネットはグルック先生を慕っていて、グルックがフランスを訪れた時、フランスで名声を得られる様に演奏会を開きました。


子宝に恵まれず、宮廷でも今一つリーダーシップを取れていなかったアントワネットは、王太子ルイ16世の重い腰をオペラ座迄引っ張り出して、音楽会を成功させた事により、少しずつ自信を付けていったのです。


さて、グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」の中に「エウリディーチェを失って」と言う曲があります。


ギリシア神話から題材を得た美しいアリアですが、こんなストーリーです。


オルフェオの最愛の妻エウリディーチェは、ある日、毒蛇に咬まれて突然この世を去ってしまいました。


愛妻の死に嘆き悲しむオルフェオは、冥界に下りて行き、黄泉の王に愛する妻を返して欲しいと懇願すると、冥界の王は「エウリディーチェを返してやろう。しかし、地上にある現世に辿り着くまで決して後ろを振り向いてはならない。

もし、約束を破ったら、永遠にエウリディーチェは戻らない」と告げ、オルフェオはこれで妻が生き返るのであればと、冥界の王と約束を交わすのです。


喜び勇んで、早く現世に戻れる様、急ぐオルフェオ。


ところが、最初は直ぐ後ろにエウリディーチェの気配を感じていたのに、半分を過ぎる頃から、本当に妻は後を着いて来ているのか不安になって来ました。


振返って確かめたくなる気持ちを何度も堪えて、あと、もう少しで地上に出ると言う所まで来た時、とうとう不安を抑えきれなくなってしまったオルフェオ。


「本当に妻はいるのだろうか?」と、どうにも我慢が出来なくなったオルフェオは、とうとう冥界の王との約束を破って後ろを振り向き、ちゃんとエウリディーチェがいるか確かめてしまいました。


その瞬間、後ろにいたエウリディーチェの身体は冥界へと消えていってしまったと言うお話です。


全てを失ってしまったオルフェオは嘆き悲しみ、自分が最後まで信じる事が出来なかった事を激しく後悔すると言うお話。



冥界の王がただ1つ課した事は「決して後ろを振り向いてはいけない」と言う事。


オルフェオがこの約束を破ってしまったのは、ひとえに「信じる事が出来なかった」から。


信じる事は一見とても簡単な気がしますが、実は一番難しい事です。


特に、長い間温めていた大切な夢や想い程、信じる事が努力になってしまいます。

あと少しと言うところで気持ちが萎えてしまう事もあるでしょう。


オルフェオも最初は、幼子の様に単純に「これでエウリディーチェとまた一緒に暮らせる」と大喜びで帰途につきました。

しかし、エウリディーチェとの日々がかけがえのないものだけに、こんな楽な方法で本当に願いが叶うのだろうか、と信じられず、不安に駆られてしまった。

オルフェオは、道中、何度も「信じろ」と自分に言い聞かせた事でしょう。


私達は幼い頃から幾度となく、期待したものが得られなかったと言う経験をして来ました。


オルフェオも、一度、突然愛する人を失うと言う悲しみを経験し、二度と同じ悲しみを味わいたくないばかりに、すぐ後ろにエウリディーチェがいるのに、信じきれませんでした。


「もしかしたら彼女はいないかも知れない、冥界の王に騙されたのかも知れない」と思った方が、本当にエウリディーチェがいなかった場合、傷は浅くて済むと自己防衛が働いたのかも知れません。


私達が、大切なもの程、願いが叶う事が信じられないのは、その物事に対して一生懸命だからです。