厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部は2020年10月2日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第1版)」を公開し、鼻腔ぬぐい液を用いたPCR検査および抗原検査を可能とする方針を示した。鼻腔から2cmほどの位置で採取する鼻腔ぬぐい液は、患者自身が検体を採取できることから、医療従事者の感染予防への有用性が期待されている。

 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第1版)」は国立感染症研究所、国立国際医療研究センターなど9団体が合同で作成した指針で、9月25日の厚生科学審議会感染症部会で議論の上、今回の公開に至った。3章構成で、各種検査の種類と意義、状況に応じた各検査の使い分け、検体採取に応じた感染防護についてそれぞれ記載している。なお、同指針の使用開始に伴い、抗原定性検査の使用方法と検体の扱いに関する方針を示していた「SARS-CoV-2抗原検出用キットの活用に関するガイドライン」(6月16日最終改定)は廃止となった。

鼻腔ぬぐい液検体が使用可能に

 同指針では、PCR検査をはじめとする核酸検出検査、専用機器を用いて行う抗原定量検査、簡易キットで実施する抗原定性検査について、症状の有無に応じた使い分けを示している(表1)。これまでも使用可能だった鼻咽頭ぬぐい液検体および唾液検体に加え、新たに鼻腔ぬぐい液が検体として使用可能となった。鼻腔ぬぐい液を使用した検査は、有症状者に対するPCR検査および抗原検査(定量・定性)が可能となっており、無症状者への鼻腔ぬぐい液を用いた各検査は推奨されていない。

  鼻腔ぬぐい液の採取に当たっては、鼻孔から2cm程度スワブを挿入し、鼻甲介付近でスワブをゆっくり5回程度回転させて十分に湿らせる。医療従事者の管理下であれば患者自身が検体を採取できることから、医療従事者はサージカルマスクと手袋を装着すれば感染防護が可能だ。

 感染初期において最も標準的で信頼性の高い検体は、あくまでも鼻咽頭ぬぐい液であるとしているが、鼻咽頭ぬぐい液は医療従事者が採取する必要がある。その際に飛沫に曝露するリスクがあるため、サージカルマスクと手袋に加えて、フェイスガードやガウンといった厳重な感染予防策が必須となる。

 ただし、鼻腔ぬぐい液の検出感度は鼻咽頭ぬぐい液と比較してやや低いとの報告があることから、有用な検体であるものの引き続き検討が必要であるとしている。鼻腔ぬぐい液と鼻咽頭ぬぐい液による検査結果を比較した中間結果では、鼻腔ぬぐい液を用いたPCR検査、抗原定性検査、抗原定量検査について、鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査結果との陽性一致率がそれぞれ80%、83%、90%だった。抗原定性検査において鼻腔ぬぐい液と鼻咽頭ぬぐい液を用いた場合の結果の比較では、陽性一致率は82%となっている。

 唾液検体も鼻腔ぬぐい液と同様、医療従事者の管理下であれば患者自身が採取できる。また、飛沫を発することが少ないため感染拡散のリスクが低く、検出感度も鼻咽頭ぬぐい液と同程度とされている。ただし、抗原定性検査に唾液検体は使用できない。また、発症から10日目以降の有症状者に対する唾液検体を用いたPCR検査および抗原定量検査も、検出性能が低いため推奨されない(関連記事12)。無症状者へのPCR検査および抗原定量検査には、鼻咽頭ぬぐい液とともに唾液検体が使用可能となっている(関連記事)。

 唾液検体の採取に当たっては、自然に流出する唾液を患者自身が広口の滅菌容器(50mLチューブなど)に1~2mL程度ためる。飲食や歯磨き、うがい直後の唾液採取は、ウイルスの検出に栄養を与える可能性があるため避ける。飲食や歯磨きの後、最低10分以上、可能であれば30分程度の時間を空けることを目安としている。

インフルエンザ流行期に抗原定性検査を活用

 指針では併せて、対象者に応じた検査のフローについても考え方を示している(図1)。COVID-19を疑う有症状者に対しては、核酸検出検査、抗原定量検査、抗原定性検査のいずれかを行う。

 

 ただし、発症10日目以降の有症状者に対する抗原定性検査で陰性となった場合、確定診断のためには改めて核酸検出検査を行う必要がある。現時点で抗原定性検査を確定診断に用いることができるのは発症2~9日目の有症状者に限られるが、抗原定性検査は大規模な検査機器の設置が必要なく、その場で短時間で検査結果が判明する。こうした特徴から指針では、インフルエンザ流行期における発熱患者への検査に抗原定性検査が有効であると指摘し、簡易検査キットを最大限活用した検査体制の整備を求めている。

 濃厚接触者で症状がある場合には、前述のCOVID-19を疑う有症状者に対する検査と同様に対応する。無症状の濃厚接触者に対しては、抗原定性検査は行わず、核酸検出検査または抗原定量検査を検討する。

 

  米国Connecticut大学医学部のSamantha Frank氏らは、エアロゾルを生じさせる耳鼻咽喉科的手技を実施する前の感染予防策として、0.5%以上のポビドンヨード(PVP-I)を含む消毒液を鼻腔内に投与して15秒間洗浄を行うことを想定して、in vitroで消毒液のウイルス培養実験を行ったところ、この処置でSARS-CoV-2は完全に不活化できたと報告した。結果はJAMA Otolaryngol Head Neck Surg誌電子版に2020年9月17日に掲載された。

 耳鼻咽喉科での感染リスクの低減には、主に物理的な遮蔽と個人防護具が用いられている。患者と医療従事者の鼻腔内の消毒によるウイルス除去は、感染リスク低減に役立つと言われており、そうした目的でのPVP-Iの利用法については様々なプロトコルが提案されている。SARS-CoVとMERSを対象としたin vitro実験では、濃度が0.23%でも不活性化できることが示されている。SARS-CoV-2の場合は、in vitroで、0.5%ポビドンヨード含有うがい薬を作用させると、15秒でウイルスを不活性化できると報告されていた。

 そこで著者らはin vitroで、様々な濃度のPVP-Iを含む鼻腔内消毒液を用いた処置のSARS-CoV-2不活化効果と必要な洗浄時間を検討し、耳鼻咽喉科の外来や手術室における感染予防に役立つ情報を提供しようと考えた。SARS-CoV-2を用いる実験は全て、Utah州立大学のInstitute for Antiviral Researchのバイオセーフティーレベル3実験室で行った。

 実験に用いたPVP-I消毒液は米国Veloce BioPharma社の製品で、有効成分はPVP-Iのみだ。今回の実験には、この消毒液と、SARS-CoV-2 USA-WAI/2020株を利用した。消毒液とウイルス液を1対1で混合し、最終的なPVP-I濃度が0.5%、1.25%、2.5%になるよう消毒液を調整した。混合後は、平均室温22度(SDが2)で15秒または30秒反応させた。陽性コントロールとして70%エタノールを、陰性コントロールとして水を用いた。

 消毒液で処理した後のウイルス力価は、細胞の50%に感染することができるウイルスの量を表す50%細胞培養感染量(50% cell culture infective dose、CCID50)により評価し、対数減少値をコントロールと比較した。主要評価項目は、介入から15秒後と30秒後の対数減少値に設定した。

 15秒処理した実験では、対照となった陰性コントロールのウイルス力価は3.67 log10 CCID50/0.1mLだった。濃度0.5%、1.25%、2.5%のPVP-I消毒薬は、15秒以内にSARS-CoV-2を完全に不活性化していた。残存ウイルス力価はいずれも検出限界未満になり、0.1mL当たりのCCID50に基づく感染価の対数減少値は、すべて3 log10超だった。陽性コントロールの70%エタノールは、15秒間ではSARS-CoV-2を完全に不活化できなかった。残存ウイルス力価は1.5 log10 CCID50/0.1mLで、対数減少値は2.17 log10だった。作用時間を30秒にすると、陽性コントロールでも残存ウイルス力価は検出限界未満になり、完全に不活性化された。

 今回の実験では、0.5%以上の濃度のPVP-Iは、15秒という短時間のうちにSARS-CoV-2を不活性化した。PVP-Iによる鼻腔内洗浄は1.25%以下なら安全であることが示されており、個人防護具に追加することにより感染リスクを下げるために役立つと著者らは結論している。また、SARS-CoV-2が最も感染しやすいのは鼻粘膜の線毛細胞で、ウイルスはそこから口咽頭、肺へと侵入していくという仮説が報告されているため、ウイルス量を減らすことによって重症化を防ぐ可能性もあると述べている。なお、PVP-Iを含む洗浄液を用いた鼻洗浄は、ヨードアレルギーの患者、妊婦、活動性の甲状腺疾患患者、放射性ヨウ素内用療法を受けている患者には禁忌とされている。

 

  イタリアAzienda USL-IRCCS di Reggio EmiliaのPamela Mancuso氏らは、北イタリアの都市レッジョ・エミリアでCOVID-19を発症した患者を対象に前向きコホート研究を行い、48時間超の間隔で2回連続してPCR検査が陰性になるタイミングを検討した。PCR検査で陰性となった患者が再検査でも陰性となった割合は78.7%で、5人に1人は初回検査が偽陰性だった可能性が示唆された。一方、発症から35日後以降に初回検査陰性となった患者では、86.8%が再検査でも陰性になっており、時間とともに偽陰性の割合が減少する傾向が観察された。結果は、BMJ Open誌電子版に2020年9月2日に掲載された。

 SARS-CoV-2感染者がどのくらいの期間、ウイルスを排出し続けるのかを明らかにすることは、PCR検査を行うタイミングと回数を最適化するため、また適切な隔離期間を設定するために重要だ。そこで著者らは、レッジョ・エミリアのCOVID-19患者コホートで、鼻咽頭スワブを対象とするPCR検査でSARS-CoV-2が初めて陰性になるタイミングと、48時間後以降に行った2回目の検査でも陰性となる確率を調べ、関連する要因の同定を試みた。

 対象は、2020年2月26日から4月22日までに同地域でCOVID-19を発症しPCR検査でSARS-CoV-2感染が確定した患者。PCR検査で初めて陽性になった日が記録されており、2020年4月22日までに30日以上追跡できていた1162人のCOVID-19患者を分析対象にした。1162人中110人は、初回陽性から9日後までの間に死亡していたため、ウイルス排除に関する分析の対象からは除外した。なお、10日目以降も62人が死亡したため、死者は計172人(14.8%)になった。

 1162人のうち、入院したのは577人(49.6%)で、救急部門を受診したが入院を免れた患者が232人(20.0%)、救急部門または病院を受診せずに、検査を受けた患者が353人(30.4%)いた。

 患者は1人当たり平均3回(範囲は1~9回まで)、鼻咽頭スワブの採取を受けていた。2回目のPCR検査は、初めて陽性となった時点から平均14.7日(SDは10.4日)後に行われており、その時点でも陽性となった患者には、それから14.0日(SDは8.0日)後に、引き続き陽性だった患者はさらに9.2日(SDは4.1)経過した後に再検査を受けていた。

 主要評価項目は、診断または発症から、PCR陰性までの時間に設定した。初回陽性から10日後以降に行われた検査で陽性なら、さらに7日以上待って再検査し、陰性なら48時間後以降に再度検査して、ウイルス排除を確認した。

 1162人のうち、初回陽性から10日後以降に行われたPCR検査で陰性だったのは60.6%(1162人中704人)で、検査のタイミングは、診断からの中央値は30日(四分位範囲28~45日)、発症からの中央値は36日(28~45日)の時点だった。陰性判定後に48時間超の間隔で再検査を受けた患者は554人で、それらのうちの78.7%(436人)においてウイルス排除が確認された。この結果は、残りの21.3%の患者は、初回の検査結果が偽陰性だった可能性を示唆する。

 発症からPCR陰性までに要する日数は、患者の年齢上昇と共にやや増加していた。50歳未満の患者では35日(26~44日)、80歳超の患者では38日(28~44日)だった。また、重症度もPCR陰性までの日数に関係しており、入院しなかった患者では33日(25~41日)、入院した患者は38日(30~47日)だった。

 偽陰性の可能性がより低くなるPCR検査実施のタイミングを明らかにするため、初回の陰性結果を得たPCR検査が、発症から何日目に行われたかに基づいて患者を層別化し、再検査での陰性確認率を調べた。発症から10~14日の検査で初回陰性となった患者では、再検査での陰性確認率は42.9%で、15~19日では47.8%だったが、20~24日では75.0%、25~29日では77.4%、30~34日では80.0%、34日超では86.8%になった。

 これらの結果から著者らは、COVID-19から回復した患者に対して、鼻咽頭からウイルスが排除されたことを確認するためのPCR検査を急ぐと偽陰性が多くなり、時間をかけるほど検査の信頼性は高まることが示唆された。ウイルスの排出期間に関する理解を深めることは、無症状または軽症の患者を対象とする感染拡大予防においても重要だと結論している。この研究はAzienda USL-IRCCS di Reggio Emiliaの支援を受けている。