稲葉の目的は、私に味方する教職員の排除。


そのためにワザと親切心で補習授業を行った浜田を吊し上げ、因縁をつけていたぶり、そして退職へと追い込むため、生徒へ浜田が私にした特別補習授業のネタをリークし、学校中に噂を振りまいた。


何とも陰険で厭らしい男である。


そう言えば、女子卓球部の顧問である池元に話をしに職員室をとずれた時、コイツが妙に絡んできて池元の肩を持ったことがあったっけ。


部外者のくせに何言ってんだコイツ…ぐらいにしか思わなかったが、すでにあの時からコイツは狙っていたことになる。


けれど、私は直接稲葉と対峙することになったのは、この二学期の中間試験。


国語でも社会でも理科でもなく数学なのは何故か。


浜田が家のクラスの副担で新任教師、そして担任が不在である隙をついたということだろうか。


女子卓球部の問題は、担任である後藤田も関係する。


保健体育の主任で先輩教職員には意見しにくい。


おまけに問題があるのは私ではなく、教員側なので、後藤田が稲葉に口出しをさせなかったと考えられる。


その上、浜田も池元も女性教員だ。


稲葉は典型的な男尊女卑と女性蔑視の偏見教師である。


後藤田には強く言えなくとも浜田には言えた。


そして稲葉は私にこう言った、「お前に味方する省職員は誰もいない」と、嬉しそうに笑って言ったのだ。


だが、学年主任の前岩は、そんな稲葉に「いい加減にしてください、アナタはヘタすりゃ懲戒免職になるところを、この子に救われたんですからね。」と言った。


そう、校長に謝罪され、稲葉の暴力事件を訴えなかったのだ。


家族の生活が懸かっているからと、稲葉の暴言も含め許してくれと言われた。


もしこの時、私が訴えていたら、稲葉の息子は大学へ進学し、高校教師に何かなれなかっただろう。


でも本当、嫁が小学校の校長だったら、別に稲葉を訴えても問題なかったんだよ。


教員辞めても塾講師という転職先もあったわけだし。


本当、舐められたもんだわ。


この差別教師をのさばらした結果、その後の赴任先でもイジメを肯定するのである。


そう、イジメは虐められる側に原因があるという持論だ。


だけど、稲葉の息子は稲葉に似て陰険そのもので、同級生からも嫌われていた。


そして母校で高校教師になるが、生徒からも嫌われて、生徒から反発され、授業をボイコットされたり無視をされて体調不良を理由に離職する。


幸か不幸か私は稲葉の息子と、その同級生たちと、高校で交流を持つことになるので、何かと息子情報が耳に入る。


一方、教員一家で婿養子の稲葉は、自分の傲慢さのせいで生徒から反発を食らう。


本当、親子でどうしようもない奴等だ。


それは私達が受験を迎えた三年の時に起こった。




さて、私はこうして二年へと進級するが、体調不良を理由に後藤田は復帰をせず、担任には新たに赴任してきた橋本が就いた。


橋本も隣町のTO中学からの転任で、日本史の教科担任。


一年目ということもあって、クラス委員の私を何かと利用した。


それは他の教員から、私は何かと世話好きで友達も多く、イジメにも負けない強さがあり、自力で克服した生徒だという評判を聞いたからという。


まあ間違ってはない評価だが…稲葉の一件以来、私は教員不信になっていた。


担任の話に寄れば、二人の女子生徒が不登校状態にあり、一人は病欠で入院していて、学校帰りにプリント類を届けてほしいという依頼。


もう一人は、一年の時に転校してきたが馴染めず、体格の良い彼女は心無い男子生徒の言葉に傷つき、現在引き籠り状態にある。


登下校時に様子を見に行ってほしいという話で、学校を挟んで反対側の位置するので、物凄い遠回りになるんだが…。


その女子生徒の近所に住むものに頼めないかと訊いたら…誰が行っても会わないのだという。


そんな超難題を一生徒に押し付けるって…どうよ。


マジでそんな話をたかが中二の女子生徒に振るよな。


私は、朝刊配達をしているので、朝の方が時間的に余裕がある。


自宅のある母子寮から、引き籠り少女の自宅まで徒歩約20~30分。


そこから学校まで約15~20分かかるので、何時もより1時間も早く家を出て、ほぼ毎朝迎えに通った。


やがて一週間もすると、近所に住む同級生たちが気付き始め、理由を問われて訳を話すと、複数の女子生徒が協力してくれると言い出した。


声をかけたり、プリントを届けるだけなら、自分達は通学路の途中なので、わざわざ私が遠回りして行かなくて済むよう、日替わりで迎えに行くことになった。


勿論、任せきりにせず、様子を見に週に何度か訪ねたが。


こうして一ヶ月が過ぎ、二ヶ月目になると…頑固だった引き籠り少女は、徐々に登校するようになった。


さて、一方で病欠少女は気難しく、担任が不用意に我が家の事情を言ってしまい、私に対して拒否反応を示す。

まったく、教員という輩はどうしてこうも無神経なんだろうか...orz


彼女の名前は武田という。


武田の家も複雑な事情を持っており、私を選んだ担任に憤慨し、バカにされたと言って怒っていた。


なんて余計な事を言ってくれたんだよ。むかっ


今ならプライバシーというか、個人情報漏えいで大問題だ。


しかも人に頼んでおいて、足引っ張るなんて…最低。


しかし、ここで一学期が終了し、夏休みに突入したため、私は部活動に専念した。


私は、最初に入部希望をしていた、吹奏楽部に入っていた。


そう、初めから吹奏楽部に入っていたら、女子卓球部の問題に巻き込まれなかったのだ。


三女がちゃんと理由を話していたら、あんな揉め事に巻き込まれずに済んだとも言える。


勧誘以前に、先輩たちがやるべきことをやっていれば、少なくとも私は池元に嫌がらせされずに済んだ話だ。


結局、女子卓球部はこの後、三女の学年が卒業した後、池元から後藤田に顧問が変わる。


後藤田も最初から分かっていたんだから、池元と上手くやってくれたら、私が教員の揉め事に振り回されることも無かっただろう。


何も知らない私が貧乏くじを引かされる羽目になる事も無かったはず。


終わってしまった事だけに、私は一切誰も責めず、誰にも恨み言も言わず、ひたすら沈黙を続けた。


そんな中での稲葉とのバトル。


水面下で次の問題が起きていたが、二年では三女が次々と起こすトラブルに振り回される。


それは…。



カンニングを疑う前に、「どうして頑張って、今回は努力をしたのだと思わないのか」と、稲葉に訊ねてみた。


実際にヤル気を出して頑張って結果を出したのだし。


その結果がカンニングだと疑われるほど、私は何かをした覚えもない。


信用を無くすような問題も起こしてないし、言っちゃあ悪いが女子卓球部の問題にしても、教員側に非があるのに、何故か私が引いて終結させたではないか。


我儘な大人の言い分に、私のような子供が引いて、問題を終結させているのに、なんて大人げない教員ばかりなんだか...orz


子どもの私に大人の対応をさせて、今度は嘘の自白の強要か。


大人って最低だな。


稲葉曰く、ボダ子の様な親を持つ人間は、嘘つきで他人を騙す最低人間だそうだよ。


で、私は何の前科も無いのに、初めから疑ってかかり、試験で満点とろうが成績は赤だという。


そう、偏見で私を見、自分の物差しで測り、決めつけが前提にあるのだ。


確かにボダ子はダメ親だし、嘘つきのボーダーだけど、娘まで同じ扱いって、教育者としてどうなんだ!?


堂々巡りの質問と、稲葉の態度にもめげずに、疑う根拠を聞き出そうとするが、そこに正当性も何もなかった。


しつこいので、「今回の件を教育委員会へ報告しますが、御自分のクビをかけて争う覚悟はあるのですか!?」と、最後に言いかえすと手を挙げた稲葉。


「オマエの正体の尻尾を掴んだぞ!」と叫ぶ。


ずっと、校長室のデスクで静観していた校長が、ここへきて戸口に待機させていた男性職員と共に止めに入った。


まさに教員による暴行事件発生の瞬間だ。


「出るとこでて、白黒はっきりさせようと言ったら…暴力ですか!?」


私はなおも稲葉に向かって問いかけた。


私は、こんな大人が大っ嫌いだ。


生意気だと憤慨する稲葉。


だけど、非があるのはどう見ても稲葉の方である。


私は、最後まで補習授業をしてくれた浜田を庇い、稲葉が疑うカンイングについて、やっていない事を主張し続けた。


家が貧しいから、親がネグレクトだから、だから悪い事をするのだと稲葉は言う。


確かにそういう子どもも母子寮に存在するよ。


だけど、皆が皆そうじゃない。


ほとんどの子どもは世間の偏見の目に晒され、何時も哀しい思いに晒されているのだ。


信じてもらえない悔しさ。


レッテルの阻まれることの暴力。


それに屈しない強い意志がいる。


それを木端微塵に打ち砕くボダ子のような大人がいる。


これが私たちに課せられた現実だった。


兎に角、私は嘆き悲しんだところで、この現状が変わるわけでなし、益々稲葉は固執する羽目になる。


おまけに自分に疾しい事が無ければ、教育委員会に報告されても動じることはないだろう。


だけど、この時代は積み木くずしの全盛期で、不良のレッテルを張られたら、何もしてなくても白い目で見られる。


そう、スカート丈が長いわけでもなく、校則違反するわけでもなく、居たって真面目な女子生徒でも、嫌が悪けりゃ子も悪いという偏見があった。


また、私は夏休み以降、産経新聞の朝刊配達を始めていた。


塾に行けない私は、せめて教科書ガイドや問題集を買って、自力で勉強しようと考えた。


そんな参考書代も貰えないボダ子のネグレクトぶりは半端じゃなかった。


それも稲葉に寄れば気に入らない要素の一つだった。




結局、稲葉の暴力事件は揉み消されたが、私の容疑を晴らす為、英語と数学の追試試験を受けることになった。


胸糞悪いので、英語の答案用紙は白紙で、数学は満点をとってやった。


また呼び出された私は、「回答してもしなくても結果は同じだと言われたので、英語は白紙で出しましたが…何か問題ありますか!?」と答える。


授業で当てられることも無いし、今更英語の努力しても無駄だし、その時間を他の教科に割り当てた方がよっぽどマシだ。


こうして稲葉との闘いは、罪のない浜田へと向けられていった。


今度は私に味方した浜田を追い詰める稲葉。


私を味方する者は稲葉の矢面に立たされることになる。


本当にどこまでも卑怯で汚い稲葉。


こうして進級するころ、浜田は自主退職に追い込まれてしまう。



学年主任の前岩はD組の担任で、この三月に卒業したばかりの次女の元担任。


因みに、A組の担任の楠本は、長女の元担任だ。


ついでに言えば、稲葉はB組の担任で、家のクラスのC組が後藤田で、夏休み明けから病欠で休職中だ。


その隣で偉そうにふんぞり返っている稲葉は、この四月に転任してきたばかりで、元々は隣町のTY中学の教員だったが、この春に息子が入学するため、移動になったというのだが、私のクラスにいる津田さんの父親は、今現在、この中学の教頭である。


娘や息子が入学してきたって、教員である両親が移動になる事はないが、夫婦で同じ職場になるような事はないのだという。


例えば、職場恋愛で結婚したとして、特に問題が無ければ、大抵は嫁側が苗字が変わるので、職場を移動するケースが多いらしい。


この辺は、一般企業と同じルールである。


なのに稲葉は移動してきた。


この移動の裏に、実はある生徒とのトラブルがあったらしい。


あとで高校になってからその辺りの事情を知る事になるのだが、中一の時点では何の情報も持っていなかったので、稲葉による逆恨みの砲撃を三年間受け続けることになる。


つまり、入学前から私は稲葉にタゲられていたらしい。


さて、学年主任の前岩を前にして、私は「カンイングの事実があるのですか!?」と尋ねたところ、「…実は、怪しいところがないので、お前を呼んだ」という。


怒りを抑えつつ、「疑われるようなところがありましたか!?」と、私は極めて冷静に訊ねた。


「いいや、先生はそんな事をお前がするとは思っていないが、塾にも行かずに長期欠席していたお前が、中間テストで数学の成績が上がった事に、不信感がある先生がいてだな…」と歯切れの悪い物言いを繰り返す。


「ところで、今は家のクラス担任が不在なので、前岩先生が事情を聴くのはわかるけど、何故ここに無関係な稲葉先生がいるの!?」


と、私は素朴な疑問を投げかけた。


これだとまるで英語のカンイングをしたみたいに見えるし、肝心の浜田は自分が補習授業をしているので、カンイングだなんて思っていないはず。


それなのに職員室呼び出しで、校長室という展開に不信感を持っていた。


今回の呼び出しは、何か其処等へんに複雑な理由があると感じる。


ジッと相手の出方を観察する私。


正直、私は教員を信用していない。


そう、ほんの数ヶ月前まで通っていた小学校で、私が受けていたイジメの問題を、教頭は「イジメなんかない」と言い、私にそう言えと職員室で強要したのである。


私は、汚い大人が大嫌いで、教頭が言うようなことは間違っているし、言いたくなかったので「イヤだ!」とハッキリ拒否。


大人の都合なんか、子どもには関係ない。


そしてボダ子は連絡がつかず、学校の呼び出しに応じない。


当然だ、子どもを放ったらかしにして、男としけこんでいるのだから、連絡など着く筈がない。


この件について、ボダ子も長女も三女も誰も知らないし、ボダ子なんて呼び出されておいて、自分が学校へクレームを言ったことになっているから驚きだよ。


というのも、校長が全面的に非を認め、児童である私にまで頭を下げて謝ってくれたからだ。


そして、謝罪という名目でボダ子を呼び出し頭を下げた校長を、ボダ子は自分が言い負かしたぐらいに思っている。


流石はボダ子だ、無意識とはいえ厚かましい。


当時、職員室は教頭派と校長派に別れており、己の査定に響くのでイジメ隠蔽工作をするのが教頭だった。


そのため、イジメの事実が校長まで届かない。


悪質なイジメを、見過ごすことに耐えられない養護教諭が、校長に報告して発覚。


教頭以下イジメを隠蔽した教員は移動となった。


この出来事があって以降、私は世の中の偏見と闘っているわけで。


それが稲葉にとっての敵となる理由だったようで、後に校長になった稲葉は「イジメはいじめられる側に原因がある」と言い、バッシングされるのであるが…それはこの先15年ほど未来にまで引き続く話。


そう、私が三十路を迎える頃、定年を前に地元紙にコラムを書き、この勘違い男の持論が世間でブーイングを受けるのである。


生徒を見下し、悪意ある貶めを繰り返す稲葉。


そう言えば、英語の授業中、私を含む少数の生徒が授業中無視される。


一度も当てられたことが無いのである。


当然、ペーパーテストの結果がどうであれ、赤点しかつけられない。


その理由を此処で知る事になる。




稲葉は、鼻先で笑いながら、ソファーにふんぞり返って私に問いかける。


「正直に認めれば、今回だけは見逃してやる」と。


初めから稲葉の中で、カンニングあり気なのだ。


おまけに嘘の自白を迫っている。


あの時の教頭のように…。



よもやアラフォーのオッサンが、女子中学生を下心も無く、ただのお茶に誘うなんて、本気で思っている大人がいるだろうか!?


いたらドン引きである。


しかも不倫相手の娘に、邪な目を向ける男なんて、世の中にごまんといるだろう。


確か、どこかで聞いたことがあるんだが、十三歳までの生娘を抱けば、男は不老不死?じゃないが、若さと富とか欲望を叶えることが出来る…とかなんとか。


そんな言い伝えが九州だか、東北だかの田舎にあるらしい。


でも、この邪な男とボダ子が結託して、何かをやらかしたことは明白だ。


その尻拭いの代償に、男が何を望んだか、ちょっと考えれば想像はつく。


そして幸か不幸か、おたふくかぜがきっかけで、男の執拗な追い回しは途切れた。



同じ頃、同級生のマサミが部活の休みの日、誘いに来た。


一年前の夏休み、入院中にあった不思議体験。

私は手術の後、臨死体験をする。


当時、手術の際には専門の麻酔科医はいなかったので、私は麻酔から覚めずに生死を彷徨ってしまう。


その時に不思議な経験をした。


だけど、大抵の人間はそんな話を信じないだろう。


この時もほとんどの人間の反応はそうだった。


そんな中で、次女が見舞いにコミック本を数冊持ってきた。


その中にあった少女エクソシストというコミック本を、見舞いに訪れたマサミが気に入って、貸してほしいというので貸してあげたことがあった。


主人公の美少女が、一人で手かざしを使って、悪霊と闘うストーリー。

そう、オカルトミステリーだ。


当時は、この手の本が流行っていた。


そして、退院した私にマサミが「ファンレターを書こう」と言い出し、巻末に書かれていた作者の事務所へ手紙を送ったところ、数ヶ月後にサイン入り色紙と返事が送られてきた。


マサミの目的はそのサイン入り色紙で、添えられた手紙の内容は興味本位という感じ。


一方、私は色紙よりも添えられた手紙の方に興味があった。


こうして私達は手紙に書かれた連絡先へ、興味本位で電話をするが、まだ小学生だったので、その時は電話だけして終わっていた。


だけど中学生になった私達は、丁度暇だった夏休みにもう一度電話して話だけ聞いてみようということになる。


そう、本当に最初のきっかけは興味本位だけだった。


それでも運命の歯車は回り始めていた。




結局、お盆休み中は連絡が取れなかった。


また、後日改めて連絡してみようということになって、マサミは部活に戻り、私はボダ子の悪巧みの罠にはめられる。


こうして私の夏休みが終わった。


二学期になり、すぐに三女がおたふくウイルスをまき散らしたお陰で、危うく学級閉鎖にまで行きかけるが、かろうじて各クラス数名の罹患者で終わる。


けれど、一ヶ月にも及ぶ登校停止が解けたら、二学期の中間テスト前日ときたもんだ。


最悪である。


授業に出ていないので、テスト範囲をおさらいしている暇はない。


国語、社会、理科はカバーできても、英語と数学がどうにもならない。


困り果てた時、副担の数学教師の浜田が、土日に補習授業を個別でしてくれるという。


これなら英語を除く四教科は何とかなるが…肝心の英語は、まったくお手上げ状態。


しかも知らぬ間にかなりのペースで授業が進んでいて、単語を覚えてる余裕さえなかった。


そう、英語に時間を割いていては、他の教科の勉強に影響が出るので、もう割り切って捨てる覚悟でいた。


だから数学の補習はとてもありがたい話だった。


これが後に大問題になるとは知らずに、私は浜田の家に向かって、土日を利用して補習してもらった。

そして中間試験が終わり、結果は英語を除く教科はいつも通りで、特に補習してもらった数学の出来はほぼ完ぺきに近かったのである。


それがどうしてあんな事になったのか、いまだ謎なんだが、英語科の稲葉が証拠も無しに私がカンニングをしたと言い出した。


通常、テスト中に言われるならまだわかるが、まったくの濡れ衣で誰もそんな疑いは持っていなかったのに…。


また、一学期の成績も可もなく不可もない私は、中間試験の結果は、英語を除く国語と社会と理科の教科は平均点だった。


それなのに、疑われるようなことも何もない。


不思議に思った私は、職員室に呼ばれるまま向う。


すると学年主任が待ち構えていて、何故か担任でもない稲葉も同席し、隣にある校長室へ連れて行かれた。


身に覚えのない罪を着せられ、私は説明を求める。


事の発端は、赤点を取った英語の稲葉が言い出したという。


赤点なのにカンニング疑惑って…おかしな話だ。


私は稲葉の頭が変なのかと思った。


けれど、稲葉が主張するのは、数学の結果が良すぎたということで、数学のテストだけカンニングしたと主張。


これには頭を抱えるしかなく、稲葉が言うカンニング疑惑には、証拠も何もないタダの言いがかりであった。


でも、蛇の如く執念深く、陰湿な稲葉はカンイングだと言って譲らない。


そこで私を呼び出し、形だけの事情聴取を行うことになったという。


素行不良で、前科があるというわけでもなく、ただの偏見による蔑視。


それが稲葉の言う根拠のすべてだった。


私はこの後、卒業までの三年間、この稲葉と全面戦争になるわけだが…それは、稲葉が過去に犯したミスが原因だった。


稲葉は前任の学校で、生徒に騙された過去があるという。


でもそれは全くの誤解から、偏見によるものだった。


稲葉の言う偏見とは…。

中学一年の夏。


誰もいない昼間、珍しくボダ子に呼び出され、話があるというので職場の旅館へと向かった。


こういう時のボダ子には何かしら企みがある。


それに、この夏休みは私一人だけ家にいることも知っている。


その上で、誰もいない事を確認して呼び出した。


何の用かと尋ねても、一向に本題に入ろうとしない。


旅館やホテルというのは、午前10~11ぐらいにチェックアウトがある。


その後、チェックインまでの間、仲居は担当の部屋の掃除、予約の御客のお迎えの準備、お茶菓子や冷蔵庫内の商品の補充、部屋食の食器を人数分用意して配膳へ降ろす、浴衣のサイズを確認して人数分用意しておくなど、結構やる事が多い。


まあ、要領を覚えれば、朝食出しが終わった後、チェックアウトまでの時間に、下準備を半分ぐらい終わらせておくこともできる。


だが、夏休みはフリーでくる客も多く、予め予想して多めに下準備するのだ。


兎に角客が多いシーズンは、食器やら浴衣やら確保しておかないと、ドンドン他の仲居にとられてしまう。


準備が不十分では仲居としては不適格と言える。


そこで競争やらキライな仲居への嫌がらせに、そう言った備品の奪い合いがあるというわけ。


ボダ子も負けず嫌いなのでよくやっていて、子ども心にも『よくやるわ…』とため息ついたものである。


けれど、外で働くということはこう言う物だと知ったし、高校生になるとバイト先でよく先輩の新人イジメに合うので、ボダ子のやっていたことが教訓となって大抵はやり返せた。


基本、私はイジメはしないが、やられたらやり返す、舐められたら仕返す程度。


そんなわけで、この日のボダ子の呼び出しには、何やら不信感を感じ取っていた。


やがて人気のない廊下の一番端の客室で、ボダ子は座卓を向かい合って座り話し始める。


それはボダ子の男と、本日の午後、お茶に付き合えというものだった。


何とも怪しすぎる内容ではないか。


中一ともなればそれぐらいの予想は出来る。


おまけにボダ子が言っているのは、ただお茶に付き合えと言っているわけではない事ぐらい理解できる。


それなのにボダ子は男に貢ぐため、私を差し出そうというのだから驚きだ。


しかも、ハッキリとは言わずに言葉を濁しつつ、遠まわしに嫌なら自分で断れとも言っているのである。


勿論、私は怒って抵抗したが、自分の立場ばかり強調してくる。


何で私が相手をしないと、このボダ子の職場での立場が微妙な物になるのだ!?


その尻拭いをなぜ私がしないといけない!?


そして、昔は親の借金のために身売りした娘の話をするボダ子。


だからと言って、なんで長女でも三女でもない末っ子なんだよむかっ


小一時間、押し問答を繰り返していたら、痺れを切らした男が現れた。


半ば強引に、脅迫されつつ、男に連れ出された私。


この状況で何も納得していないのに、何故かボダ子は安心したように私を男と共に送り出す。


そう、ボダ子は男の共犯者だ。


抵抗できない娘を差し出し、自分の保身のために利用した。


そして私は男の車で出かけた。




まずは、昔ボダ子の不倫を暴いたとき、よく連れて行かれた喫茶店へ行く。


そこで小一時間時間を過ごし、入学祝だと言ってポチ袋を手渡される。


なんだか、これからされる行為への代償のようで嫌だった。




男の車に再び乗って、今度は人里離れた山奥へ連れて行かれる。


そこは建設途中に放棄されたホテルの廃屋跡。


むき出しの鉄筋コンクリートの柱がみえる。


そんな人の寄り付かない場所で、男は行為に及んできた。


初めからこういうことをされるとわかっていたので、特に抵抗する事も無く事が済むまでジッとしていた。


ただ、心の中はとても虚しかった。


一度だけの行為だと思っていたのに、それから何度か男から呼び出されて脅迫された。


事が公になると面倒なので、何度か相手にしたが…あまりにもしつこい上に、夏休みが終わってもシツコク絡む男に、段々私も堪忍袋がキレて腹が立ってきた。


「ボダ子にバラスなら言ってみろ、事が公になって困るのはオマエだ!!!」


私は男にそう言って突き放した。


愚かなボダ子は、夏が終わった9月の連休のある日、男に私を呼び出すように言われシツコク絡んでくる。


何処までも厚かましい男とボダ子。


私は胸糞が悪くなって嘔吐した。


娘を犠牲にして、何すっとぼけてんだメラメラパンチ!


そんな時、三女がいつものように流感のおたふくかぜを持ち込んだ。


何時もそうだ。


三女が何処からかウイルスを持ちこんで、大抵が私か次女がウツされる。


でもって、身体が弱い私が重症化する。


今回も三女で私で、次女と長女がほぼ同時。


ボダ子にはうつらなかった。


結果、私が登校できるようになったのは、一ヶ月以上経った中間テスト前日の事だったのである。