青年の名はオカ・コウイチと言い、二十歳になったばかりだという。
実は研修会に参加した初日、道場宅へ泊るため、終了お参りまで御神殿に居て、掃除やら後片付けを手伝っていた私に、声をかけてきた青年がいた。
その少年はM島高校の一年生で、名をワカマツと言った。
ワカマツ少年はとても親切な好青年で、真面目な優等生を絵に書いたような人。
この日も日雇いのバイトに出掛けた帰りに道場に寄ったという。
実は、この日雇いのアルバイト先というのが、何と偶然にも父の勤め先であり、父と顔見知りだったのであるが…この時はまだお互いに何も知らなかった。
彼は家庭の事情で苦学生であり、学費に食費、生活費を稼ぎつつ、全日制の高校に通っていた。
親は酒乱で母はなく、幼い弟や妹がいて、その面倒も見ている。
そんなワカマツ少年を支える拠点長は、自宅の居間を開放して道場にしていて、Y田お浄め所と言った。
彼とは親道場が同じだが、拠点が違っていたので、研修を受けにきた私を見つけ、声をかけたらしい。
そんなワカマツ少年に外見だけはよく似た男、それがオカ・コウイチだった。
この男、実は二日目の夜に会っている。
声や仕草などが違うが、外見の印象がとてもよく似ていて、見間違えるほどだった。
ただ、この男は性格に難があり、直感でヤバいと感じた。
そのヤバい男に私は目をつけられる。
この男、我が家と同じで母子家庭だが、高校は中退して日雇いの仕事をしていて、やはり家の父親の職場にも行っていたらしい。
その相棒が同級生でナカモトというナンパ野郎だ。
ナカモトは高校卒業後、地元に就職し、母と妹の三人暮らし。
このメンバーと会っているのだが、私は最初に出会ったワカマツ少年を兄のように慕うようになる。
何故なら、この三名の中で唯一まともと言える青年だから。
さて、ユキが受けた道場は主幹道場と言い、さらにその上に位置する道場になる。
そのため、彼等はユキを見て私と勘違いし、「えっ!?…この前、受けてたよね。」と訊いたという。
それを聞いたのがオカだった。
オカとユキは意気投合したようで、その後、何かとこの二人は組んで悪だくみを繰り返すようになる。
その始まりがこの少年部入隊志願書というわけ。
当時、私は中二でユキは中三だったが、ボダ子は入信していなかった。
勿論、家の拠点にはA木姉妹と言って、姉のヨウコさんが二十歳、妹のマリコさんが高1という年齢でいたが、この二人が唯一、齢の近い組み手というわけで、それ以外は大人か年配者ばかりで、家族で入っている和泉さんという子どもが幼くて小学生と幼稚園児の兄弟姉妹の一家がいただけだった。
つまり、中学生での単独入信は私たち姉妹が最初。
あとはワカマツ少年が、友人たちをお導きして、Y田お浄め所に高校生が数人という状態。
誘うのは一向に構わないが、未成年であるということ、活動やその他の事について、よく理解したうえで配慮がなされるならば…と言う前提があれば、そりゃ入隊するのはかまわない。
だが、ユキは思慮深さに欠けるし、詳しい説明も無く持ち帰った。
そもそも交通費や活動にかかる費用はどうするのか。
そう言ったことが何にも考えておらず、何とかなると安易な考えだ。
もう初めから不安しかない。
けれど、同じ年頃の組み手がいるのだと聞かされれば、興味を引くのは当然だろう。
そこで入信半年の私は、様子見がてら主幹道場の月並祭へ行くことにした。
何もわからないまま入隊しても意味はないと思った。
そして私はタカオカ少年と出会う。
彼は私が受けた研修会の三日目、再聴講に来ていた少年だった。
タカオカ少年は私と同じ齢。
一年前に入ったのだと言い、母親と妹がいた。
でも、初対面で開口一番、「俺…お前キライだ」といきなり言われる。
挨拶もしていないのに、紹介されてイキナリだったので、私はコイツが苦手になった。
もう本当、先行きが不安。
こうして私のM光ライフが始まった。
ユキは何を考えて行動しているか、私にはわからないし、興味もない。
ただ、日々忙しい。
部活は勿論だが、クラスの厄介事にも振りまわされ、奔走する毎日だ。
夏休みになり、吹奏楽部は夏合宿に入る。
当時、中学の旧校舎がある中央公民館で、毎年一夏籠って練習になる。
重い楽器ケースと手弁当を持って、ひたすら歩いて通うのだが、公民館の向かいは道を挟んで海。
コンクールの課題曲にマーチングの基礎練習をする。
浜辺は足腰の鍛練になるし、広場はルーティーンの練習にもってこいだ。
お盆の三日を除くと、ほぼ毎日ここで練習になる。
かなりハードだが、おかげで私の喘息は治った。
なので、学校で練習をする卓球部の事はわからないし、ユキも一切内容を話さない。
ただ、マサミが練習の休みの日、遊ぼうと誘って来るぐらいだった。
そして夏が終わり、イベントの多い二学期が始まると、朝練が増えた私はユキとも同じ屋根の下に住んでいるのに、互いに殆ど会話する事無く過ぎて行った。
この時、ユキはまた暴走するのである。
その暴走の理由は三つ。
周囲の大人たちがユキに対して進学ではなく、就職を薦めた事と偏見によるものがあった。
母子家庭で寮に育ち、高校進学は贅沢であるという。
そしてボダ子自身、ナオコ以外は興味が無いので、トモコの進学は赦せても、私やユキの場合はまったく興味が無かった。
行きたければ勝手に自力で行けばいい、普段からそんな態度でいた。
私はかねてから父親の元で暮らすつもりでいたので、中学を卒業したら家を出ていくつもりでいる。
ナオコは高校を卒業したら、就職するので家を出ていく。
トモコも高校を卒業したら家を出るという。
つまりユキ自身の進学について、障壁はボダ子が進学させる気があるかどうかだけの話だった。
それはユキがボダ子と相談することで解決するのだが、子どものころからその習慣が無いので出来なかった。
そこで先輩たちはユキに進学するよう促すが…当の本人がその気がないという態度だ。
そしてその事で私が先輩から相談を受けることになる。
だけど、ユキは私の話を聞く筈もないので、ボダ子にユキと話をするよう促すが、ユキが就職すると言ってきかないと言い、まるで興味が無いと言った態度だった。
普通なら、進学をするように説得するのだが、「勉強が嫌いなんだから、しょうがない」という。
それならそれで看護学校等の進学も視野に入れるとか、技能学校とかいくらでもあるのに真面目に聞いていない。
そこで責めると…忙しいで済ます。
そして年が明けて受験前、伯父が我が家を訪ねてきた。