北朝鮮国営メディア・朝鮮中央通信は,金正恩総書記の娘・金ジュエ(主愛)氏を「後継者」として内外に強く印象付けるためなのか,金正恩氏がジュエ氏を同伴して,軍事施設や経済部門を視察したり,国家的記念行事などに出席したりする映像を大きく報じたり,父娘の親密ぶりを強くアピールするような映像も紹介するようになってきている。また,今年に入り,在中国北朝鮮大使館の公式掲示スペースに,金正恩氏とジュエ氏が並んで立つ大型写真が一時的でも掲示されたことも,「後継者としての演出」として話題となっている。
このため,国家情報院(韓国の情報機関)など各国の情報機関は,「金正恩氏は,娘・金ジュエ氏を既に後継者として育成しており,今後その権力基盤を固めるための作業を最優先していくのではないか」との見方を強めている。
米国シンクタンク関係者は,北朝鮮の後継者問題に関して,「これまでの映像を分析する限り,ジュエ氏が有力な後継者であることは間違いないだろうが,彼女は年齢的には13歳程度と見られており,労働党の党員の資格である18歳になるまでには,公的な役職にも就けないのが実情である。このため,正恩氏は,娘を最側近の『秘書』という立場に置き,自身の傍らでジュエ氏を英才教育しているのであろう。そこで,今特に注目を集めているのが,ジュエ氏と叔母・与正氏(金与正労働党副部長)との間で権力闘争が起きる可能性である。既に表舞台で活躍する与正氏は,党宣伝扇動部副部長として外交や南北関係を担当し,工作機関などの特殊機関にも大きな影響力を持ち,労働党や軍部内で相当な支持基盤を確保しているため,事実上,北朝鮮内のナンバー2と評価されている。40代前半という比較的若い正恩氏は,できるだけ時間をかけてジュエ氏の後継者としての地位を安定させ,与正氏と良好な関係性を構築させたうえで,ジュエ氏を後継者として指名したいところであろう。正恩氏が公の場に登場したのは,父・金正日氏が死去した2011年12月のわずか1年3カ月前であったため,権力継承はスムーズに進まず,叔父の張成沢氏や義兄の金正男氏らを処刑・暗殺する事態となってしまった。現状を見る限り,自身の健康への不安もあるのか,正恩氏は父親として,ジュエ氏にスムーズに権力を移譲できるよう非常に努力しているように思える」と語る。
韓国国家情報院元幹部で東国大学碩座教授(元駐日・駐英大使)の羅鍾一氏は14日,英日刊紙テレグラフとのインタビューで,「キム・ジュエが父親の後を継ぐことになれば,野心家で無慈悲な叔母の金与正による強力な牽制に直面する可能性がある」としたうえで,「金与正は自身が最高指導者になる機会が来たと判断すれば,躊躇なくそれを掴もうとするだろう」とし,「金与正の立場からすれば,自身の政治的野心を実現することを自制する理由がなく,権力闘争が起きる可能性が高い」と指摘した。
10代前半と見られるジュエ氏が政治的基盤を固めるには,これからも父・金正恩氏の存在と多くの時間、それに加え,叔母・与正氏の協力が不可欠であり,将来,「愛する娘」と「愛する妹」がどのような体制を築き上げるのか,世界中が注目している。