古い古いオンボロソファにお別れしたのは、先週のこと。
よくもまぁ、ここまで使い込んだものだ。
牛革が擦り切れて、あちこち中綿が覗いている。
使わなくなったバッグの革を貼り付けてみたりして補修したのも束の間、
次々に新たな裂け目ができて、オンボロ感は拭えない。
何年もうカバーをかけて誤魔化していたものの、
スプリングも弱くなっていて、座っていると腰が痛くなってくる。
それもそのはず。
このソファを買ったのは、かれこれ32年前。
最初に股関節が痛くなって、手術するしかないと言われた頃だった。
畳の延長生活で、絨毯にぺたんと座っていた私だが、
股関節を保護するためには椅子生活のほうがいい、
ペタンと座るときも、低い椅子から腕を使って下りたほうがいいと言われて
あのころはどの町にもあった家具屋さんで、一目惚れしたソファだった。
お値段は16万くらいだったと思う。
どうせなら良いものがと、奮発して本革製を選んだが、
こんなに長く一緒に生活を共にするとは思わなかった。
母の友人の紹介で東京女子医大の名医に診てもらうまで2カ月かかった。
「これは手術ですね」と、パパッと決まって入院できるまで、さらに2カ月。
名医を求めて全国から患者が殺到していて、
そのくらい待たなければ、手術できなかったのだ。
その間、痛い私の脚を保護するために、ソファくんは頑張ってくれた。
ソファから床へおりるときに擦れるのだろう。前面の擦り傷が痛々しい。
私の股関節は、両方とも先天性股関節臼蓋形成不全というものだった。
骨頭を支える骨盤の、支えになる屋根の部分が足りないため、
脚の骨頭がグラついて痛みが出るし、脱臼しやすいという症状だ。
生まれつきだから、生れてまもないころには不具合が出ていた。
なかなか歩けない赤ちゃんで、股関節が緩いんじゃないかと、伯母が見つけてくれたという。
当時は田舎だったこともあるのか、おむつにお寿司を巻くスダレを入れて、
脚を広げたまま固定するという治療法だったようで、赤ちゃん時代の私はいつも両足を180度開いている。
あ、180度は大げさね🤭
ほかの子よりは遅れたものの、そのうち立てるようになり、歩けるようにもなり、
多少、歩き方は変だったが、股関節の不具合はすっかり治っていると思っていた。
体育も普通にやっていた。
運動会はいつも最下位争いだし、成績も悪かったけれど、股関節が悪いなんてこれっぽっちも思っていなかった。
30歳をすぎて厄年なんてことを言われるようになった年の秋、いきなり脚が痛くなった。
歩いた後がまた痛い。ジンジンというかシンシンというか、痺れるような骨の痛みで眠れないこともあった。
当時の人工股関節は、10年~15年もてば良いという代物(現在は30年くらいもつらしいよ)だということで、その名医は自分の骨を使って、足りない臼蓋を形成する回転骨切り術を勧めた。
「人工だったら、40代で人工股関節を入れ換えなければならないけれど、自分の骨で形成すれば一生もちますよ」
と、言われて、手術を決意。
自分の骨盤を円形にくり抜いて少し出し、足りない骨は骨盤前面から移植して、
長いピンで止めて形成する。なかなかの大手術だった。
術後もベッド上で動けない状態で3週間。トイレももちろんベッド上。
これがいちばん辛かった。
1カ月半入院し、退院後も両松葉杖で、手術した脚に体重をかけられない。
これでは買い物もままならないということで、しばらく田舎で療養し、
東京に戻ってきたのはいつだったか?
そのときから、再びこのソファくんが私の脚を支えてくれた。
購入時は、三軒茶屋のワンルーム。
その後、松陰神社の2DKに移り、現在のマンションと、ずっと私と一緒に引っ越してきたソファくん。
2005年末に、子猫くまきちがやってくると、ソファくんは良い遊び相手になってくれた。
カバーがかかっているけど、ちびっこくまきちが
ソファくんに飛び乗って遊んでます。
その後、虚勢手術をグズグズしていたダメ母のせいで、
くまきちは一時期、あちこちにお漏らしをするようになり、
ソファくんがその犠牲になった。
そのたびに、ソファくんをひっくり返し、
裏側の布部分からジャンジャンペット用消臭液をかけまくった。
そんな理不尽にもジッと耐え、さらには、
くまきちのお気に入りの爪とぎとしても活躍したソファくん。
最期の時期のくまきちは、
キャリーバッグの中で眠っていることが多かったけれど、
少し気分のいい時なのか、ソファくんの脇でまったりし、
ソファくんに寄り添うように丸まって熟睡していたこともあった。
なんとなく安心できたのかな。
そんなくまきちを静かに見送った後もソファくんは1年半、頑張ってくれたのだ。
それにしても
ここまで愛着があったのに、突然、ソファを新調する気になったのは何故だろう。
何が私の背中を押したんだろう。
新しいソファが来たのは、17日のことだった。
運び出されるソファくんに、心のなかで声をかけた。
これまで、ありがとう。長い間、おつかれさまでした。