求められる文化的消費と社会的消費
1月10日(土)
幸福をもたらす消費とは、どのようなものか?消費は量を増やせばいいというものではなく、
どんなものを消費するかを真剣に考えなければ、より幸福な段階へは進んでいかない。レトロブームやミニマリズムなど、近年の消費をめぐる動きを分析し、これからの消費社会が目指すべき方向を探るのが「幸福のための消費学」(間々田孝夫著、立教大学名誉教授、作品社刊)である。
「レトロブーム」はノスタルジーではない
消費社会は限りなく、新しいものを求める社会。毎年流行が変わり、来年にはたちまち古いものとして扱われる。しかし、一度見捨てられながら復活するものも少なくない。昭和時代の街並みを再現する動き、昭和歌謡など古いものの見直しの動きは数知れない。
このような動きを社会学などでは「ノスタルジー」と呼び、過去を懐かしむ感情として広く用いられてきた。「ノスタルジー」は社会が大きく変化するときに現れるとされる。幸福が不安的になった時、精神の安定を保つ働きがノスタルジーと考えられてきた。
日本では長く続いた産業発展と経済成長がストップして閉塞感が強まり、その結果として高度成長期やバブル期が懐かしがられているという仮説が立てられている。しかし、昨今の古いもの消費ブームを観察する限り、私にはこの説明が妥当だとは思えない。
昭和の街を再現などの「レトロブーム」には次の特徴がある。第一に、担い手(消費者)の多くは若い世代である。第二に求められているのは「昭和レトロ」という言葉が定着したように、その対象は主に戦後の昭和であり、それより古いものはあまりレトロとは呼ばれない。第三に、その動機は目新しさ、面白さ、憧れなどで懐かしさではない。
こういった特徴は、それをノスタルジーと結びつけることが困難であることを示している。レトロブームはノスタルジーではなく、若い世代による古いものの掘り起こしと、それを通した「古き良きものの消費」と捉えられる。これまでの時代は、古いものを無造作に捨て過ぎ、多くの価値あるものを失ってきた。これからは古きものを尊重し、その良さを活かしていくべきなのである。
「多様性」は質的豊かさを実現する消費文化
現代は「多様化の時代」だと言われて久しい。人々は自分の好みに合わせて、多様な消費生活を送るというイメージが1980年代から語られてきた。消費の多様性はなぜ望ましいのか。それは「消費の質的豊かさ」を実現するからだ。かつての貧しい社会では、消費の豊かさとは量的な豊かさのことだった。しかし、モノやサービスがあふれる現在の消費社会では事情が異なる。
多くの人々は、今までのモノの消費量を増やすのではなく、何か別のものを求めている。消費を質的に豊かにするとは、内容を変えて消費の満足度や充実感を増大させることなのだ。消費の多様性は消費の質的な変化の可能性を高め、それを通じて消費の質的な豊かさをもたらし、人々のより従実、より幸福な生活を実現する。
ではこれからの消費はどんな方向へ進むべきであろう。目指すべき消費ビジョンは2つある。1つは、「文化」の豊かさを求める流れを自覚し、それを追求することだ。ここでの文化とは消費的に苦痛や不快を除去するのではなく、積極的に心地よい、楽しいなどの肯定的な意味をもつ精神状態を実現する様々な活動、また成果を意味している。こういう文化を実現する消費を「文化的消費」と呼びたい。
他方で現代の消費は、地球温暖化や大気汚染など多くの社会問題をもたらしている。そこで、これからの消費は、社会に悪影響を及ぼさないようにしなければならない。このような条件を満たす消費を「社会的消費」と呼びたい。これからの消費は、「文化的消費」と「社会的消費」を同時に充実させるべきだ。このような消費のあり方を「第3の消費」と名づけたい。
これまで消費者が求めてきたことの1つは、様々な便利なモノやサービスを消費し、モノを大量に所有することだった。これを「第1の消費文化」と呼ぶ。他方、消費社会が全般的な豊かさをもたらすと、人々は富裕層の消費を模倣し始めた。高級ブランドの衣服を身にまとい、外国車に乗るといってことだ。さらに他者にそれを誇らしげに見せつけた。これら世間との関係で意味をもつ消費も求める傾向を「第2の消費文化」と呼ぶ。
第1と第2の消費文化は共に、過剰で節操のない消費習慣をもたらし、様々な社会問題を深刻化させた。第3の消費文化は。こうした問題点に対処しようとする、新しく進んだ消費文化だ。単なる物量の多さではなく、自分の姿を他者に示すためでもない豊かな消費を、着実に実現することができるのである。(「TOPPOINT」から抜粋)