さて、前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するお料理は、チロル地方の伝統郷土料理「ハムとチーズのシュペッツェレ」です。
シュペッツェレとは、ショートパスタの事。
チロル地方は、峠を越えると北イタリアを接していると言う土地柄、北イタリアの食文化に似ています。
オーストリアはクヌーデルと言われる、小麦粉をお団子にしたものを料理やデザートに使用しますが、時には、クヌーデルにジャガイモ等を混ぜたりする事も。
まさに、イタリア料理のニョッキと同じです。
また、チーズの食べ方もイタリア風。
フランスでは、チーズは食後に単体で食するのに対して、イタリアは単体で食べる事もありますが、イアリアではチーズをお料理に使って食べる事が多いんです。
その様な点では、チロル地方のお料理は北イタリアに似ていると言えるでしょう。
山のチーズは保存が利く様にハードタイプの物が多く、ミルクが濃いのが特徴です。
強い香りが苦手な日本人にも、食べやすく馴染みが深いのが山のチーズ。
オーストリアはミルク自体がとても美味しいんです。
写真のお料理は、茹で立てのショートパスタに、ハムや玉ねぎをチーズのソースに絡めたもの。
これを暖かい内に食べるのですが、寒い季節には身体の芯から暖まりそうです。
現に、チロル地方では、秋から・・・・特にスキーシーズンには大人気だそうです。
たっぷりと太陽を浴びた葡萄から作った、ヴォリューム感のある白ワインとの相性は絶妙です。
チロル地方と言えば、昔は鉄道も伸びていない、冬になると雪に閉ざされた未開の土地でした。
住民の多くは、貧しく、農業を行い、山岳地域と言う地の利を活かして酪農と狩りをする事でタンパク源を補っていた事でしょう。
山岳地帯の人々にとって、特に冬場はチーズは貴重なタンパク源でした。
大公妃フィリッピーネやヨーハン大公の奥方アンナがチーズを使った料理を作ったのも、地元で手に入る新鮮で栄養豊富であり、かつ手頃な食材だったからではないでしょうか。
特に、郵便局長の娘だったアンナ・プロッフルは沢山の弟や妹の母親代わりとして、幼い頃から家事一般を行っていました。
普通の一般家庭の食事として、地元の農産物であるチーズを使った家庭料理は、栄養満点。
幼い子供達の命を守り、成長を助けるには持ってこいの食材です。
※実際、アンナの弟や妹の何人かは、 幼くして亡くなっているんです。
まさに、健康にも家計にも優しい、郷土料理だったのです。
このハムとチーズのシュペッツェレは、素朴ながら優しい味に、ついつい食べ過ぎてしまいがち。
チーズを使っているので、満足感も抜群です。
グラタンやクリームシチューなど、乳製品を使った料理は、優しく、どこか懐かしい感じがするものです。
きっと、ハプスブルクの大公達も暖かい家庭の手料理に、日頃の疲れも癒されていたのかもしれません。
ワインと一緒だと、ランチ代わりにも。食も更に進みます。
今回のワインはヨハネスホーフライニッシュのグンポルツキルフナー・トラディツィオンと言うワインと一緒に。ロートキプフラーとツィアファンドラー(固有種)のブレンドで、蜜香が感じらるふくよかなワイン。しっかりと酸がありながら、料理のクリーミーさを邪魔しない最高の相性です