父は土日祝日が休みで、毎週土曜日の昼過ぎに私は近所の駄菓子屋さんにお使いを頼まれていました。バニラのカップアイス2つとおにぎり煎餅1袋を買ってこいと…。

最初は(1つは胡桃のんやな)と嬉しくてスキップしながら行きました。

帰ってくると父は私の目の前で全て1人で食べてしまいました。
私は、食べれなかったことより、ひとつは私のだと期待して喜んでいた自分が恥ずかしくてしかたありませんでした。

その「行事」は私が低学年の頃は毎週続きました。

買ってきてすぐにその場を離れることもできたのですが、意識しすぎて、そうすることもできず…ただ父と同じ部屋で三角座りをし、テレビに夢中な素振りで、おにぎり煎餅なんていらんよ~という自分を演じていました。
時々妹が父のお菓子を見て
「パパちょうだい」と言えば
「おぅ…食え食え」
と笑顔で妹にあげていました。
私はそれでもテレビを見ていました。
すると妹が
「お姉ちゃん食べへんのん?」
と言ってきました。その妹の言葉にかぶさるように
「胡桃はえぇんや。」と父は厳しい口調で言い放ちました。まだ4歳の妹は
「ふ~ん…美味しいのに。」
と、不思議そうにしてましたが2人で食べ始めました。
私は泣きたい気持ちを殺してその場で父と妹がお菓子を食べている横でテレビを見て笑っていました。

ごく稀にお腹がいっぱいになったのか、それとも私の反応を見るためか
「お前も食え」と数枚残った煎餅の袋を私のほうへ差し出すことがありました。

私は(いらんのになぁ~)的な態度を作り、黙って袋から2~3枚とるとズボンのポケットにそのまま入れて1階へ降りました。
急いで靴を履き近くの公園へ走って行きポケットから煎餅を取り出しました。

その煎餅を見つめ号泣しました。
我慢できずに、走ってる途中から涙が溢れ、前がよく見えませんでした。
それは悔し涙でも怒りや悲しみからの涙でもありませんでした。

父から貰った煎餅が嬉しくてしかたなかったのです。
人前で泣くことのできない子だったので、公園で1人で背中を丸め、嗚咽をこらえることなく泣きながら食べました。


ズボンの繊維がついて毛羽立ったその煎餅を…。
言われるままに椅子に座りました。

「お前…今日は汚い食べ方しやがって」
と言われ、すぐにエビのことだとわかりました。
左側の頬をビンタされ、小さな私はまた椅子ごとひっくり返りました。
いつもそうでしたが、私は殴られても痛そうな素振りは見せませんでした。
泣いたり怖がったりしてる姿をみられるのが嫌で、平気な素振りをして淡々と椅子を立て直して座りました。
このような態度も父の怒りをかっていたのでしょう…。

言い訳をしたら更に殴られることを知っている私は黙っていました。

すると今度は
「倒れんように踏ん張っとけよっ!」
と右側の頬をビンタされました。
殴る理由はどうでも良かったのです。

食事会での私の精神的な苦痛をみて楽しみ、夜になると殴って憂さ晴らしする父

どちらかというと、殴らるる身体的苦痛より、精神的な苦痛のほうが遥かに辛かったです。

父は下の妹2人のことはすごく可愛がっていました。
私も良い子にしていれば、可愛がってもらえる…そう信じて父に認められることばかり考えていたように思います。

父は、私の右側の頬をビンタして、私が言われる通り踏ん張って倒れなかったのをみて、面白くないような顔をして

「……早よ寝んかい」とテレビに目をやりました。
私は黙って椅子から立ち上がりました。
父が見ていないのに「やれやれ…」といった表情を作っていました。微笑みながら子供部屋へ向かいます。そうすることで自分の心を保っていたのだ…と今になって考えたらわかります。
そうして、ベッドに入り布団をかぶって完全に1人になってから声を殺して泣きました。

誰に助けを求めることもありませんでした…。
それからの私は、週2~3回も行われる親戚集まっての夕食の日が苦痛で仕方ありませんでした。

緊張を誰かに悟らる恐怖からわざと元気に振る舞いました。
みんなが笑うタイミングで私も笑いました。

父に良いところをみせようと、妹の面倒をみて一生懸命姉らしく振る舞ったりもしました…。

でも心の中はいつも緊張感でいっぱいでした。

下の妹が1歳になると、母は週3日焼肉店の深夜パートに出ました。
3時まで帰って来ません。

母がいない日は妹が寝てしまってから、父は何でもない理由で私を殴るようになりました。
いつも殴る時には子供用の椅子に座らされます。


ある日のいつもの親戚の集まりで、エビの天ぷらがありました。

(エビはお肉かな?何かな?…食べてもいいんかな)
と私はずっとエビを見つめてました。
するとまた叔母が
「胡桃エビ食べるか?私は衣が食べたいから胡桃エビ食べてくれるか?」
と言われ、私は父に聞こえるように

「えぇ~?…オバチャンエビ食べてって…胡桃エビだけ食べたらえぇのんかぁ?…胡桃は衣も食べたいのにぃ~しゃあないなぁ。じゃあエビだけ食べたるわ。」
と舞台役者のような大げさな素振りでエビを食べました。

父をチラッと見ると特に関心は示してない感じでホッとしました。

その日の夜は母がパートでいない日でした…。

「胡桃!!ちょっとこっち座れ」
また叩かれる…私はトレーナーの胸元をまたギュッと握りしめ椅子に座りました…。