稲葉の目的は、私に味方する教職員の排除。
そのためにワザと親切心で補習授業を行った浜田を吊し上げ、因縁をつけていたぶり、そして退職へと追い込むため、生徒へ浜田が私にした特別補習授業のネタをリークし、学校中に噂を振りまいた。
何とも陰険で厭らしい男である。
そう言えば、女子卓球部の顧問である池元に話をしに職員室をとずれた時、コイツが妙に絡んできて池元の肩を持ったことがあったっけ。
部外者のくせに何言ってんだコイツ…ぐらいにしか思わなかったが、すでにあの時からコイツは狙っていたことになる。
けれど、私は直接稲葉と対峙することになったのは、この二学期の中間試験。
国語でも社会でも理科でもなく数学なのは何故か。
浜田が家のクラスの副担で新任教師、そして担任が不在である隙をついたということだろうか。
女子卓球部の問題は、担任である後藤田も関係する。
保健体育の主任で先輩教職員には意見しにくい。
おまけに問題があるのは私ではなく、教員側なので、後藤田が稲葉に口出しをさせなかったと考えられる。
その上、浜田も池元も女性教員だ。
稲葉は典型的な男尊女卑と女性蔑視の偏見教師である。
後藤田には強く言えなくとも浜田には言えた。
そして稲葉は私にこう言った、「お前に味方する省職員は誰もいない」と、嬉しそうに笑って言ったのだ。
だが、学年主任の前岩は、そんな稲葉に「いい加減にしてください、アナタはヘタすりゃ懲戒免職になるところを、この子に救われたんですからね。」と言った。
そう、校長に謝罪され、稲葉の暴力事件を訴えなかったのだ。
家族の生活が懸かっているからと、稲葉の暴言も含め許してくれと言われた。
もしこの時、私が訴えていたら、稲葉の息子は大学へ進学し、高校教師に何かなれなかっただろう。
でも本当、嫁が小学校の校長だったら、別に稲葉を訴えても問題なかったんだよ。
教員辞めても塾講師という転職先もあったわけだし。
本当、舐められたもんだわ。
この差別教師をのさばらした結果、その後の赴任先でもイジメを肯定するのである。
そう、イジメは虐められる側に原因があるという持論だ。
だけど、稲葉の息子は稲葉に似て陰険そのもので、同級生からも嫌われていた。
そして母校で高校教師になるが、生徒からも嫌われて、生徒から反発され、授業をボイコットされたり無視をされて体調不良を理由に離職する。
幸か不幸か私は稲葉の息子と、その同級生たちと、高校で交流を持つことになるので、何かと息子情報が耳に入る。
一方、教員一家で婿養子の稲葉は、自分の傲慢さのせいで生徒から反発を食らう。
本当、親子でどうしようもない奴等だ。
それは私達が受験を迎えた三年の時に起こった。
さて、私はこうして二年へと進級するが、体調不良を理由に後藤田は復帰をせず、担任には新たに赴任してきた橋本が就いた。
橋本も隣町のTO中学からの転任で、日本史の教科担任。
一年目ということもあって、クラス委員の私を何かと利用した。
それは他の教員から、私は何かと世話好きで友達も多く、イジメにも負けない強さがあり、自力で克服した生徒だという評判を聞いたからという。
まあ間違ってはない評価だが…稲葉の一件以来、私は教員不信になっていた。
担任の話に寄れば、二人の女子生徒が不登校状態にあり、一人は病欠で入院していて、学校帰りにプリント類を届けてほしいという依頼。
もう一人は、一年の時に転校してきたが馴染めず、体格の良い彼女は心無い男子生徒の言葉に傷つき、現在引き籠り状態にある。
登下校時に様子を見に行ってほしいという話で、学校を挟んで反対側の位置するので、物凄い遠回りになるんだが…。
その女子生徒の近所に住むものに頼めないかと訊いたら…誰が行っても会わないのだという。
そんな超難題を一生徒に押し付けるって…どうよ。
マジでそんな話をたかが中二の女子生徒に振るよな。
私は、朝刊配達をしているので、朝の方が時間的に余裕がある。
自宅のある母子寮から、引き籠り少女の自宅まで徒歩約20~30分。
そこから学校まで約15~20分かかるので、何時もより1時間も早く家を出て、ほぼ毎朝迎えに通った。
やがて一週間もすると、近所に住む同級生たちが気付き始め、理由を問われて訳を話すと、複数の女子生徒が協力してくれると言い出した。
声をかけたり、プリントを届けるだけなら、自分達は通学路の途中なので、わざわざ私が遠回りして行かなくて済むよう、日替わりで迎えに行くことになった。
勿論、任せきりにせず、様子を見に週に何度か訪ねたが。
こうして一ヶ月が過ぎ、二ヶ月目になると…頑固だった引き籠り少女は、徐々に登校するようになった。
さて、一方で病欠少女は気難しく、担任が不用意に我が家の事情を言ってしまい、私に対して拒否反応を示す。
まったく、教員という輩はどうしてこうも無神経なんだろうか...orz
彼女の名前は武田という。
武田の家も複雑な事情を持っており、私を選んだ担任に憤慨し、バカにされたと言って怒っていた。
なんて余計な事を言ってくれたんだよ。
今ならプライバシーというか、個人情報漏えいで大問題だ。
しかも人に頼んでおいて、足引っ張るなんて…最低。
しかし、ここで一学期が終了し、夏休みに突入したため、私は部活動に専念した。
私は、最初に入部希望をしていた、吹奏楽部に入っていた。
そう、初めから吹奏楽部に入っていたら、女子卓球部の問題に巻き込まれなかったのだ。
三女がちゃんと理由を話していたら、あんな揉め事に巻き込まれずに済んだとも言える。
勧誘以前に、先輩たちがやるべきことをやっていれば、少なくとも私は池元に嫌がらせされずに済んだ話だ。
結局、女子卓球部はこの後、三女の学年が卒業した後、池元から後藤田に顧問が変わる。
後藤田も最初から分かっていたんだから、池元と上手くやってくれたら、私が教員の揉め事に振り回されることも無かっただろう。
何も知らない私が貧乏くじを引かされる羽目になる事も無かったはず。
終わってしまった事だけに、私は一切誰も責めず、誰にも恨み言も言わず、ひたすら沈黙を続けた。
そんな中での稲葉とのバトル。
水面下で次の問題が起きていたが、二年では三女が次々と起こすトラブルに振り回される。
それは…。